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祓火の番 ―火種は怪異の死骸、灯火は己の命。常冬の帝都に沈む謎を、ハズレ者が焼き尽くす―  作者: ミスミシン
第一章 常冬の帝都と、焼き払う灯火

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第九話 赤の喪失、白い双眸

 神風(かみて)さんの灯守(とうもり)が殺されたのは、神風さんが当主になってすぐのことだった。

 今まで戦闘の中で命を落とした灯守は数あれど、人間の謀略で殺されたのなんか一人もいなくって。

 だからこそ、その一報を受けた他家の衝撃は物凄かった。

 和穗はまだ幼いと言っていい年齢だったし、俺とハルも信じられないものを聞かされたという心地で。


 俺が「(つがい)を喪った片割れ」を見たのも、神風さんが初めてだった。

 番が(とばり)先生だったからか、俺は戦いの中で死んだ灯守というものも見たことがなかったんだ。

 だからその時まで、番を失うということがどういうことなのかも、理解していなかったと思う。

 いつもはシャンと背筋を伸ばして着物の裾も、指先までもピシッと整っていた神風さん。

 そんな彼が、立ち上がることもできずに呆然と喪主の座に座り込んだまま顔を上げることもできないでいる姿なんて。

 涙を流すこともできずに、凍りついたかのような表情で震えている姿なんて、初めて見たのだ。

 見てはいけないものを見てしまったと、その時の俺は、強く思わされた。


 神風さんの灯守が殺されたのは、神風家との番を輩出する家の権力争いだったと聞く。

 当時の神風さんの灯守はそういう特別な家の出ではなく、神風さんと灯守が互いに認め合って番の契約を結んだ相手だったという。

 それが正しい刀主と灯守の番の姿だ、と、先生なら言うだろう。

 けれど神風家にとって彼らの契約は「想定外」のものであり、本来彼の灯守になる予定だった候補者とその家は大層怒り狂った。


 灯守は、「灯守の家系」なんてものがあるわけではなく、刀主と灯守が「そう」と理解して番になるものだ。

 特別な条件なんかはない。

 ただ本能的に、直感的に、互いを選ぶ。

 けれど中には「灯守を数多く輩出すること」にこだわる家があり、歴史を大事にする保守派の神風家はそういった「良いお家」と(つが)うことを誇りとしていた部分はあるらしい。

 良いお家の出身でも、歴史ある家の出でもない俺にはそういうのはよくわからない。

 

 けれど、あの葬式の時に、嫌でも理解させられた。

 家が望まない番契約の末路を。

 本人たちが望んでも「家」が認めなければ、命というものはこうも簡単に刈り取られてしまうのだということを、知ってしまった。

 だから俺は未だに、明神の家を俺が継いでいいのだろうかという気持ちがある。

 直系ではないとしても、明神の血族の中には反発する者がいるんじゃないのかと。

 もしもそういう意識を持っている者がいた場合、排除されるのが俺ならばまだいい。

 けれど、もしも神風家のように灯守に──帳先生に余波が及んでしまったら?


 俺は、ただ黙って俯いているだけで終えられるだろうか?


「あ、あの……明神様。これ、直紹(なおつぐ)様が……」

「あぁ、ありがとう」


 ぼんやりと己の拳を見つめていると、書付が終わったのか、日向子が俺の前に座して頭を下げた。

 一体何かと思えば、神風家から出せる刀持ちと白服の人数を記したものだった。

 その横に、付記として書かれている全体の数字よりも小さい数字は、神風さんが個人的に動かせる人数だろう。

 その数は、全体数の3割にも満たない。


「ありがとう、日向子。戻っていいよ。羊羹食べな、旨いぞ」

「は、はい!」


 俺が書付を受け取ると、日向子はパッと顔を輝かせて神風さんのところに戻る。

 けれど、神風さんは彼女が戻ってきた気配にさえ、ぴくりとも動かない。

 いつも細く伏せた目を、ちらりとも上げずにただ己の膝に乗せた手の先だけを見つめている。

 まるでそこに最初から誰もいないかのように、2人の間には微妙な距離があって、日向子もぎゅっと手を握ると黙って彼の隣に腰をおろした。

 

 あれ以来、神風さんはこうしてたまに他者と壁を作る時がある。

 閉じこもる、と言うべきだろうか。

 それが燈老(とうろう)の誰かだろうと、刀主仲間であろうと──灯守であろうと、全てを切り離す。

 さっきまで、日向子の前に茶と菓子を並べてやる余裕もあったのに。

 今は全てを切り離してしまったかのように、ぼんやりと俯いている。


 2人の間に開いた距離は、そのまま神風さんに残された心の傷、なんだろう。

 深く鋭く、夜住に与えられた氷の一撃を受けたかのように、その傷は鈍く白く凍ったままなのだ。

■簡単な用語メモ


刀主

 火族四家と呼ばれる帝都のなんかすげぇパワーを持った一族の当主や次期当主を示す言葉。代々の当主は特別な刀を受け継ぐため、「とうしゅ」という言葉に繋げてこう呼ばれる。


灯守とうもり

 刀主の刀に灯火を宿す事の出来る特別な人間。火種の特別な力を操る「祝詞」を使える者のみが任命される。刀主とは違った別の権力を手に入れられる。それゆえに競争率が高く、陰謀の火種になることも。


刀持ち

 いわゆる一般兵。普通の侍。武器は刀だけではない場合もある。各家の特色が出る。


煤祓い

 夜住が残した煤を回収して火種に与える役目がある人。全身真っ白な服を着ており、煤が身体に付着しないよう細心の注意を払っている。


夜住よすみ

 人の怨念や呪詛、悪意などが集まった呪いや怪異がさらに進化したもの。

 通常の怪異は妖怪であったり呪いであったりと呼ばれるが、夜住になってしまうと刀主にしか対処が出来なくなるので少々厄介。夜住になるまでに倒すのがベター。

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