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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第八章 今際の際

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第八十六話 有利、不離

 パチパチと音をたてる炎に包まれているのは、間違いなくあの女のはずだ。

 俺の眼は間違いなく、炎の奥の『深神霧子』をとらえている。

 なのに、炎に包まれた身体は一瞬しか揺らがず、背筋を真っ直ぐに伸ばしている。

 武人らしい、刀を持つ者の姿勢だ。

 俺は着ていた羽織を直紹さんの身体にかけると、そのまま数歩後退して先生に合流する。


「あはは……あはっ、ははははははははっ!!!」


 笑い声は高らかで、この地下の空間すべてを揺るがすほどに、大きい。

 炎の熱で揺らめいてはいるものの、声帯が焼けているような様子もなく、ただただ笑っている。

 直紹さんが不安げに俺の腕を掴んで、先生がいつでも術を放てるように片手を前に向けた。

 炎の隙間から見えたのは、焼ける肌でも燃える服でもない。

 こちらを睨みつけ、笑う目と、やけに真っ赤に見える唇だ。


「やだ、今の明神ってこの程度なの? あんまり可愛くって笑っちゃったわ」

「なっ……」

「もっと刺激的なものをちょうだいよ、ねぇ?」


 炎が、眼の前で霧散していく。

 まるで霧子の背後から水でもぶち撒けられたような消滅の仕方に、俺はハッと息を呑んだ。

 相性が悪い。

 俺の使う炎は、決定的に、あの女の霧や水といった水分を含んだ術力に弱かった。

 

 冗談だろ、という言葉が喉に引っかかる。

 火族四家における術力の属性というものを、俺はあまり意識したことがなかった。

 和穂たちは壁、すなわち結界を構築する術を得意としているとか、直紹さんの術力は風の力が強いとか。

 その程度のことは勿論知っているけれど、でも、そのくらいだ。

 だって今までは、火族四家の中で敵対し合うなんてことなかったし、想定もしていなかった。


 木火土金水に、地水火風。

 属性と呼ばれるものは様々あるけれど、火はいつだって水と対局だ。

 知らなかったわけじゃない。

 理解していなかったわけじゃない、のに。


 霧子が一歩、近付いてくる。

 炎は、もう身体のどこにも、残っていない。


『刹那の瞬き、其れすらも遅滞っ! 無明の(くう)を埋め尽くし、遍く影を断ち切れっ!!千白刃(ちはくじん)! 』


 霧子の動きを察知してか、先生が即座に両手を前にかざして術式を唱えた。

 瞬間、地下空間を真っ白な光が埋め尽くし、空間から切り出されたような白い刃が四方から霧子を襲う。

 しかし霧子は、白く埋まる視界の中でも四枚の光の刃をヒラリと回避しながら、背負っていた長柄太刀を抜いた。


『穢れし視界を正すに、慈悲の二太刀は不要っ! 天地開闢(てんちかいびゃく)、白き断罪の一閃っ!』


 だが、先生もまたそれを読んでいる。

 前に突き出していた右手の人差し指と中指で、刀を振り払うように空を切る。

 白で埋め尽くされていた空間は、先生の動きに呼応するように再び裂けた。

 今度は、大きい。

 まるで断頭台の刃のようなそれが、さっきの四枚の刃を回避した霧子の頭上から凄まじい質量をもって落ちていく。


「明神、君も行けっ」

「でも」

「行きなさいっ、その刀は、炎を宿すためだけにあるんじゃないだろう」


 俺達の背後で、先生の光の刃が地面に落ちる。

 俺は、即座に直紹さんの手を離して石の床を蹴っていた。

 そうだ、炎にこだわっている場合じゃないと、なんで言われなければ気付かなかったのだろう。


 先生の白い光が薄れていく視界の中で、霧子が太刀を構える姿が見える。

 先生の術式をどっちも回避したのか。

 なんだかイラついて、両手で刀を強く握って霧子までの距離を詰める。

 白い光は、最早邪魔になんかはならなかった。


『迅風天駆っ!!』

「っ!」


 一歩、前に足を踏み込もうとした瞬間に、足の裏に風が乗ったようにグンと速度が上がる。

 霧子が一瞬眉を跳ね上げ、俺も崩しそうになった体勢を風に食らいついて立て直した。

 霧子の太刀が俺に当たるよりも前に、その懐に潜り込む。

 直紹さんの、風で味方の速度を上げる術式。

 いざ背を押されてみれば、その速度は驚くほどに──速い。


『直視は不敬ぞ』


 さらに、嘲笑うような先生の声が聞こえて、俺と霧子の視界の間で眼を焼く激しい光が弾けた。

 人間は、明るさで瞳孔の収縮が起こる時間というものが少なからずあり、霧子はほんの一瞬だけ、目を閉じた。

 だが俺は眼を開いたまま、光に邪魔されずに踏み込んだ一撃を放つ。

 オロチの眼は、ただの光なら先生の術式すらも無効化させるものなのか。

 刃が霧子の腹部に食い込む感触に、無意識に口角が上がる。

 

 ゴリ、と刃を弾いたのは、おそらくは肋骨だ。

 その硬さに、即座に刀を引いて地面を蹴る。

 あの女、わざと骨に当てて内臓への損傷を最低限に留めた。

 この速度での一撃を食らう直前にそんな動きをするとは──流石、長く当主をやっているだけはある。


「いったいわねぇ」

「刺激的だろ?」

「ふふ、まだまだ絶頂には程遠いわよ、坊や?」


 霧子の傷からは、血は出ていない。

 その不気味さに無意識に片足が一歩下がるが、踏みとどまる。

 血が出ないのなら、血糊や煤を振り払わなくていいから、刀を振っていられるじゃないか。


「にしても……やっぱ邪魔ね、あいつら」

「2人には手を出させない」

「あらあら素敵ね。女の子だったらその言葉だけで恋に落ちちゃうんじゃないかしら」


 霧子の言葉は軽くて、少しも心に刺さらない。

 本音なのか、ただ時間を稼ぎたいのかすらも、ハッキリしない。

 だが今、有利なのは確実に俺の方だ。


 1人、刀を持つ者が居る時に背後にそれを支える者が1人居るだけで、戦いは圧倒的に楽になるという。

 俺の場合は、2人。

 それも、術式を得意とする刀主2人が背後に居るのだ。

 負ける気がしない。


 この時は、そう、思っていた。

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