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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第三章 神風の書庫と、神話の虚構

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第二十八話 赤い怒り、白銀の死神

「ほい、集中してない」

「ぐっ!」


 ガァンッ

 木刀がぶつかり合っただけなのに、鉛のように重いものが落ちてきたように錯覚する一撃。

 ほんの一瞬意識をそらした瞬間に打ち込まれたソレを、真正面から受けてしまった。

 両手で持っていた木刀は半ばから折れ、ビリビリとした痺れに残った半分も取り落としてしまう。


 俺が和穗を傷つけた夜から、丸一日が経過した。

 あの後俺は何も言うことが出来なくなってしまって、和穗の消耗も考えて場がお開きになったのだ。

 本当は色々と話すべきだったし、話を聞くべきだったというのはわかっている。

 わかっているけれど、あの時の衝撃はどうしたって言葉に出来なかったし、それは日向子も同じだった。


「考え事か? 余裕だな」

「……すまん、ハル」


 神風(かみて)さんはその日、屋敷に集まっていた刀主と灯守(とうもり)のために客間を空けてくれた。

 きっと、俺と日向子に何かあったのを察したんだろう。

 (とばり)先生も俺たちに何か追求をしてくるでもなく、俺と日向子は混乱の中言葉を飲み込んでしまった。

 何を話すべきか、どこから話すべきか。

 それがあの時の俺たちには、判断できなかった。


 たっぷりと寝て、休みなさい。

 一番疲れているのは先生と神風さんだろうに、2人はそう言って年下たちを寝かせた。

 帳先生と神風さんはそのまま治療室に待機して、日向子は自分の部屋に。

 同じ部屋で寝たのは、俺とハルだった。


「なぁ、昨日なにがあった?」

「…………」


 まんじりともせずに中々眠れずにいた俺は、結局行火(あんか)の入ったあたたかい布団に負けて眠りに落ちた。

 図太いな、と自分でも思ったが、目覚めてみればハルが術式で眠らせてくれたのだと知って、またなんとも言えない気持ちになる。

 目覚めた時の罪悪感なのだか怒りなのだか分からないモヤモヤは、やはり言葉に出来なかった。


 ハルは、俺を殴ってもいいはずだ。


 大事な(つがい)である和穗を斬り、何の罰も受けずにこうしてハルと共に稽古場を借りている俺を。

 今ここで、殴って、暴言を吐いたって許される立場であるはず。

 なのにハルは、自分から俺を稽古場に誘ったというのに、貰ってきた木刀で打ち合うばかりで罵倒なんかしてこない。

 打ち込まれている俺が逆に戸惑ってしまうほどに普通で、いつも通りの稽古風景だ。


 痺れた手をぎゅっと握って黙り込む俺を、ハルは不思議そうに見ている。

 ハルに折られた木刀は、すでに5本。

 集中出来ていない証拠だ。

 いくら膂力に差があっても、俺とハルの打ち合いでこんなに木刀が折れることはほとんどない。


 ひやりと床下から上がってくるような冷気は、木刀を拾うために屈むと指先から冷えを呼び起こす。

 火鉢も暖炉もない稽古場は寒くって、熱といえば互いの体温と、場を照らす灯守の角灯(ランタン)のものだけ。

 それでも、慣れたもののはずだ。

 明神家でなく神風家の稽古場というのはあっても、作りにそう違いはない。

 寒さも、床の材質も──稽古相手も、いつもの、変わらないもの、で。

 なのに、俺の心の中だけがいつもと違う。


「……怒ってないのか」

「なにを?」

「俺は……和穗を斬った」

「……あ? もしかして、それを気にして散漫になってたのか?」


 そりゃ、そうだろう。

 意外だ、と言いたげな表情をするハルに、俺は声を絞り出しつつ頷いた。

 刀主と灯守は、番という契約で繋がる存在だ。

 伴侶ではないけれど、それ以上に強い力で結ばれた相手。

 そんな相手を斬られて──俺なら、普通ではいられないだろう。

 

 先生が傷つけられたなら、例え相手が同じ刀主だったとしても刀を抜くだろうし、逃げられたなら地の果てまでも追いかける。

 もしも先生が死にでもしたなら、相手には死よりも辛い苦痛を与えてやるだろう。

 俺とハルの立場が逆だったとしたら、一発は殴って、ふざけるなと怒鳴っていたはずだ。

 ならばきっと、ハルだって……


「アレはしょうがないだろ。先に斬り掛かったのは和穗だし、操られたなら和穗が迂闊だったんだ」

「……は?」

「まー確かに最初はちょっとピキッたけどさ、実際そうだろ。お前は斬りかかられた方で、お前が反撃しなかったらお前が死んでたかもしれない」

「それは……そうだけど」

「そうなった場合、俺も和穗も死んでたよ」


 喉に手を当てて軽く切り落とすような動作をするハルに、俺は黙り込んだ。

 俺が死んだ時、和穗とハルを殺す人間。

 それは、あの場においてはただ一人──先生しか居ない。

 もしかしてあの紫のモヤの向こうでは、別の意味での命のやり取りでもあったんだろうか?

 ちょっとだけ、背筋に冷たいものが走った。

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