第35話 始動、サキ小隊 ②
クズル男爵という貴族の屋敷で、夜な夜な怪しげな明かりが漏れ出ている。
という苦情が、隣近所に住む貴族からあったらしい。
更にその時、妙な猫なで声まで聞こえてくるとか、一体何だろうか?
しかし、ここで問題が既に発生してしまった。勢い勇んで駐屯地を出て来たはいいが。
「ところでジャズ上等兵、貴様クズル男爵の屋敷の場所は知っているのか?」
「いいえ、存じておりません。自分はこの町の人間ではありませんので、ニール、お前は知ってるか?」
「え? 何が?」
まあそんな訳で、俺達サキ小隊はいきなり脱線してしまった。
どうしようかな。あ、そうだ。誰かに聞いてみよう。
「隊長、ここは衛兵か誰かに聞いてみましょう。」
「………まさか、こんな所に落とし穴があったとは。」
「…………俺ちょっと聞いてくるわ。」
「ああ、頼むニール。」
こうして、サキ小隊はしばらく待つ事数分。
ニールが情報を持ち帰って来た事で、前に進めるのである。でかしたニール。
「情報を聞いて来たぞ!」
ニールはこちらに駆け寄って来た。その顔はかなりのドヤ顔だった。
「でかしたニール、して、首尾の方は?」
「ああ、いいか、よく聞けよ。さっきそこで衛兵に聞いて来たんだが、その衛兵が言うには「男爵? 貴族が住む屋敷ならこの町の高級住宅街に行けばいいのでは?」だそうだ。いやーよかった。どうだ? ちゃんと情報を持ち帰って来ただろう。」
「………ああ、そうだな。」
「………ニール二等兵、兎に角お疲れだった。後は任せろ。」
「は!」
(ニール、その程度の事、既にこっちは気付いているんだよ。そうじゃなく、男爵の屋敷の場所が知りたかったんだよ。)
まあ、折角ニールが得た情報だ、有効に使おう。
サキ小隊は、このまま高級住宅街へ向けて歩みを進めるのであった。
途中、サキ少尉が服屋の前で立ち止まって、「5分休憩」と言ったので休憩した。
サキ少尉は服屋の前にズラリと並んでいる服を見ながら、休憩しているようだった。
5分休憩をして、サキ小隊は行動を再開した。
町中を歩く事数十分、ようやく目的地へと到着した。
高級住宅地だ。ここで更に入り口を見張っている衛兵に聞き込みをする事になった。
今度は俺の番だ。
「それでは聞いて参ります、隊長。」
「ああ、頼むぞジャズ。」
「しっかり情報を聞いて来いよ、ジャズ。」
(子供か俺は?)
高級住宅地の、出入り口の辺りで見張りをしている衛兵の元まで近づき、俺はまず挨拶を敢行した。
「こんにちは~、いい天気ですねえ。」
「ああ、これはアリシア軍の方、こんにちは。」
衛兵はちゃんと挨拶を返してくれた。
よし、ここで怪しまれないように一気に畳み掛ける。
「実はですね、今日ここにやって来た目的なのですが、ココ最近、この近所で怪しげな不審人物の目撃情報があったりなかったりしましてね、こちらも困っていましてね、我々アリシア軍がその調査に参った次第と言う訳なのですよ。ああ、ご心配には及びません。衛兵のみなさんにはご迷惑をお掛けしませんので、こちらの捜査にご協力願えると助かります。ああ、ところでクズル男爵の屋敷ってどこですか?」
「………………ああ、………クズル男爵様のお屋敷ならあそこ、あなたの目の前にある建物がそうです。」
「そうですか、どうもご親切にありがとうございました。それでは自分はこれにて失敬いたします。では。」
(よーし! 情報を入手できたぞ! 早速サキ小隊に戻って報告だ。)
俺はこの場を後にして、サキ小隊が待っている場所まで、怪しまれないようにゆっくりとした足取りで向かった。
大丈夫、衛兵には気付かれていない筈だ。
サキ小隊に戻って来た俺は、サキ隊長に自分が得た情報を報告した。
「サキ隊長、やはりここが目的地で違いありません。ほら、あそこ、あの建物がクズル男爵の屋敷みたいです。如何致しましょう?」
「よーし、でかしたジャズ。あそこの建物がクズル男爵の屋敷だな。よーし、早速向かうぞ。いいか! 抜かるなよ!」
「「 了解! 」」
こうして俺達サキ小隊は、クズル男爵の屋敷の場所を特定し、準備も万端で屋敷へと向かった。
途中衛兵に「こんにちは~」と挨拶されたが、怪しまれない様にこちらも全員で「「「 こんにちは~ 」」」と挨拶を交わした。
よし、怪しまれていない。このままゴーだ。
クズル男爵の屋敷の前までやって来た。
俺達サキ小隊は、まず、玄関の様子を確認し、不審な点が無い事を確認して、玄関ドアをノックして返事を待つ。
待っている間も警戒は怠らない。周囲を観察する。
しばらくして、「はーい、どちら様でしょうか?」との返事が返ってきた。
俺達はしばらく黙って、相手が玄関のドアを開けるのをじっと待つ事にした。
そして、玄関のドアがガチャリと開いて、中から女給の人が出て来た。
「あの~、どちら様でしょうか?」
ここで、サキ少尉が代表して挨拶をした。
「突然の訪問、恐れ入ります。我等はアリシア王国軍クラッチ駐屯軍のブラボー中隊所属、サキ小隊の者です。実はご近所さんのある苦情がございまして、クズル男爵様のお屋敷を調べたく思い、ここまで参った次第であります。失礼ですが、男爵様はご在宅でしょうか?」
「まあ、軍の方でしたの、ご主人様でしたらこちらに居ます。ご案内致しますので、どうぞ中へ。」
「は! 失礼致します。よし、お前達、私の後に続け。」
「「 は! 」」
ふーむ、なんかすんなりと屋敷の中へ入れて貰えたな。
もっとこう、色々と一悶着あると思っていたのだが、意外と警戒されていないという事かな?
俺達サキ小隊は、こうして屋敷の中へと侵入出来た。
警戒は怠らない、周りをくまなく見る。どうやら大丈夫そうだ。
このまま応接室まで案内された。しかし。
「こちらで少々お待ち下さい。今ご主人様を呼んで参ります。」
そう言って、女給の人は部屋を出て行った。特に怪しげな態度や表情ではなかった。
この部屋全体を見回す、特にこれといって怪しい感じではない。
ソファーにテーブル、調度品など、特に変わったところは無かった。だが。
「隊長、この部屋ではありませんね。」
「どういう事だ? ジャズ上等兵。」
「この部屋から隣の部屋は覗えません。例の怪しげな明かりが漏れているという部屋はここでは無いという事になります。」
俺の意見に、サキ少尉は腕を組み、考え込みながら俺に聞き返してきた。
「と、いうと何か? ここでは無い別の部屋が怪しいと言いたい訳か、ジャズ上等兵?」
「はい、おそらく、何らかの事柄を隠していると思われます。」
「うむ、解った。取り敢えず我等はこのまま待機し、様子を伺い、クズル男爵と接触してから話を聞く。まずはそんなところだ。いいな、余計な事は言うなよ。私が男爵に対応する。勿論貴様らは警戒を怠るなよ。いいな!」
「「 はい! 」」
そして、次の瞬間、扉がガチャリと開き、一人の男が入室してきた。そして、開口一番、こう言った。
「やあ、どうもお待たせしました。私がクズルですが、貴方方は一体どの様なご用件で我が屋敷に参ったのですか? ところで、そちらのお美しい女性はどちら様ですかな?」
いきなりだ。いきなりサキ少尉を口説きにきた。
貴族ってのは大体こんな感じなのかねえ?
「初めまして、私はサキと申します。一応軍属です。今日お伺いしたのは他でもありません。ある苦情がもたらされたのでこの屋敷を調べに参りました。我々の勝手な振る舞いをどうかご容赦願います。」
(サキ少尉は、ど直球で目的を告げた。さて、男爵の反応は?)
「はっはっは、そうですか、苦情があったのですか。いや~、参りましたねえ、私の趣味がまさか誰かにご迷惑を掛けていたなどと、思いもしませんでしたよ。」
ほーう、こちらの目的を聞いて、まるで予想していたかの様な反応だな。
やましい事が無いと言いたげだな、もしくは隠し通せる自信があるのか?
さて、どうなるこの一手。




