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祓火の番ー二十年の因縁と、封印された伝説の魔物。ハズレものの最強師匠に拾われた俺が、真実を焼き出す眼に覚醒して帝都の闇を焼き払うー  作者: ミスミシン
第三章 神風の書庫と、神話の虚構

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第二十三話 古の記録、いつつめの伝承

 封庫(ふこ)の中は本当に広くって、半地下だからもしかしたら別邸そのものよりも広いんじゃないかと思えた。

 その中に、所狭しと書棚が詰め込まれていて、広さのわりに圧迫感が強い。

 奥へと進んでいくと書棚の形が変わっていくのを、不思議な心地で見る。

 書棚の形が変わったのは、保管されている書物の形が変わったからだ。

 近場の書棚には普通に本がおさめられているが、奥の書棚にあるのは巻物や木簡(もっかん)だ。


 木簡!? とちょっとばかり驚いてしまったが、恐る恐るに開いてみると日本の言語ではなさそうだったので、異国のものなのだろう。

 こんなもの、俺には読めない。

 漢字が並んでいるのは流石に分かるが、俺の両手でも包み込めないくらいに太い木簡全てを読むなんて、とても無理だ。

 それに、この木簡はかなり古い。

 ささくれている部分がある木の板が折り重なったソレを、俺はそっと棚に戻した。


「明神様、こっちです~」

「あぁ、助かる」

「そちらのは、神風(かみて)が異国と取引をした時に得た術式だそうです。わたしは、読めないんですけど……」

「大丈夫、俺も読めないよ」


 ちょっと苦々しい笑みを向けつつそう言ってやれば、日向子もホッとしたように笑った。

 神風家は四家の中では一番古いと何度も聞いていたが、まさかこんなことまでしていたとは。

 そりゃあ、四家の長として選ばれるなと納得をしながら、日向子に招かれた棚に近付く。

 

 そこにあるのは、紐で括られた本だった。

 それだけで、相当古い本なのがわかって、手に取るのに少しだけ怖気づく。

 日向子もちょっとばかり怯んだ表情をしていたが、一冊一冊手にとって表紙を確認し、時折中身を確認していく。

 俺も一番近くにあった本を手に取り、開く。

 パリパリと乾いた墨の音がして、手書きの本なのだということが分かって、また驚いた。

 

「ん……? これ」

「ど、どうなさいましたかっ」

「ここに、五家って書いてある。先生が話してた、いつつめの刀主の家だ」


 俺の開いた本は、火族(かぞく)五家の役目について書かれているものだった。

 火族四家ではなく、五家。

 先生が以前「すでに滅びた家がひとつある」と言っていた、そのいつつめ家だ。

 そう言ってやると、日向子も持っていた本を俺に見せてくる。

 そこにも火族五家の記載があって、同じ時期の本であることから当時は五家目も精力的に活動していたのだとわかった。

 

 夜住(よすみ)との戦いで滅び、火種を途絶えさせた家──神守(かみもり)家。

 俺の持っている本には、『神守家は五家を統括し、四家を守護するものである』と書かれている。

 日向子の本の方には、神守家が継いでいた術式についての記録があった。

 だが肝心の術式のページは乱暴に握りつぶされたように破られていて、思わず日向子と顔を見合わせてしまう。


 他に何か資料はないかと背表紙を眺めて、確認していく。

 と、いくつかの本のページの一部が同じようにぐしゃりと潰され、破られているものがあった。

 どれもこれも、神守の記録の一部だ。


「えぇと、大地を焼き、冷気を熱として食らうヤマタノオロチを神守、神風、深神(ふかみ)の三家が封じ……?」

「この続き破られちゃってますね。なんででしょう……」

「この頃にはまだ三家しかなかったってことなのか?」

「い、いえ! こっちには五家って書いてありますので、明神と御神苗もあったはずですっ」

「じゃあ、このヤマタノオロチと戦ったのが神守と神風と深神ってことなのか。明神と御神苗はなにしてたんだろうな」


 ヤマタノオロチ──八岐之大蛇。

 流石の俺も知っている、八つ首の大蛇の名だ。

 かつて須佐之男命(スサノオノミコト)櫛名田比売(クシナダヒメ)を守るために討祓した、伝説の生物。

 まさかそんな名前が出てくるとは思わなくて、俺と日向子はまた視線を合わせた。


 その視線の先に、ふと、棚の隅に追いやられた別の薄汚れた巻物が映った。

 藍色の表紙の、他と同じように紐で括られた本だ。

 吸い寄せられるように手に取り、広げる。

 本文の紙はさっきまで見ていたものよりも少しばかり色褪せていて、この本だけ少し古いようだった。

 だがその本の中に、比較的新しい、明らかに異質な白い紙が挟み込まれていた。


『大蛇の呪詛は人の皮を被り、凍った世を惑わす。

 これを見破る「目」を持つ者が、数世紀に一度現世に降る。

 その瞳が火を宿せば、真実を焼き、虚偽を暴く──』


 どくりと、心臓が跳ねる。


 火と目は、刀主にとっては己の存在に密接に関わってくるものだ。

 番を得て瞳は赤く染まり、赤い瞳を持つ刀主のみが灯守の灯火を受け取ることが出来る──

 そうして視える世界は、視えるものは、個々の術式によって違う、はずで。

 

 脳裏に、老婆を斬った時と、和穗を斬った時の光景が過ぎる。

 俺の目に映った、あのドロリと歪んだ輪郭。

 煤が散るのではなく、肉体そのものが崩れていった姿と、紫のモヤ。

 俺が視認するまで誰も認識出来なかった、巨大な壁の夜住。


 俺は、震える手で自分の右目に触れた。

読んで頂きありがとうございます。

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