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祓火の番 ―火種は怪異の死骸、灯火は己の命。常冬の帝都に沈む謎を、ハズレ者が焼き尽くす―  作者: ミスミシン
第二章 崩れる平穏、血を流す火

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第十三話 行動、鈴の音

 火族四家の担当地域は、領地だとか領域とかいう仰々しさで呼ばれる。

 言い方はなんでも良くって、ただ「この範囲内に出没した夜住(よすみ)は担当の家が優先的に退治する」という取り決めのようなものだ。

 勿論、近くの領域の応援に行くのはどの家も自由。

 だが、その領域内に出没した夜住の煤は領域を担当している家の火種に焚べられることになっている。

 そうでもしないと、煤の押し付け合いになる可能性があると、何代か前の当主が決めたのだそうだ。


 けれど、先生が見せてきた地図に描かれている印は、どの家の領域とも被っていない微妙な位置だ。

 これでは、どの家の者が行くにしてもおかしなピリつきがあるだろう。

 かといって、ここに夜住が出没しないなんて確証はない。

 今はこの帝都のどこにだって夜住が出没するのだ。

 

 そこまで考えて、俺はふと顔を上げた。

 俺たち火族四家は、帝都の守護を任されてここに居る。

 でも……


「なぁ先生。帝都以外の夜住って、誰が討祓しているんだ?」


 隣で足を崩している先生を見ると、先生は白い瞳を丸くしてからゆっくりと笑みを作る。

 これは、返事をするつもりのない時の顔だ。

 俺はぐっと唇を噛み締めた。


「みんな、知らなかったかしら」


 沈黙する俺たちの中で、霧子さんが肘置きにゆったりと身体を預けながら、言う。

 髪を掻き上げて、するりと指先に絡む髪を時間をかけて落とす姿は、年齢なんか感じさせないほどに妖艶だ。


「夜住はね、帝都にしか出ないのよ」

「えっ」

「なんでかしらね。昔は京にも出てたそうだけど、いまでは帝都だけなの。怪異は普通に出るけどね」

「それは……何故」


「さぁ、なんでなんだろうね」


 帳先生の声は酷く小さくて、ともすれば隣に居る俺すらも聞き逃してしまいそうな大きさだった。

 彼の中では何かの確信があって、でもそれはきっと外に出されることはない。

 番である俺だけに分かるような、そんな些細な声色だった。


 気になることは多かったが、この日の会議はこれで終了となった。

 全員が夜住の出没地域に意識が奪われてしまったというのもあるが、何より陽が落ち始めていたからだ。

 陽が落ちれば夜住が出る。

 それまでに当主及び次期当主は、刀持ちたちに警邏の指示を出して自らも見回りにでなければいけない。

 勿論、俺もだ。

 稽古は出来なかったが、疲労は稽古の比ではない。


「……ひとまず、各家何人かずつ連絡係を作りましょう。ウチに寄越してくれれば、こちらからも送ります」

「わかったわ。明日には刀持ちを送るわね。よろしくね、沙弥」

「かしこまりました、霧子様」

「日向子。選出を頼んでもいいかな」

「お、おまかせください!!」

 

 ひとつだけお願いをして、俺は神風(かみて)さんと霧子さんを見送った。

 俺は他の当主たちを見送ってから、自分の部屋に戻って対の刀を取る。

 二刀一対の太刀と脇差し。

 脇差しの方は、俺が明神家に来た時に用意されたものだと、帳先生が言っていた。

 だからだろうか。俺はどうしても、こっちの刀は防御用にしか使えない。


「ソーウくん。和穗ちゃんとハルは、今日中に刀持ちを寄越してくれるって」

「そうですか」

「悩んでる?」

「……どうでしょう」

「んー?」

「どこに悩んでいるのか、悩んでいます」


 なぁにそれ。帳先生は不思議そうな顔をするが、俺は俺でうまいこと言葉が出てこない。

 珍しくトトト、と足音を立てて横に並んだ先生が見上げてくるが、なんとなくざわざわした気持ちが落ち着かなかった。

 さっきの地図の印を見た時から、なんだか目が疼く。

 あそこには何かがあるぞと、何も見落とすんじゃないぞと、無意識下でそう思っているような、妙な疼きだ。


 先生は、何も言わなかった。

 ただ、先生の帯に結ばれている鈴だけが、俺達の間で音をたてていた。

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