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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第四章 陰謀、反抗

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第四十一話 重なる死、疑惑の刃

 神風真江(かみて さなえ)

 確か、先代の神風家の当主であり刀主だった女性だ。

 神風さんのご両親はどっちも刀持ちで、どちらも神風さんが幼い頃に亡くなったのだと聞いている。

 そのせいで神風さんはかなり若い段階で当主として担ぎ上げられ、年齢に反して当主でいる時間は長いのだと。


「な……んで、今までなにも……だって今までずっと……」

「んー、新しい灯守(とうもり)がついたってのもあったし、ある程度睨みを効かせてたってのもあるんだけど」

「そ、そういえば昨日、沙弥さん来てませんでしたね……深神(ふかみ)様は、お一人、でした……」

「深神には霧子の他に当主やれるのが結構お年のばあ様だけだった、ってのがひとつ。当時の僕に霧子を引き下ろせるだけの信用がなかったってのが、もうひとつ」


 先生の手から、ふわりと角灯(ランタン)が浮いて橙の灯りが周囲を照らした。

 角灯の光のおかげか、寒さも少しばかり和らいだような気がする。

 俺は角灯を頼りに先を進む先生の後をすぐに追ったが、神風さんは一歩を踏み出すのもぎこちない。

 日向子は神風さんに付き添って、ゆっくりと進みだした。


「先生に発言権がない時代なんかあったんだな……」

「あのね、20年前よ? 僕だって若造の時代もあったんですぅ」

「だって俺、先生が何歳か知らないし」

「レディに年齢を聞くのはマナー違反だって知ってる?」

「レディって女性のことですよね? 先生はレディじゃないでしょ。つか、マナーってなんでしたっけ」

「作法のことだよー」


 先生はゆっくりと歩きながら、俺の吐き出す関係のない話題にも応じてくれる。

 きっと今は、神風さんの頭の中の方がぐるぐるしているだろうから、落ち着かせる間も必要なんだろう。

 神風さんは俺よりもずっと頭が良い。

 その分、先生から渡された情報の中から何かを読み解く技量も高いはずだ。


 八岐之大蛇の討祓に駆り出された神守、神風、深神の刀主と灯守。

 しかし討祓は成らず──それを阻止し味方を斬ったのは、深神霧子。

 そんな話を聞かされて俺だって混乱しているけれど、母を失った神風さんは混乱どころじゃないだろう。

 当主としては、神風さんと霧子さんの付き合いはそこそこに長いはずなのだ。


 ふと、俺は足を止めて先生の背中を見る。

 なんで先生がここでいきなりそんな話をしてきたのか、正直すこし疑問だった。

 だって、話の流れが急すぎる。

 先生はいつも頭の軽い風を装うけれど、軽薄なわけではない。

 何か深い意図があって、俺達をここに連れてきたんだ。


「先生、その霧子さんは、本物なんですか」

「……え」

「うーん、流石ソウちゃん! いい着眼点っ」

「ほ、本物って……明神様、それ、あの……」

「俺と日向子は、神風の屋敷でおかしなものを見ました。明らかにおかしい、霧子さんです」


 俺と日向子が神風の封庫(ふこ)に居る時、本来は神風の当主と灯守でないと入れないそこに、霧子さんは入ってきた。

 開かれていない扉、まっさらなままだった雪。

 そして先生は、治療室に霧子さんを入れるなと、俺に言ったんだ。

 なんでだろう、どうしてだろうと思っていたけれど……

 それは、霧子さんだったから、入れるなと言ったんだろうか。


 刀主会でもそうだった。

 先生は決して霧子さんの近くには並ばなかった。

 源一郎様の隣に座って、全員を見渡せる場所で状況を見守っていたんだ。

 それは……それは、つまり、そういうことだったんだろうか。


「僕はねぇ、ソウちゃん。深神霧子を一切信用してないよ」


 ゆっくりと振り返り、先生が言う。

 チリリ、と鈴の音がシンとしている地下の中で響き、あちこちからカラコロと反響があった。

 なんとなく音を追うように周囲を見た俺は、ハッとして一歩、後退してしまう。

 そんな俺を見て同じように地下室の中を見回した神風さんも息を飲み、日向子が拳鍔(けんつば)を構えた。


「僕はもう見えないけど、ここにはね、オロチに関わる死者の姿が投影されるんだ」


 周囲に重なっているのは、死体だった。

 無数の人間の死体の隙間にあるのは、煤の山だろうか。

 人間はほとんどが刀傷を受けて死んだものだろうが、昨日の爆発事故の際に見たような死体も、ある。

 

 顔面の半分が割れて中身がない者。

 表面の皮膚が垂れ下がり、衣服と見分けがつかない者。

 頸部や胸部に分厚いガラスが突き刺さり、未だ噴水のように血を噴き上げている者。

 違いと言えば、炎の匂いも、血の匂いもしないことだ。

 こんなにも死体が折り重なっているのに、死の匂いは少しも、しない。


「毎日毎日、ここに死体が積み重なってるのがわかるんだよ。夜住(よすみ)に殺されているのとは違う死が重なっている気配が、ずーっとしてるんだ」

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