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祓火の番 ―火種は怪異の死骸、灯火は己の命。常冬の帝都に沈む謎を、ハズレ者が焼き尽くす―  作者: ミスミシン
第二章 崩れる平穏、血を流す火

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第十五話 赤い破壊、銀色の困惑

 何故先生が刀を? なんて、考えている暇はない。

 先生は無言で刀を振るうと、銀色のままのそれで夜住(よすみ)を叩き潰した。


 斬ったんじゃない。潰したんだ。

 先生の一撃を受けた夜住は醜い断末魔をあげながら、手足をジタバタともがかせる。

 勢いよく動く筋肉の跳ね返りのようなその動きは、腕の骨を折り、関節を逆方向に捻じ曲げる。

 服装は変わらず、御神苗の刀持ちの着物のままだ。

 俺はその姿に嫌なものを感じてしまって、ただ棒立ちするしかない。

 先生に肩を掴まれてやっと、後方に一歩、二歩と下がるだけの、情けない状態。


「ぼんやりするのはいいけど、煤は当たってない?」


 そんな俺に、先生は本当にいつも通りに──優しい声で、夜住の手足を切り落としながら聞いてきた。

 音もしない、ただ刀を振るっただけに見える動作の隙間。

 僅かな「隙間」としか言いようのない動作に重なって夜住の嗚咽のような声と、手足が地面に落ちる音がする。

 さっきまでのように煤が周囲に舞うことはなく、先生が斬った切り口だけが焼けたように固まっていた。

 こんな斬り方、火力特化の明神流を習う俺でも知らない。


「……大丈夫です。すみません」

「御神苗の装束だもんねぇ。僕も驚いた、和穗ちゃんが送ってきた連絡係かと思ったもん」

「俺もです。そうじゃなきゃ、なんでこんな時間に明神の領域に……」


 動揺する心臓を抑えながら、普通の会話を心がける。

 先生は──元刀持ちだ。

 雨の日に俺の生家の近くで倒れていた所を、俺が拾って治療をして、その縁で俺は明神に迎えられた。

 だから俺は、先生が元々刀を持つ人だってことを知っている。

 知っている、はずなのに。

 なんだってこんなに驚いて、なんだってこんなに──緊張しているんだろう。


「ソウくんしっかりして。まずは和穗ちゃんとハルくんの無事を確認しよ」

「あ、は、はい」

「大丈夫? ……あ、コレ? 久し振りだからびっくりしちゃった?」

「そう……ですね。先生が刀持ってるの、久し振りだったから。自分でも驚くくらい、驚きました」

「やだなー、僕だって(つがい)が危ない時には刀くらい持ちますー」


 ハルくんだって刀持ち歩いてるでしょ?

 なんて言われて、確かにそうだ、と納得をする。

 先生が元刀持ちなのも知っていたし、ハルが先生から刀を習っているのも知っている。

 なのになんで──なんでこんなに、驚いたんだろう。

 俺は、自分の胸に手を当てて首を傾げた。


 しかしそんな穏やかな沈黙は、突然巻き上がった爆炎で一瞬で散ってしまった。

 煤ですらない、単純な爆発の炎。

 俺はとっさに先生を背後に隠して、脇差しを抜く。

 しかし爆炎の余波とこびりつくような煙の匂いは届きはするものの、煤も夜住の気配も、届かない。

 本当にただの、爆発だ。

 でも、なんで?


「先生っ」

「行こう」


 俺と先生は、躊躇もせずに刀を下げたまま爆発源まで走る。

 先生が宙に飛ぶ分だけ距離の違う疾走は、しかしほぼ同時に顔を歪めながら、止まる。

 血の匂いと、悲鳴。

 爆発によって倒壊した建物から逃れようとする人々は刀持ちなんかじゃなく、ただの一般市民だ。


「かあちゃん! おかあちゃん!」

「痛い、いたいよぉっ」

「なに、なにがあったの!」

「ここに夫が居るの! だれかぁ!」


 市民たちの悲鳴が渦巻き、炎の熱が髪を泳がせる。

 夜住の仕業じゃない。

 夜住は、こんな風に派手に攻撃をしないし、熱なんか奴らの天敵だ。

 ということはただのガス爆発か何かか?

 それとも……それとも?


 俺は、血と悲鳴と瓦礫の熱の前で、呆然と立ち尽くしていた。

 俺は──こんなの、知らないんだ。

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