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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第五章 反逆、喪失

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第四十七話 つがいの刻印

 ズズン……

 地面を抉り地鳴りを上げながら、巨大な蛇は仰け反って倒れた。

 上半身と下半身は分断され、腕は一番上の一本しかない。

 自分で切り払ったくせにその威力に驚いてしまって、俺は刀を振り抜いた体勢のままでしばし、大蛇の姿を呆然と見つめていた。


 明神の剣技は、体温を術力に変換することで威力を増す火力重視の技だ。

 最初の頃は寒くて痛くて、高威力の技なんかは使いたくなくて。

 でも今は、一切の遠慮なんかはしなかった。

 この大きさだ。一撃でも食らえば致命傷になりかねないと、遠慮をする余力すら逆になくて。

 しかしまさか──これだけの威力が出るとは。


 大蛇に近付き、ブスブスと黒い煙をあげる切断面を見る。

 黒く焦げ、えぐられた切断面。

 祓刀(ばっとう)の威力だけでは、ここまでの斬撃は放てない。

 一気に体温を下げたせいでフラつく足をその場で折って、蛇の断面に触れる。

 焦げているせいで、血や浸出液すら指につかない。

 のに、冷えた指先がジリっと痛みを発するくらいには熱いのが、大蛇を切断した炎の強さを証明していた。

 

「風の術式が混ざった結果、かな?」

「す、凄いですっ」


 少し遠くに着地した日向子が、重いブーツを鳴らしながら寄ってきた。

 日向子が放っていた灯守(とうもり)の風の術と、神風(かみて)さんが矢と共に巻き上げた風。

 それらが俺の火と絡んでここまでの火力が出た、んだろうか。


「火災旋風というものを知っているか」

「かさいせんぷう?」

「火災に因る上昇気流が風と絡み合って竜巻状になる、というのが簡単な摂理だが、竜巻状になることで周囲の酸素を喰らい、より威力が高くなるとも言われている」*1

「風に巻き上げられて炎が強くなる、ってことでいいんですよね」

「簡単に言えばな」


 のんびり近付いてきながら説明をする神風さんは、時折小さく咳き込んだ。

 黒い煙のせいだろうとは思うが、確かに少し呼吸がしにくい。

 華炎(かえん)術を使ったせいかとも思っていたが、神風さんもそうなら全体的にそうなのかもしれない。

 周囲を見回せば、大蛇が出現するまでは積み上がっていた死体の幻影も消えている。

 俺はその場に座り込んだまま、一回咳払いをした。


 喉元まで冷えたせいで、気管がチクチクと痛む。

 何か飲み物でも持ってくればよかったと今更思うが、ここで水なんか飲んだら悪化してしまいそうだ。


「やー、お疲れ様。君たちなら余裕だと思ってたよー」

「帳先生っ」

「今までどこに行っていたんですか」

「んふふ、戦ったら疲れるかと思って、お茶をね~」


 自分たちでやったことなのにちょっと無言になってしまいながら蛇を見つめていると、どこからともなく帳先生がひょこっと顔を出した。

 そんな所に出入り口があったのかと思ってしまうような、暗闇の隙間からだ。

 先生の角灯(ランタン)の明かりがなければ、真っ黒い空間から真っ白い先生が生えたように見えたかもしれない。

 俺と日向子は、無意識に己の胸に手を当てながら、思ったよりもびっくりしていたことに苦笑し合う。


 先生が持っていたのは、魔法瓶だ。

 大事そうに両手で支えられているソレの中身は、先生の言う通りならばお茶、だろう。

 俺はその場で座り込んだまま先生を見上げ、迷うことなく真っ直ぐに近付いてくるその姿を目で追う。


 先生が近付いてくると、大蛇はまるで煙のようにゆらりと空気に溶けるように消えていく。

 夜住が煤になるのとは違う、肉体そのものが薄く引き伸ばされて空間に溶け込むような、不思議な光景だった。

 その様をまたぼんやりと見ていると、先生が日向子に魔法瓶を渡す。

 彼女の両手がいっぱいになるほどに大きめなソレを受け取ると、日向子の表情が少し緩んだ。


「ソウちゃん、頑張ったね」


 両手が自由になった先生の手が、俺の目に触れる。

 最初に右手を包み、それから左目を包む。

 ひんやりとした先生の手は熱を持っていた俺の目を閉ざし、角灯の火種が冷え切った身体を暖めていく。

 そのままゆっくりと抱き寄せられると、先生の体温にほぅと溜め息が漏れた。


 その呼気が白くならなかったのを見て、自分で思ったよりも身体が冷えていたのだと、気付く。

 (つがい)に直接触れられることで徐々に体温が移って、内側から凍りつきそうだった身体がほぐれていく。

 布でぐるぐると固定した指先がじわりと刀から外れて、力が抜けた。

 

 段々と体温を思い出して震え始める手で、先生のうなじに触れる。

 指先に触れる先生の皮膚の感触と、そこだけ熱い、刻印の熱。

 あぁよかった。俺たちはまだ番のままだ。

 どうしてかそのことにひどく安堵して、俺は先生のてのひらの下でゆっくりと目を閉じた。


 先生のてのひらに、まるで今の今まで刀を握っていたかのような痕があるのには、気付かないフリをして。

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