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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第五章 反逆、喪失

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第四十八話 神守の封庫

 しばらくそのまま目を閉じていると、徐々に呼吸が落ち着いてくる。

 冷え切った身体をあたためられているのに、手で覆われた目の熱はおさまってくる矛盾が、渦巻く。

 しかし俺が落ち着いてきたのに気付いたのか、先生はそっと手を離して少しだけ俺から離れた。

 途端に寒くなったような気がして、目を開く。

 と、そこにほのかに湯気を立てる椀が差し出された。


「ありがとー日向子ちゃん」

「と、とんでもないですっ!」

「あー……おちゃ……」

「大丈夫か、明神」

「ちょっと体温差でぼーっとしてるだけだと思うよー。ゴリゴリに術を使うとこうなっちゃうんだよね。でも、落ち着けば大丈夫だよ」


 ねー、なんて子どもに言い聞かせるような声色で、頭を撫でられる。

 圧迫されていたせいでぼんやりと霞んでいる目を数回瞬かせて、ノロノロ椀を受け取って、やはりノロノロと口をつける。

 熱くはない、人肌より少し高い程度の温度のお茶は、ふわりと心地良い香りを漂わせる。

 しかし、口内まで冷えているのかそのくらいでも酷く熱く感じて、少しずつ少しずつ、口に含んだ。

 

 口内から喉、喉から胃と、熱いお茶が通っていくのが、ハッキリと分かる。

 なんとか一口分を飲み込むと、椀を持つ手を先生が包みこんで、もっと飲めとばかりに力を入れた。

 持たされた椀は、丈夫そうな陶器だ。

 じんわりとお茶であたたかくなった陶器は、指先をじんわりとあたためてくれる。


「神風さんと日向子は飲まなくてもいいのか?」

「先に君が飲みなさい。華炎術の代償は知っている」

「大丈夫ですっ。まだ元気なのでっ」


 ようやく少しハッキリしてきた視界を神風家の2人に向けると、2人も少しホッとしたように表情を緩めた。

 それを見て、俺ももう一口、先生に促されるままにお茶を飲む。

 徐々に胃がお茶で満たされて体温が戻って来る感覚に、自然と溜め息が漏れた。

 今度は、吐き出した息も濃く白く、少しの間その場に残る。

 

 しかし、ふと見上げた神風さんの顔色が青白いのに気付いて、俺は椀を下げた。


「神風さん? 大丈夫ですか」

「えっ、な、直紹様?」

「……目敏いな。大丈夫だよ、少し寒気がするだけだ。」

「ここ寒いもんねぇ。ソウちゃんが大丈夫そうなら、そろそろ書庫に入ろうか」


 言われて、そうだ、と思い出す。

 ここに来たのは神守の書庫に来るためだったのだ。

 山程居る夜住と、巨大な蛇の怪物。

 コイツ等のせいですっかり意識が持っていかれていたが、本命はそっちじゃない。


 先生を見ると、先生は真っ白な目のまま薄く微笑んで頭を撫でてくる。

 目が見えなくても、やはり何か別の方法でこちらのことを感知しているんだろうか。

 わからないが、先生なら何かやっていそうだという確信もある。

 それほどまでに、俺は今まで先生の力を見せつけられてきた。


 それは、先生が俺の番だったからなのか。

 ──それとも、神守の血筋だからなのか?


「あの蛇はね、封庫の番人。と言っても、開けようとする人によって外見は違うんだけど」

「外見が違う?」

「そう。でっかい犬みたいな時もあるし、そのまま人間みたいな姿の時もあるみたい。今回みたいな蛇なのは、珍しいかも」

「そ、そうなんですか……すっごく大きかったですっ」

「そうだねぇ。オロチの影響かなんかかなぁ」


 しれっと放たれる先生の爆弾に、日向子がひゅっと息を呑んで黙り込む。

 またこの人はそういうことを言う……

 俺はもう慣れたけれど、日向子は俺と先生を交互にチラチラ見ながら焦ったような顔をしていた。

 日向子は反応がいいからついからかってしまうんだろうな、というのは分かるけど、程々にしてあげてほしい。


 先生は、小さく笑いながら何も無い空間に手を差し込んだ。

 差し込んだというよりも、透明な水の中に手を突っ込んだ、という方が正しいんだろうか。

 波紋が周囲に広がって、そこに封庫の扉が出現する。

 やっぱりこの空間は、他の場所よりも少し歪に出来ているのかな。

 そんな事を思いながら、先生が封庫を開くのを黙って見守る。

 が、


「……う」

「神風さんっ」


 並んで先生の背中を見ていた神風さんが、不意にフラつく。

 慌てて支えたその顔は、先生のそれとは違う、青白い色をしていた。

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