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祓火の番 ―火種は怪異の死骸、灯火は己の命。常冬の帝都に沈む謎を、ハズレ者が焼き尽くす―  作者: ミスミシン
第二章 崩れる平穏、血を流す火

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第十二話 四家の領域、空いた隙間

 別に先生に反発したいわけじゃない。

 ただ、先生が近くにいる、と思っただけでどこかに消えた頭痛だとかイライラだとかがスッと消えたことをまだどうにも受け入れきれないだけだ。

 刀主と灯守(とうもり)はそういうもの。

 わかっていても、神風(かみて)さんと日向子を見ていたからか、なかなか思考が切り替わらない。


 そんな俺を見てちょっと拗ねた顔をした先生は、俺よりも一回り以上年上とは思えない表情をする。

 実際この人、いま何歳なんだろうか。

 ──あの日、俺が死にかけているこの人を見つけた時にはすでに刀持ちとして「刀主よりも強き者」とまで言われていた人だ。

 相当の実績は積んでいるはずだが、その素の顔には未だにわからないところがたくさんある。

 なんであの日、あの場所で死にかけていたのか、ということも、未だに知らない。


 俺の番なのに。

 

 そう思うと焦りが浮かぶが、幼い頃からこの白い手で頭を撫でられると、どうにも押し黙ってしまう。

 その手がまた、幼い子供を宥めるような手つきなものだから、もう。

 なんなんだ、くそ。悔しい。


「なーんか、拗ねちゃってんの?」

「先生がご当主様のトコで愚図愚図してるからじゃないですか」

「あれ、ハルくん手厳しいね」

「こういう大事な時は、灯守は刀主についてなくちゃ」


 いや別に、拗ねてるわけじゃない。

 反論はしたいけれど、ここで口を開くとなんだか余計に拗ねているように見えるかもしれないと思って、俺は黙っておくことにした。

 先生はハルの言葉にきょとんとしていたけれど、少しして納得したような表情で俺の隣にストンと座った。

 その表情はなんだか嬉しそうなニヤニヤ感があって、また少しイラッとする。


 刀主は灯守がそばにいることで安定するが、灯守は刀主に必要とされることで悦びを得る。

 と、言われている。

 今の先生はその状態なんだろうか。

 その心情までは本人しかわからぬところだが、俺は笑顔を浮かべる先生に無言で手を差し出した。

 先生は少し首を傾げながらも、それを黙って受け入れる。


 うなじから首筋を這うように刻まれている刻印は、灯守によって形が違う。

 同じ刀主から刻まれる刻印に同じものはふたつと無く、刻印がある灯守は明確に「刀主のもの」だ。

 恋愛関係でも、伴侶でもないが、所有欲や独占欲だけは生まれる存在。

 そのうなじに触れる手を拒まれないことで、わずかに安堵する。

 まるで赤子が硬い布をしゃぶるように、毛布を手放せないように、時折こうして触れて心を落ち着けてしまう。

 

 何かを確かめるようなこの行為が時折恥ずかしくなるのは──その存在への独占欲に羞恥心を抱いてしまうのは、やはり自分が養子だからなんだろうか。

 先生は「反抗期が遅く来た」なんて言うけれど、そういう子ども扱いにも少し座りが悪い。

 まぁ俺は明神に引き取られてから先生に育てられたようなものだから、無理もないのかもしれないが。

 これでももう、20を越えているのに。


「ふふ、有能な先生はヒントを持ってきてあげましたよ~」

「ヒント?」

「日本語で言う手がかりのことだよ~」


 座ったまま腰に手を当てて胸を張る先生に、刀主たちの視線が集まる。

 先生は、その視線に口角を上げて笑って胸元から一枚の紙を取り出した。

 取り出した紙は、等高線も描かれている帝都の地図だ。

 しかし記されている建物や地形が今と少しばかり異なっているので、少し前のものなのだろう。

 先生がそれを俺に見せてから、他の刀主灯守たちに見えるように畳の上に広げて見せる。

 どれどれと首を伸ばした一同は、しかしその紙の意味が分からないようで俺を見た。


 そんな顔をされても、俺だってこの地図の意味はわからない。

 先生は手がかりと言うが、一箇所しか印がつけられていないこれが一体何の役に立つと言うのだろうか。

 全員でじぃっと地図を見つめてみても、まるで分からない。


「あ、これ……この印の場所は、四家の領域に微妙にかぶって、いない?」

「あ」


 そんな中で何分経過したのか。

 神風さんの一言で、突き合わせた頭の距離がまた縮まる。

 確かに神風さんの言う通り、意味深に朱色の墨で印がついている場所は、今の火族四家の領域からは少し外れた場所にあった。

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