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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第三章 神風の書庫と、神話の虚構

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第二十九話 第二十九話 刀主と灯守

「ちょっと傷がついた程度なら許されても、お前に何かあったら死ぬのは俺等だよ」

「いや、そこまでは……する、のか?」

「宗一郎だって、先生が傷つけられたらキレるだろ」

「あぁ」

「即答~」

「でも、だからこそ、お前が怒らないのがわからない」


 ぽつんと、俺が言葉を落とすのと同時に外で溶けた雪解け水が落ちる音がした。

 ぽつん、ぽつん。

 寒かった夜が明け、日光が上がると陽光が雪をとかしていく。

 今日が晴れなのは、いいことなのか、悪いことなのか。

 わからないけれど、垂れる雪解け水の音は耳に心地よい。


 折れた木刀を投げ出し、ガランガランと音がするのを意識の端で聞く。

 そうだ、俺たちはそうするだろう。

 俺は先生が傷つけられれば傷つけた者を罰するだろうし、先生は俺が殺されれば殺したものを消すだろう。

 そういう自覚があるからこそ、ハルの態度はやはり、腑に落ちない。

 

 そういえばあの時──和穗が目を覚ました時にも、和穗は「失敗しちゃった」と言っていた。

 俺を責めるのではなく、自分が失敗したのだと。

 ハルだって、目覚めた和穗に「良かった」と言うだけで、態度は普通で。

 なんでなんだ。

 なんで、怒らないんだ。

 番は、絶対の存在なんじゃないのか。


「怒るようなことじゃないだろ。だって俺たちは、刀主と灯守(とうもり)なんだから」


 俺が投げ出した木刀を、ハルが拾う。

 寒い稽古場の中、雪解け水の音なんかは気にしないでハルはニヤリと笑った。

 俺たちとは違う色の目が三日月のように笑むと、まるで猫や虎のように見えた。


「さっきも言ったけど、今回のことはあいつが失敗しただけだ。俺も、失敗した。俺と和穗は、あの爆発を止められたかもしれないんだから」

「あの爆発を?」

「そうだよ。俺たちは、お前と先生の救援に行くつもりだったんだ。そのための連絡係を選定して、直接お前に預ける予定だった」


 でも、失敗した。

 苦々しく、ハルは言う。

 御神苗の刀持ちを数名、連絡係として選定していたこと。

 挨拶がてら和穗とハルも刀持ちたちと一緒に俺に会いに来る予定だったこと。

 だが、近付いてきた子どもが目の前で転んで──和穗がその子を助けようとしたら、爆発が起きたこと。

 

 ハルの得意術式は防御系だ。

 咄嗟に術式を使って和穗と自分を守ったが、部下たちは守れなかったと言うハルの声には、苦渋が滲んでいる。

 その結果ハルはあの頭部の負傷をし、和穗は姿を消して誰かに操られたのだろう。


 ゾッとした。

 あの規模の爆発だ。

 2人が術式を持つ人間じゃなかったら、その場で消し炭になっていてもおかしくない。

 何より、本来その場で死んでいたかもしれない人間が俺と先生の前に現れて夜住(よすみ)になったのも、異常だ。


 まるで誰かに──仕組まれているような。

 ズキリと右目が痛んで、思わず、手を当てた。


「明神様、ハルさん」


 ぐるぐると思考が狂い始めていた俺の背に、聞き慣れた声がそっと触れる。

 日向子。

 重苦しい何かを背負っているかのようにのんびりと振り返ると、日向子が普段と変わらぬ折り目正しい巫女服でそこに立っていた。


直紹(なおつぐ)様と帳様がお呼び、です」


 昨日のことについて。

 日向子のその言葉に、今度は左目が疼いた気がした。

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