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祓火の番 ―火種は怪異の死骸、灯火は己の命。常冬の帝都に沈む謎を、ハズレ者が焼き尽くす―  作者: ミスミシン
第三章 神風の書庫と、神話の虚構

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第二十一話 癒えぬ悔恨、託された古鍵

 和穗は即座に、神風(かみて)家に運び込まれた。

 俺が切断してしまった腕は、あの場で(とばり)先生が応急処置をして何とか彼女の肉体とは繋がっている。

 夜住(よすみ)との戦いにおいて、刀持ちが四肢を失うことはよくあることだ。

 けれど、それは大体にして凍結した部位が折れて落ちたものだ。

 今回みたいに、刀によって切断されたものとは、違う。


 俺は、神風さんと先生の手によって彼女の身体にぐるぐる巻きつけられていく長い呪符を呆然と見ていた。

 包帯に墨で術力の封じ込められた呪符は、神風家が作っている特別なものであると聞いている。

 ただ、俺が見たのはこれが初めてで、本来であれば見ない方が良かったものだろう。


「あの、御神苗様の腕は今、帳様と直紹(なおつぐ)様が接合されています。無事に、くっつくとは……思い、ます」


 何も出来ない俺は早々に治療部屋から追い出されて、廊下に立ち尽くしていた。

 戸を閉めても治療室の中はバタバタと騒がしく、何もしていない俺がいても邪魔だったんだろう。

 隔てられた向こうから、和穗のうめき声と、肉を焼いて接合するようなジウジウという嫌な音が漏れ聞こえてくる。

 その音に俺の右手の指先が、和穗を斬った瞬間の振動を思い出して小さく跳ねた。

 そんな俺を気遣ってか、追って部屋を出てきた日向子がおそるおそるに励ましてくれた。

 彼女だって確信はないのだろう。

 己の赤い袴を小さな手で握ったり開いたりしながら、顔は俯き気味だ。


「……動きは」

「う、動くかは……予後に、よるかと……」

「……だよな」


 やっぱりぼんやりと聞いた俺に、日向子は嘘をつかなかった。

 もし無事にくっついたとしても、元通りに動くとは限らない。

 俺は、それほどのことをしてしまったんだ。


 人間に化けて近付いてくる夜住のような〝何か〟──それを恐れてしまったのが、最大の敗因だ。

 和穗から攻撃してきたとかは、理由にならない。

 彼女を止めることを諦めて反撃をしたのは、反撃を選んだのは、俺だ。

 グッと握りしめた指先が手の平に食い込んでジリジリと痛む。

 だがその痛みを感じることが出来ることにも、妙な悔しさが滲んだ。


「……明神様。少し、よろしいですか」


 そんな俺を見てか、袴をぎゅっと握ったまま日向子が一歩、俺に近付いた。

 ふと視線を上げて日向子を見ると、いつになく真面目な顔をして眉毛を逆立てている。

 相変わらず袴を握る手は開いたり閉じたりだが、俺が彼女を見るとぎゅーっと手に力がこもった。


「直紹様から預かっている鍵が、あります。神風の書庫のものです」

「神風の……書庫?」

「は、はい。神風は、四家で一番歴史が古いから……もしかしたら、此度の事件に似た何かがあるかもしれない、って」


 ハッとして曲がっていた背を真っ直ぐにすると、俺よりも頭ひとつふたつ小さな日向子の方がずっと真っ直ぐ立っていたことに気付く。

 刀主会で会った時よりも、彼女はしっかりとこちらを見ていた。

 しかし、日向子の手はまだ震えていて、ゴシゴシと袴で手を拭ってから着物の袖から木の板のような鍵を取り出した。

 袴で何度も手を拭う彼女の仕草は、まるで自分の臆病さを拭い去ろうとしているようにも見えた。

 彼女も怖いのだ。

 それでも、彼女は俺を一人きりにさせない道を選んでくれた。


 神風の家紋の彫られた、灯守の力を感じる鍵。

 差し出された木の鍵は、幾星霜を経て黒ずみ、鉄のように冷たい色をたたえている。

 そっと手を差し出した指先から微かな風の唸りが聞こえた気がして、俺は思わず息を呑んだ。

 俺は、鍵を見てからゆっくりと日向子を見る。


「代々の灯守に預けられていた鍵だそうです。直紹様が預けて下さった……これは、きっと、明神様と開けるべき扉だと、思うんですっ」


 彼女の声は、俺のものよりもはっきりと力強かった。

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