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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第六章 赤き眼、白き反撃

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第五十七話 火種、夜闇

 誰もが無言のまま、動かない。

 呆然と座り込んでいる神風さんは顔を上げる事もせず、ただ地面についた手を見つめている。

 どこからか夜住(よすみ)の唸り声が聞こえてくるが、日向子たちの気配は感じない。

 恐らくはまだ神守の敷地内に居るのだろう事は分かっているけれど、逆に言えばそれだけだ。

 ここからどうやって進めばあの封庫に戻れるのかも、日向子がどういう状況なのかも、わからない。


 ただ、震える神風さんにせめても羽織を掛けてあげようと屈んだ時に見たものに、息を呑む。

 神風さんの赤い瞳が、ジワジワと黒くなりはじめていた。

 灯守を得た刀主の証である、赤い瞳。

 火種を象徴する色の瞳が、元の真っ黒な瞳に戻りつつある。

 俺は咄嗟にその頭を抱えこんで、神風さんの目を外から遮断した。


 何の意味もないことは、わかっている。

 けれど、また己の灯守を喪ってしまったこの人の心が壊れてしまいそうで、目から感情が零れ落ちそうで。

 支えないでは、いられなかった。



 「み、明神様っ! 直紹様っ!」

 


 誰かの駆けてくる足音がしてきたのは、その時だった。

 俺の背を隠すように帳先生が背後に立ち、鈴の音をさせながら刀を握っている。

 言葉はない。

 だが、先生の背中から立ち上る湯気のような術力が、俺達を守ろうとしているのだけは、わかった。


「誰」

「はっ……と、帳さん、か? 俺です、葵です」

「葵くん……神風家の?」

「そうです。皆さんはここだと、深神霧子が……それで、まさか、と」


 深神。

 その名前に、先生が刀の刃を葵と名乗った背の高い青年に向けた。

 息を荒げながら走って来たらしい青年は、無言で両手を上げて抵抗の意思はない事を示す。

 今、この暗闇の中で俺たちの視界を照らしてくれているのは、日向子が渡してくれた角灯(ランタン)だけだ。

 先生が割ってしまった角灯の火種はまだウロウロと俺の周囲に居るが、明るさはいつもより、弱い。


 それでも、葵と名乗った青年が神風の家紋の入っている羽織を着ているのは、ハッキリ見えた。

 身長は俺よりも少し高いくらいだろうか。

 髪をぎゅっと後頭部で結んでいて、精悍な顔つきをした体格のいい若者。

 

 神風さんは、葵という名前にピクリと指先だけ反応を示した。

 もしかして、知った名前だったのだろうか。

 神風さんは家臣たちの名前と顔は余さず覚えているというし、歳の頃もそう違いはなさそうだから、馴染みの人なのかもしれない。

 それでも、深神の名が出た段階で警戒しないわけにはいかない。

 俺も、握ったままだった刀をいつでも振るえるように身構えた。


 しかし、ふと気付く。

 彼は、深神霧子の事を、「深神様」とは言わなかったんじゃないか?


「……あの女は、火族四家に叛逆した」

「はっ!?」

「なっ」

「今、深神以外の屋敷が、深神の刀持ちに襲撃をされてる。神風の大屋敷は御神苗様とハルが居るんで無事だが、明神と御神苗の屋敷からは火が出ているのを今、確認してきたところ……です」


 抱え込んでいた神風さんが、ひゅうと深く息を飲むのがわかる。

 俺は──俺は、まるで自分の心臓が口から飛び出てしまったんじゃないかと、そう、思ってしまっていた。

 口から入る冷気が、喉の奥のもっと先まで凍らせていくような、気がする。

 どういう事だ、どういう事だ。

 混乱する頭が、燃えるように熱い。

 また目が、火種と共にチカチカと視界を明滅させた。


「あの女……! この期を狙ってたのかっ」

「先生……」

「神風の屋敷まで転移を……でも、もうふたつ……術を切り替えたら、日向子ちゃんが……」


 前髪をぐしゃりと握って、先生が呻いた。

 通常術式は、一度に発動できるのはひとつだけだ。

 あの時先生が喚び出した大蛇は、多分先生の使える術式のうちのひとつだ。

 先生は神風の屋敷まで転移術を使う事は出来るけれど、その術を使えば地下の大蛇は消滅する、と。

 

 先生の言葉を自分の中で噛み砕こうとするために頭で言葉を繰り返して、やっと先生のしたいことを理解する。

 普段なら、ほんの言葉の断片でも先生のしたいことがわかるのに今は、頭がうまく働かなかった。

 あぁそうか、アレは先生の術なんだ、って。

 それだけのことを理解するだけでも、時間がかかった。

 

「……みょうじん」

「! 神風さん……」

「あおいは……ほんもの?」


 俺の肩に顔を埋めていた神風さんが、ぼんやりと、力なく小さな声を発する。

 近くにいる俺にしか聞こえないような、子どもが内緒話をするような、(いとけな)い声。

 俺は、刀を下ろして崩れそうな神風さんの背中を支えながら、それにはすぐに「はい」と応じた。


 チリチリと、目が熱い。

 だがこの目は、それ以上は何もしなかった。

 痛くも、焼けそうでもない。

 葵は、敵じゃないからだ。


「なら……だいじょうぶです、とばりさん」

「……なにが?」



「ひなこは、もうしにました。だからもう、いいです」



 顔を上げた神風さんを見て、葵が息を呑んだ。

 多分彼の距離からも、神風さんの真っ黒い瞳は見えているだろう。

 俺も、神風さんの背を握る手に力を込めずにはいられない。


 火の宿った瞳が、夜闇のように真っ黒に戻る時──刀主は己の番の死を悟る。

 元に戻るだけなのに、その変化は雄弁だ。

 神風さんの目は、夜空のように真っ黒なのに、乾ききって涙の一つも落とさない。

 それが逆に苦しくて、叫び出したいような気持ちに、なってしまう。


「……わかった」


 先生は、それ以上何も言わなかった。

 今は、それ以上を語るときじゃあないと、そんな声色で。

 あぁ俺は、転移術という天上の術式をこの短時間で二度も経験するというのに、なんだか嫌いになってしまいそうだと。

 

 先生が角灯の破片をジャリと踏みしめる音を聞きながら、そう思ってしまった。

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