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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第七章 進撃

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第七十五話 ぶっ壊す

 広間に集まっていた刀持ちたちの目に、迷いはなかった。

 家は関係なく、動ける者はみな動く覚悟でいる。

 きっと、彼らをここに集めてくれた女中や家人たちも同じ覚悟なのだろう。

 襷掛けをし始めた彼らを横目にして、俺はまだ俺の羽織を握っている先生の背を叩いた。


 冷たい背中だ。

 子供の頃にはあんなに大きくて、あったかくて、強いと思っていた背中。

 でも今は、冷たくて、小さくて、時折頼りないとも思ってしまう。

 俺がデカくなったからだけじゃない。

 この人だって、支えてくれる人が必要だという、それだけの事だ。


「家の皆さんは、避難してくる市民たちが少しでも暖かく過ごせる場所を作って下さい。倉でも、修練場でも、どこでもいいですから」

「はい!」

「火鉢を全部出しますっ!」

「お湯を焚いて、あたたかい飲み物を用意しますっ!」


 正直、家の中に市民を受け入れてしまえば、〝深神紋〟を入れてしまう危険性がある。

 けれど、市民の数は〝深神紋〟よりもずっと多いのだ。

 少ない懸念のために、大勢の市民を危険に晒すわけにはいかない。

 先生が今夜が勝負だと言うのなら、今夜とにかく市民を守ることを考えなければ。


「刀持ちのみんな、聞いてくれる」


 先生の声は、思ったよりずっと小さかった。

 一歩後ろに隠れていた足を前に出して、腰にはいつの間にか白い刀を佩いている。


「僕は、今目が見えないんだ」

「……先生!」

「神守はもう火種がないし、この身にはこの帝都と同じ氷冷の呪いを受けてて……正直いつ身体が凍りつくかなって、わかんない」


 呪いの元凶が、どんどん僕の体温を吸ってるからね。

 肩を竦めてそう言う先生に、刀持ちだけじゃなくこの場に残っていた女中たちも息を呑んだ。

 先生が今の灯守と当主の中で一番強いというのは、誰もが知っている事実だった。

 俺達だけじゃなく直紹さんだって先生の稽古を受けていたことがあるし、刀持ちたちの中で先生の実力を知らない者はきっと居ない。

 その「最も強い存在」の弱味。

 もしここに裏切り者が居たならきっと、言い出せなかっただろう隠し続けた事実。


「でも……」


 先生は言葉を止めて、少しだけ息を吸う。

 俺も、みんなも、ゴクリと生唾を飲み込んで先生の言葉の続きを待った。


「しょーーーじき、目が見えなくても誰にも負ける気がしないんだよね」

「……ん?」

「僕が最強なのは変わらないし、家はないけど明神の灯守として火種を預かって、ぶっちゃけ1人で戦ってた時よりも百人力って感じ! だから、」


 チリン、チリン

 先生が動くたびに鈴の音がして、一番手前に居る刀持ちがグッと唇を噛んだのが見えた。

 一番手前に居るのは確か、神風家の分家の、若い衆だ。

 俺達にとってしてみれば、深神に取り入られなかった数少ない「神風」。


「だから! なんか強い夜住とか、敵とかが来たら遠慮なく任せて! みんなの使命は直紹と、この家と、市民の死守! 出来ないことはしなくていい。僕が全部請け負う」


 チリーン……

 先生が一歩、前に出るたびにチリチリと鈴が音をたてる。

 刀持ちたちはみんな頭を下げて、腰や背に預かった刀をぐっと掴んでいた。

 俺も、腰の刀に触れる。

 

 本来刀持ちは、夜住と戦う必要のない戦闘職だ。

 夜住が市民を攻撃しようとするのをさばき、市民が逃げる道を作り、刀主たちに繋ぐ者。

 だから、敵が人間だろうとかつての同胞(はらから)だろうと、出来ることと出来ないことを選んでもいい。

 先生はそう言いたいんだ。


「んでもって、僕よりもソウちゃんはもっと戦う!」

「はぁ……」


 俺は、先生が本当に不安な時にちょっとおちゃらけることを、知っている。

 みんなの緊張をほぐそうとする時もあるし、自分の不安を隠そうとする時だってある。

 ……最近は、そのおちゃらけに俺を巻き込んでくれるのは、少し嬉しい。

 きっとそれを言うと先生はまた1人でおちゃらけるに決まっているので、本人には言わないけども。


「そういうことだ。刀持ちたちは市民の避難に集中してほしい。もしも夜住が発生したら、照明弾を打ってくれ。班単位じゃなくて、全員携帯必須」

「あ、無視されたっ」

「白服たちは灯楼の火種を領地の各所の街灯に追加して、煤があれば少しでも持ち帰ってくれ」

「はっ!」


 あえて道化を演じる先生を無視すれば、刀持ちたちに少しだけ笑顔が戻った。

 これを狙っているんだとしたら、俺はきっと一生先生に勝てないだろうなと思う。

 

 もうすぐ、日が落ちる。

 外はもうすでに雪が降っていて、空の暗さから判断するに、吹雪になるのもそう遠くはないだろう。

 明神の領地を捨てるつもりはない。

 今までずっと守ってきた場所だ、そんなこと出来るはずがないんだ。


 けれど、明神の灯楼はもう倒れてしまったから、灯楼の残っている場所に市民たちを避難させるのが最優先だ。

 全員守れるとは思っていない。

 この寒さの中で移動出来る者も、そう多くはないだろう。

 若者ならばともかく、年寄り子どもは雪が降っているだけで外に出るのを忌避するものだ。

 俺達だって、今までは「吹雪になる前に家にこもれ」と言っていたのだから、この段階で避難しろと言うのはいつもと逆で。

 それでも、動いてもらわなければ。


 動かなければ。


「えーと、刀持ちの警邏班長居るよね? 避難所に出来そうな所を選んでそこもあたためてほしいな。白服、火鉢持っていける? 重いけど」

「わかりましたっ」

「持ちますっ!」

「避難所は出来るだけ神風屋敷の近くで。警察や病院なんかには後で連絡入れるから、そこ優先で集めていいよ」

「はい!」


 刀持ちたちの肩から力が抜けたと見るや、先生が指示を飛ばし始める。

 神風屋敷は、直紹さんが治療術の使い手であることもあって周囲に病院や診療所が多くある。

 こんなに集まってて意味があるのか? なんて思っていたこともあるけれど、避難所に出来るならばちょうどいい。

 俺は近くに居た女中たちにも声をかけて、この広間は直紹さんの休んでいる部屋には近すぎるから刀持ちたちの治療部屋にすると指示する。

 変わりに、普段の治療室は市民たちに解放だ。

 

 それから、とにかく倉から使っていない布団や防寒着を引っ張り出すようお願いした。

 夜に刀主たちと行動する刀持ちたちはともかく、市民たちは高級な防寒着すら持っていない家もあるからだ。

 帝都には未だに、貧富の差が根強い。

 文明開化後あまり目立たなくなっただけで、覆いを外せば中身は知れたものだ。

 神風屋敷の近くに病院や診療所が多いのも、いざという時には政府という枠組みを外して火族が手を出せるようにという側面もあるだろう。

 警察からは嫌がられることも多い治外法権持ちの火族は、こういう時には強い。


「よし、行こうっ」


 号令を出すと、全員がバッと部屋から散っていった。

 あんなにもぎゅうぎゅうだった部屋が一気にガランとして、しかしすぐに女中たちが広間にも火鉢を置き始める。

 治療部屋から持ち込んだ治療道具もいつでも使えるように置いて、綺麗な広間が一気に消毒臭くなった。


「先生。今更ですけど、なんで明日霧子が動くってわかるんですか?」

「んー? そりゃ、直紹にかかってた術が解けたからねぇ」

「……あの、意識が朦朧とするやつですか」

「アレって相当厄介な手合だよ。記憶の消去に幻惑に……よくわかんないけど、いろんなのをぐちゃぐちゃに混ぜて使ってたんだと思う」


 下唇を尖らせて、先生が広間に背を向けた。

 向かう先は和穗たちも居る直紹さんの部屋ではなく、俺があのクソジジィを斬った部屋だ。

 あそこにはまだ、掃除しきれなかったクソジジィの煤が残っているはず。

 俺の火種は直紹さんの所に居るが、白服に煤を集めてもらって灯楼に入れて、少しでも燃料を追加しておかないといけない。

 あんなクソジジィでも、俺達が生きるための火力には、十分なる。


「あのオッサンも、霧子の仕込みでしょ。夜住になるまで負の感情を固めたのも、きっとそうだ。霧子は、自分の手で夜住を作る実験もついでにしてたんだと思ってるよ、僕は」

「人の手で夜住を作るなんて、出来るんですか」

「人間の感情を好きに出来る深神なら、出来るんじゃないの。じゃないと、あのオッサンが夜住になった理由がつかなくなる」


 霧子が仕込んでいたものの気配は、霧子にも通じる。

 先生の言葉に、俺も苦々しい顔になってしまった。

 あのジジィが死んで、夜住になって、直紹さんの術が解けた。

 同じ火族四家の中に仕掛けたものが消滅したのを感じたなら、霧子は「次の手」を打つだろう。

 霧子を良く知る先生だからこそ分かる判断材料に、俺は凄く嫌な気持ちになった。

 

 あの優しかったお姉さんを畏れなければいけなくなるなんて、思っていなかったからかもしれない。


「アイツは僕が大好きだからね。アイツの思惑、全部僕がぶっ壊してやる──ってわけで、僕らは先にオロチのとこ、行こう!」

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