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祓火の番 ―火種は怪異の死骸、灯火は己の命。常冬の帝都に沈む謎を、ハズレ者が焼き尽くす―  作者: ミスミシン
第三章 神風の書庫と、神話の虚構

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第二十二話 封じられた庫、当主の勤め

 日向子が案内してくれた神風(かみて)の書庫は、封庫(ふこ)と呼ばれる「当主と灯守(とうもり)のみに入室を許される」という場所だった。

 確かに俺は明神の次期当主だが、神風の当主ではない。

 それでもいいのかと日向子を伺うと、日向子は一切の問題を覚えていないようだった。

 振り返りもせずに廊下を真っ直ぐ進んでいく日向子の背後を、背を丸めた大男がついていく。

 その様子は少しばかり奇怪だろうと思って、出来るだけ真っ直ぐ背筋を伸ばした。


 封庫は、渡り廊下を通った先の、別邸にあった。

 いつの間にかチラついていたのか、渡り廊下には雪が積もり始めている。

 夜明けか。

 夜中治療室の前に引っ付いていたのかとぼんやりと思って、それだけの時間目覚めない和穗に歯噛みする。

 神風さんも、(とばり)先生も、つきっきりだ。

 俺がやらかしたことの後始末を、俺以外の人がしている。


 ハル──ハルは、どうしただろう。

 和穗の流す血溜まりを見て俺と同じように動けなくなっていた、もう一人の幼馴染み。

 そういえば昨夜から、俺はハルの姿を見ていない。

 彼もまた、俺と同じ地獄を見ていたはずだ。

 なのに、その気配すら感じられないことに、微かな寒気を覚えた。


「こ、こちらですっ。明神様っ」


 先を歩いていた日向子が、別邸の鍵を開け、進んだ先の鍵を開け、更に進んだ短い階段の先の鍵を開ける。

 そうしてやっと辿り着いたのは、家の中だというのに吐息が白む半地下の部屋だった。

 階段の踊り場は湿気が強く、どこかカビ臭い。

 こんな所に書物を置いて大丈夫なのだろうかと不安になりつつ、寒さで腕をさする。

 さっきてのひらに食い込んでいた爪の痕が、着物にこすれて少し痛んだ。


「開けます」


 日向子が木の板のような鍵を差し込んだのは、ほんの小さな隙間だった。

 知っていなければ場所が分からないような隙間に、日向子はかつてここに入ったことがあるのだと悟る。

 多分、神風さんと一緒に。

 神風さんは、なんだかんだ言いつつも彼女をちゃんと自分の番として認めているのかもしれないと、少しだけ安心した。


「お、おぉ……」


 ゴゴ、と重い音をたてて、扉が勝手に開いていく。

 機械仕掛けなのか、それとも何らかの術式が組まれているのか。

 俺にはその辺はサッパリだが、一歩足を踏み入れれば感じる墨と紙の匂いに、胸が落ち着いた。

 鼻腔をくすぐる古い墨の匂いが、手にこびりついて離れなかった鉄臭い血の記憶を、一時だけ遠ざけてくれた気がする。

 何より、踊り場はあんなにも湿気ていて寒かったのに、封庫の中はほのかにあたたかく、湿気を感じない。

 立ち止まっているというのに前髪がわずかに撫でられて、どこかからあたたかい風が吹いているような気がする。

 

 これが、神の風を司ると言われている神風の封庫か。

 明神家の封庫にすらろくすっぽ足を運んだことのない俺は、妙に緊張をして胸元に手を当てた。

 かじかんでいた指先が、あたたかく包まれているような、そんなあたたかさだ。


「えーっと……直紹様が仰っていたのは……」

「神風さんは、何を見てこいって言っていたんだ?」

「明神様たちが見た、擬態する夜住について、です。何百年か前の書物に、そのような記載があったような記憶がある、と」

「……もしかしてあの人、ここにある本全部覚えてるのか?」

「当主の勤めだって、仰ってましたっ」


 それが本当に当主の役目なんだとしたら、俺は当主になれないかもしれない。

 俺は、この帝都でも有り得ない、蝋燭の火だけで照らされているだだっ広い封庫の入口でうんざりとしてしまった。

更新される時に気付いたんですが昼更新の予約をすっ飛ばしてました……(2月5日)

明日からまた1日2回更新に戻りますすみません。

読んで下さりありがとうございます。

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