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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第七章 進撃

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第七十八話 暗野疾駆

 旧坑道の中は外よりは少しあたたかいけれど、それも「比較的」の話だ。

 地面から染み出している水分のせいかザクザクと霜の音がするし、時折天井から落ちてくる水滴が皮膚にふれると痛いほどに冷たい。

 頭頂部なんかに水滴が落ちてきた時なんか、思わず変な声が出た程だ。

 角灯の火種を使って火をおこすと、それも少しだけマシになる。

 馬たちに馬着をかぶせて汗を拭き、鼻を鳴らして首を振る身体からの湯気に少しだけ触れる。


 焚き火が照らす範囲には、どうやらこの中にはランプのようなものはないようだった。

 唯一、部屋の隅の樽の上に置かれていた古ぼけた角灯の表面を払って、焚き火から火を移す。

 ジジジ、と音をたてて明かりの灯った角灯は、馬たちにも支障がない程度には空間を照らし出した。

 それを見て、俺も先生も、動くのに邪魔になる防水外套を馬の荷物入れに入れる。

 動きの邪魔にならない外套だけでは寒いけれど、あたたかさを優先した結果動けなくなっては意味がない。


「よーしよーし。お水あったまったからバケツに入れとくよ」

「ここに置いていって大丈夫でしょうか」

「前もここに置いてったから大丈夫だと思うよ。僕が戻らなかったら、自分で屋敷に戻ってきてたみたいだし」


 かつて同じ場所に来たことがあるからの言葉に、俺は黙って頷いた。

 ()に戻ってきた所を確認していないのは、オロチとの戦いで負傷した先生がしばらく俺の家で療養していたからだ。

 五家のどこかの家に戻った時に、先生は無事に家に戻っていた馬を見たのかもしれない。

 それはどれほどか、安心したことだろう。


 先生は常々『本を読んでて動物が死ぬと凄く嫌な気持ちになる』と言っている。

 『人間ならいくら死んでもいいけど、動物は嫌』と、動物が死んでしまう本を読んだのか頬を膨らませていたものだ。

 子供の頃の俺にしてみれば、人間が死ぬのも動物が死ぬのもどっちも怖い、でしかなかったが、先生の中では大事な一線なんだろう。

 もうちょっと、人間にも優しくしてあげてほしいものだが。


「んじゃ、奥進もうか」

「はい」

「この先に隠し扉があって、その先からは多分夜住も出る。けど、洞窟内だから抜けるまでは炎の術は禁止ね」

「うっ……じゃあ、広さはどのくらいですか。刀振れます?」

「んーと。降りきれば広かったけど、横道はどうだったかなぁ……」


 炎の術式も使えず刀も振るえず、となったら俺はただの役立たずでしかない。

 先生も言ってから気付いたのか、軽く指を舐めてから俺の目線の高さくらいに持ち上げた。

 風の流れを探しているのだろうが、結局隠し道に入ればそこは閉ざされてしまうのでは。

 狭い中で炎の術式を使えば、あっという間に呼吸が出来なくなってしまう。

 直紹さんのように風の術式を得意にしていれば炎も流せるかもしれないが、俺にはその辺の加減は無理だ。


 先生は「うーん」と唸ってから、おもむろに壁に手を当てた。

 ボコっと音をたててそこが凹んだのにも驚いたが、より驚いたのはその狭さだ。

 先生は屈まずに入れるくらいの高さだが、俺にはどう足掻いたって無理。

 多分、先生のあたま一つ分くらいは屈まないと先に進めそうになくて、俺は無言で懐刀に手をやった。

 腰を曲げた状態で太刀を抜いて戦うのは、流石に無理がある。


「……目が見えたらソウちゃんの面白いカッコ、見れたのに」

「俺は今初めて先生が盲目でよかったって思ってます」


 ひょこりと頭を下げて、苦労しながら先に進む。

 角灯を前に掲げて歩く先生は、時折ニヤニヤしながら俺を振り返った。

 本当に、本当に先生がこの姿を見れないでよかった。

 先生が盲目と知った時は衝撃だったが、この瞬間だけは見られなくてよかったと思う。

 それほどまでに、俺の今の格好は情けない姿だろう。


「わかりました、先生。駆け抜けましょう」

「走るの?」

「刀を持ってない方の手で壁に触れていれば、直線かどうかわかるでしょう。この狭さじゃ刀も術も無理です。なら、駆け抜けたほうがいい」

「いいね! じゃあ走ろうか、ソウちゃんの腰が壊れないうちに!」

「やめてください……」


 オロチと戦う前にこんな所で腰を壊したら、おそらく向こう300年くらいは笑いものにされる気がする。

 それならいっそ、馬のように四つん這いになって走ったほうがいいのだろうかと思ってしまう程だ。

 だが、とにかく走って抜ければ先は広いのだ。

 過去を視た時に霧子と先生が戦った場所がオロチの居る場所なのだとしたら、地下と言っても天井も高く、両手を広げても壁には手が届かないはず。


 俺は、懐刀を戻すと先に走り出した先生を追って腰を曲げたまま走った。

 先生も壁に手を当てて、その土の感触を頼りに先に進んでいる。

 どのくらい走ればオロチの所にたどり着くのか。

 先を行く先生が万一夜住に襲撃されないように注意を払いながら、俺はとにかく真っ直ぐ進んだ。


 その足元が抜けたのは、本当にいきなりだった。

 先生の白い背中が、一瞬揺らいだ──と、思った瞬間に、一歩踏み出した足の先が、消える。


「お」

「おぁ!?」


 情けない声をあげて、身体がふわりと空中に投げ出される感覚に、背骨を直接触れられたようなぞわっとした感覚にうなじの毛が逆立つ。

 俺は咄嗟に先生に手を伸ばして腕を掴むと、舌を噛まないようグッと歯を食いしばった。

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