第四十九話 残酷な宣告
「直紹様、大丈夫ですかっ」
「……問題ない。少し立ち眩みがしただけだ」
ふらついた神風さんを心配そうに見上げる日向子が、俺と神風さんを交互に見た。
立ち眩み、と言うにしては顔色が悪すぎる。
神風さんは眉間をぎゅーっと指で押しているが、何かを誤魔化しているようにしか見えない。
俺は神風さんを日向子に任せると、急いで先生に並んだ。
「先生」
「うん。中に休める所があるから、ちょっと休もうか」
いつもの貧血かな、なんて言う先生は、少し訳知り顔だ。
そういえば神風さんは先生から色々聞かされていたようだったし、俺よりも付き合いが長いのかもしれない。
たったそれだけのことでちょっとムッとしてしまった己のガキっぽさに、頭痛がした。
別に今は番を奪われそうとか、そういう場面でもない。
なのにこうして揺らぐのだから、情けない。
先生はそんな俺の様子に気付いたのか、小さく笑いながら戸を開いた。
重そうでもなければ取っ手に指を入れるでもなく、先生が腕を動かすとゆっくりと、勝手に戸が奥へ開かれていく。
神風の封庫も不思議な構造をしていたが、神守の封庫はそれ以上に不思議というか──幻想的だ。
俺は一歩後ろに下がって戸が開き切るのを待つ。
やがて封庫の扉はゴゴン、となにかに引っかかるように音を立てて止まる。
「中に座れる畳の座があるからそこで横になっていいよ。あ、お茶飲ませてあげてね」
「は、はいっ!」
「肩貸します」
「……大丈夫だ。歩ける」
……この人、強がるなぁ。
素直に手を借りておけばいいのに、と思いつつ、無言で神風さんの腕を掴んで引きずっていく。
反対の腕は日向子が掴んで行ったから、弓を肩に掛けてる神風さんは逃げられない。
一瞬逃げようとした神風さんも、案の定目眩がしたのかぐったりと運ばれた。
足元をズルズルと引きずる形になっているが、まぁ日向子と同じように頑丈そうなブーツを履いているから問題はないだろう。
戸がしっかりと閉まるのを確認してから、先生に案内されるままに神風さんを畳の間に運ぶ。
封庫の中は乾燥していて、やはり紙と墨の匂いがした。
でも、匂いを感じるのはそれだけだ。
外はあれだけ破壊されていて、もう管理する人間も居ない。
それなのに封庫の中はまるで時が止まったように清潔で、かび臭さも湿気も感じないのが驚きだ。
畳も、い草のいい香りが残っていて、まるでつい最近交換されたばかりのようだ。
先生が持ってきてくれた座布団も、フカフカで、いい匂いがする。
座布団を神風さんの頭の下と、丸めて高さをつけたものを足の下に置いてやる。
こうしていると、崩壊した家の封庫の中だなんて信じられない。
「んじゃ、日向子ちゃんあとはお願いね。ソウちゃんはこっち」
「あ、はい」
「直紹はちゃんと休むんだよ~」
神風さんが蚊の鳴くような声で「はい」と応じたのを確認してから、俺は先を行く先生のあとをついていった。
この封庫は、神風家のものとは違ってかなり雑多に色々なものが棚に置かれている。
書物だけでなく刀や衣服、奥には鎧一式も置かれているのに驚いた。
神風家は「書庫」だったが、ここは本当に色々と置かれている、ということだろうか。
「まずは、そうだね。ソウちゃんの目について話そうか」
「俺の、目……」
「だよ。封庫の番人の弱点を見抜いたのも、ソウちゃんでしょう?」
思わず「すみません」と言いそうになって、踏みとどまる。
俺たちは、何も悪いことはしていない。
先生が「毎回形が違う」と言っていたということは、アイツは倒されても再生する類のあやかしだ。
それなら謝るのも、礼を言うのも違う。
と、思う。
「ソウちゃんの目は、簡単に言えば相手の真実の姿を見抜き、丸裸にする目なんだ。今は右だけだけど、そのうち両目で見れるんじゃないかな」
「……何か見るたびにジリジリ熱を持つんですけど」
「明神とは違う術式だからじゃないかなー。でも、僕が触るとおさまるでしょ?」
「はい」
「あれはね、僕がソウちゃんの熱を半分受け取ってるからだよ。いつもソウちゃんの冷えた身体をあっためてるのとは、逆だね」
「あぁ、そういう。番だから出来ること、ってやつですか」
「うぅん。僕だからだね」
またサラッと言われて、言葉が詰まる。
「ソウちゃんの目は、何十年かに一人出るか出ないかくらいの、看破の術式が詰まってるものだと思われてるんだよね。でもその術式は暴走しやすくて……発見されるたびに明神に招かれてるけど、そのたび早死にしてるって聞いた」
早死に。
思わぬ言葉に、声が出ないまま口だけがパクパクと動いた。
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