表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第三章 神風の書庫と、神話の虚構

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/39

第二十七話 選ばれ、見失う

 先生、と、口先だけで先生を呼ぶ。

 日向子は白い布を開くのを躊躇しているようだったが、神風(かみて)さんが手を振って促すとその先に消えていった。

 なんで、霧子さんはダメなんだろう。

 

 問いたくて、じっと先生を見る。

 先生は障子で閉じられた窓辺に寄りかかりながら俺を見ていて、にんまりと笑うと、自分の懐を指でトントンと示して見せた。

 なんだ? と、俺も自分の胸元に手をやって、そこで指先に触れたものに少しだけ驚いてしまった。

 胸元に何も入れていなかったはずなのに、という気持ちと、やらかした、という気持ちと。

 それらが一緒くたになって、サーッと頭から血の気がひいていく。


「す、すみません神風さんっ。俺、急いでて封庫(ふこ)から本を……!」

「あぁ、やはりそれは封庫のものか。見覚えがあると思ったんだ」

「すみません。これを見てて、考えてる時に、」


 考えている時に、霧子さんが呼びに来たんだ。

 続けようとした言葉が、喉の奥に詰まる。

 そうだ、霧子さんが来た。

 本来は神風の当主と灯守(とうもり)しか入れない、特別な場所に。


 胸元に押し込んだままだった本に手を当てて、ぐっと頬の内側を噛む。

 閉ざされた封庫にやってきた霧子さん。

 霧子さんが去った先には誰も居なくって、渡り廊下の雪は誰かが踏んだ気配もなかった。

 庭にも、廊下にも、誰かが歩いた痕跡はなくて……霧子さんは、治療室の前に居た。


 考えないようにしていた謎が、波のように押し寄せてくる。

 考えたくない、という感情が一瞬波をひかせるけれど、それでもまたすぐに戻って来るのだ。

 だって今──今、先生は、霧子さんをここに入れるなって、言った。

 ハルだけで、って、先生が、言ったのだ。


「和穗っ!」

「はるくん」

「あぁ、もう心臓に悪い……良かった、良かったなぁ」

「ごめんね、失敗しちゃった」


 ドクドクと心臓が跳ね回っている俺の視界は、ハルが転げるように入ってきても少しも落ち着いてくれない。

 チカチカして、目の奥で火が燻っているみたいで、頭が熱い。

 戻ってきた日向子も、白い布を整えながら何かを考えているようだった。

 当たり前だ。

 彼女も、あの霧子さんを、見ている。


 先に違和感を持ったのも、彼女だ。


「明神。持ってきた本は、何の本だい」

「え、あっ……」

「怒っているんじゃない。あの封庫は、必要な本を必要な者に差し出すんだ」


 チカチカとしてくる視界を少しでも閉じようと、右目を手で覆う。

 と、神風さんが俺に手を差し出してきた。

 まるで──まるで、神風さんも霧子さんをこの部屋に入れなかったことに、違和感を持っていないような、顔で。


「な、直紹(なおつぐ)様、あの」

「いいんだよ、日向子。あそこは少々特殊でね。封庫がお前を弾かなかったのなら、お前も入るべき時だったんだ。そして明神には、その本が必要だったのだろう」

「マジで、あの封庫意味わかんないよねぇ。好きだけど」

「当家に来るたびにあそこにこもりますからね、貴方は」

「あったかくってきもちーんだもん」


 あははー、なんて笑う先生と神風さんのいつも通りの姿に反して、俺と日向子だけが緊張している。

 神風さんが俺を安心させようとすればするだけ、ワケがわからなくて頭がぐるぐると混乱した。


「ハル、霧子さんは、まだ、廊下に?」

「あぁ、居ると、思うけど……」


 目の奥が熱を持っているのがわかる。

 俺は目をおさえていた右手をそのまま頭まですべらせて前髪をかきあげると、本を懐から出して神風さんに渡す。

 それからすぐに立ち上がって、白い布をまくりあげた。

 日向子が一瞬、俺を止めようとしたのが、わかる。

 しかし俺はその手を無視して三枚の布を開いて、戸自体がひんやりしているように感じる廊下との境をグッと掴んだ。


 額に汗が滲む。

 かきあげた前髪が少しずつ落ちてくる。

 少し息を吸って、吐いて。

 吐くのと同時に戸を開け放つと、そこには誰も、居なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ