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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第三章 神風の書庫と、神話の虚構

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第二十六話 布の境界、白い制止

「ソウくん、日向子ちゃん。そこに居る?」


 俺たちが何も言えずに黙り込んだことで会話が途切れたと察したのか、治療室の中から(とばり)先生の声が聞こえた。

 ほんの少しだけ開いている治療室の戸。

 指1本分も開いていないけれど、それでもさっきまで完全に閉ざされていたことを思うと、安堵する。

 その隙間から漂ってくるのが消毒薬だとか、血錆のような匂いであったとしても、嬉しいことだ。


「居ます。戻りました、先生」

「はいっといで~。もう大丈夫だからね」

「……っ失礼、します」


 おそるおそる、ほんの少しの隙間に顔を近付けて、中を伺う。

 戸に加えて白い布で外界から遮断されている治療室は、それだけじゃあ何が起きているのかは分からない。

 けれど、日向子が開いてくれた扉を潜れば、廊下ではどこか遠くに感じたものが、実感としてのしかかってきた。

 白い布の向こうに、寝かされている女性の影と、その周囲に座る人影が見える。

 

 和穗と、先生たちだ。

 俺は、白い布を開くことに少しばかり躊躇してしまって、けれど日向子は、黙って待っていてくれた。

 俺の隣に立ったまま、神風(かみて)灯守(とうもり)である彼女ならばサッと入ってしまえるだろうに。

 そんな日向子の存在に励まされて、ゆっくりと白い布を開く。


 蚊帳のように天井から吊るされていた白い布はスルスルと手の甲を滑って、折り重なった部分はまるで俺を招くように自ら開いていった。

 二枚、三枚。

 重なっていた布が開かれると、真っ先に寝かされている和穗が視界に入ってくる。

 それから、彼女の両肩を支えるように左右に控えている先生と、神風さん。


「おにい、ちゃ」

「和穗……!」

「起きたばっかだよ。それで喋れるんだから、ほんと頑丈だよねぇ」

「喋るなと言っているのに、まったく」


 苦笑交じりの先生たちの表情には、疲れが見える。

 一晩中ずっと和穗に寄り添い、彼女を生かしてくれたのだ。

 俺にはわからない術式を使い続けたのだろうし、人の命を預かっている以上は緊張だってしただろう。

 それでも、寝かされている和穗は、笑顔だ。

 失血のせいか顔色は悪いけれど、確かに、笑ってる。


「和穗、和穗……すまなかった、俺は……」

「うぅん、いい、の。わたしが、失敗しちゃった」

「でも……斬ったのは俺だ……」


 お前の、腕を。

 顔や首筋とは色の違う和穗の右手を、ぎゅっと握る。

 肩口から胸元まで呪符でぐるぐる巻きにされているせいで傷口は見えないけれど、指先は氷のように冷たい。

 まだ、血が通っていないのだ。

 力の入っていない指先は、まるで作り物のように見える。


 それでも、和穗が俺の手を握り返そうとした動きを、手の中で感じた。

 指先がピクリと動き、しかし握ることまでは出来ないようでただ俺の手の甲だけを少しだけ引っ掻く。

 動くんだ。

 実感すると、目の奥がズンと熱くなる。

 さっきまでの目の痛みとは違う、鼻の奥までツンとくる熱さだ。


「しばし時間はかかるだろうが、動くようにもなるだろう。大丈夫だ」

「ありがとうございます、神風さん。和穗お前、ほんっと……頑丈だな」

「えへへ。すぐだよ、すぐ」

「あ、そうだ。廊下にハルと深神(ふかみ)さんも居たんです。呼んでもいいですか」

「あ、お、お呼びしますね!」


 黙って俺たちの様子を見守っていた日向子が、パッと立ち上がる。

 しかし、


「あ、待って。ハルくんだけにしといて」


 白い布に手をかけた日向子を、先生が手をひらひらさせながら制した。

 日向子が振り返って、俺も思わず先生を見る。

 先生は、俺たちの視線を受けてニッコリと、笑った。

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