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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第七章 進撃

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第六十八話 覚醒、陰謀

 翌日──


「これは、どういう状況だ?」


 ようやく目を覚ました直紹さんの第一声は、それだった。

 目にまだ力はないものの、昨日までのような光のない目ではなく、ハッキリと意思がある。

 直紹さんは起き上がるのも億劫なようではあったが、背を支えるとなんとか布団から身体を起こす。

 彼は、何故自分が布団で寝ていたのか、今日が何日で何があったのか、まったくわからないようだった。


「深神か……」


 ボソリと呟いた先生の言葉に、俺は無言で頷く。

 和穗は今、神風家の家人たちの中に「深神家の家紋」がついている者が居ないかを探しに行っている。

 和穗とハル、葵。それから、刀持ちの何人か。

 彼らは、俺が切り落としたクソジジィの首に深神の家紋が刻まれているのを見るや激怒して、夜を徹して動き回っている。

 俺と先生を休ませてくれたのは、術を使った影響を考えてのこともあるだろう。


 特に葵の激怒は凄まじく、鶯張りの廊下が鳴かなくなるほどに強く踏みつけて出ていった。

 本当は直紹さんの様子を見守りたかっただろうに、それ以上に強い怒りだったんだろう。

 だがそんな様子も、直紹さんはさっぱり覚えていないと言う。


「どこまで覚えてます?」

「……日向子が逃がしてくれた所までだ」

「灯守の守護が無くなるまでかー」


 なるほどな、と頷く先生に、俺も頭を抱えるしかない。

 先生は、直紹さんが日向子を喪い灯守の守護を失った途端、彼の中に潜伏していた深神の術式が発動したのだろうと言う。

 恐らくはずっと前から仕掛けられていたのだろう、直紹さんの意識を奪う最悪の術式。

 きっと、幼馴染みだった灯守が彼をずっと守っていたから直紹さんは今まで無事だったのだろうと思うと、灯守という存在の重さを思い知る。


 だが、術式の種はきっと、あのクソジジィだ。

 あのクソジジィが霧子から術式を借りて、直紹さんに仕掛けていた。

 だから、アイツが死んだ途端に直紹さんは意識を取り戻したのだ。

 やはりあのクソジジィの遺した煤は、火種に食わせずにおいて正解だった。

 あんなものを食わせたら、火種が汚れてしまうかもしれない。

 そんなことは有り得ないとわかっていても、ついそう思うほどには、不愉快な男だった。


「マジでキッショいなぁ、あのおっさん」

「帳さん、口が悪いですよ」

「君の問題だったんだよー直紹ー?」

「……すみません」


 思わず、といった具合に先生の言葉遣いを注意した直紹さんの頬を、先生がつつく。

 直紹さんは口が悪いと言うが、俺としては先生に完全同意だ。

 どこの伯父が、実の甥っ子の意識を奪って喜ぶんだ、まったく。


 だが、直紹さんが思ったより元気そうなのは良かった。

 相変わらず貧血気味なのか顔色は青白いが、何も言わず動きもせずの昨日までよりずっといい。

 あのオッサンに殴られたり首を絞められた痕跡も先生が治癒したし、あとは元気になってもらうだけだ。


「んで、直紹は霧子に狙われる心当たり、なんかある?」

「あると思いますか?」

「思わない!」

「……私も、心当たりはさっぱりです。神風の血、というくらいしか」

「ですよね」


 俺が頷くと、直紹さんも申し訳なさそうな顔で肩にかけていた羽織を直した。

 その手を、俺は思わず掴む。

 射手らしい、筋張ってタコのある手首と指先。

 剣士である俺とはまるで違うその手の──少し奥に、見過ごせないものがあったのだ。

 驚いて顔を上げた直紹さんが困惑しているのをよそに、俺は彼の袖をゆっくり上げていく。


「直紹さん、これ、なんですか」

「え」


 言われて気付いた、という表情で、直紹さんも己の肘の内側を見る。

 そこには、まるで何度も注射針を挿したような、何度も虫に刺されたような、そんなぼつぼつとした何かがあったのだ。

 中には内出血が出来て青く腫れている所もあり、その有り様に直紹さんも仰け反って驚いている。

 先生は見えないから状況が分かっていないようだが、明らかにそれは、異質な痕跡だ。


 この帝都が寒くて、彼に近い存在であった先生の目が見えないからこそ気付かれなかった、何か。

 直紹さんはおそるおそるにその謎の内出血に触れて、所々にある小さな穴のようなものに目を見開いていた。


「知らない……こんなもの、私は……」

「なに、どしたの?」

「注射針っぽい何かをめっちゃ刺したみたいな針痕が残ってるんです。神風さんの、内肘に」

「なにそれ……」

「注射なんか、していない。こんな、青痣になるような、そんなのは……」

「医者に聞いても?」

「勿論だ」


 困惑の表情で己の内肘を見る直紹さんをなだめるように、先生が背中を撫でる。

 当人に気付かれずにこんな痕跡を残せるなんて、虫だとしてもそうそう有り得ないだろう。

 だとすると、何かが──誰かが意図的に彼に何かを投与したか、逆に奪っていったということになる。

 それが貧血の原因だとするなら、なんのために?


 神風家の中に浸食しているかもしれない深神の影と、直紹さんの傷の謎。

 折角ひとつ問題を解いても、またいくつも問題が出てきて重なっていくような感覚に、溜め息が出る。

 だが、霧子の狙いが直紹さんだということはこれで確定したと言ってもいいだろう。

 それであれば、あとは降りかかる火の粉を振り払うだけだ。


 俺は、怒りでしっとりとしてしまっている手を、膝の上でぎゅうと握りしめた。

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