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伝説の暗殺者、悪役令嬢に転生する  作者: 榎やかのこ


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屋根の上での攻防

■第8話



 ぶつかった衝撃で木製の手摺りが弾けて木片を散らした。

 咄嗟に避けたオフィーリアは転がるように床に突っ伏し、階下へと視線を巡らせた。

 1階は、魔術師が倒れたことで影たちに圧され始めている。


 ――キィン


 再び空気を裂くような音と共に手摺りに衝撃が走った。


「な、なんなの!? どこから攻撃してきてるのよ!」


 見えない攻撃にマルガが頭を抱えて床に伏した。


(弾道が浅い……)


 オフィーリアには、自分と同じ魔力の弾丸を飛ばしてくる者がいると気づいた。

 魔力を込めた目で見えたのは矢ではあったが、その速さはオフィーリアが放った魔法の弾丸と変わらない。


(こいつは――)


 床に転がるオフィーリアの目の端に、2階の回廊の柱の陰に魔法の残滓が見えた。

 向こうも警戒しているのか、すぐに顔を出そうとはしてこない。

 オフィーリアは手を伸ばし、柱に照準を合わせた。


「『ショット』」


 オフィーリアの弾丸魔法が発射した。

 小さな炎の塊はギュルギュルと高速回転して飛んでいくと、柱に当たり木片を大きく撒き散らした。

 それに反応するように、陰に潜んでいた者が姿を現した。

 フードを被っていて顔は見えなかったが、若い男のようだった。

 魔術師は床を転がり、隣の柱へと入り込むと、再び顔を出して魔法の矢を放った。


 ――キィン


 矢はオフィーリア目掛けて飛んできた。

 しかし、今度は手摺りを越えて湾曲して頭上に落ちてくる。


「――っ!」


 咄嗟に床を転がり、紙一重でかわすことができた。

 しかし、魔術師を狙って手を向けたときには、柱に隠れてしまって一部も姿は見えない。

 一度仕切り直すつもりで、オフィーリアは体勢を変えた。

 そのとき、床に大きなくぼみができているのを目にする。


(さっきの矢は、矢の飛行の物理法則に反した飛び方をしていた)


 オフィーリアは、少し離れた場所にいるカイルに問いかけた。


「さっきの矢は、急に飛行ルートが曲がったように見えたが、あれの物理法則はどうなっている?」


「そうですね。魔法はイメージです。弓は真っ直ぐ飛ぶばかりではなく、上に放てば下に落ちる習性を理解していれば利用できます。さっきのは風魔法か他の複合魔法で飛行ルートを曲げたんだと思います」


「魔法はイメージ……この世界に銃はないと言ったな」


「はい」


「ならば、銃の習性というものを変容させることは可能か?」


「どうでしょう。できるかもしれないし、できないかもしれない。魔術師のイメージ次第と言った方がいいでしょうか。例えば、実際には弾丸って曲がったりしないですよね。それをイメージできるかできないかって話になるかもしれません」


「そうか」


 オフィーリアは再び手を伸ばし、弾丸を練り上げた。

 目に魔力を込めて照準を合わせ、手を目標に狙い定めて発射した。


 そのとき、魔術師は3階にいる不審者から放たれた魔法弾を察知して身を屈める。

 投石の魔法だろうか――手から放たれる魔法弾は思った以上に小さいものであったが、その速度と威力は、自分が放つ矢と同等かそれを上回るものだった。

 だが、弾道は真っ直ぐで単調だったため、自分を狙ってくるとわかれば、ギリギリでかわすことはできた。

 あとは陰に潜んでしまえば、障害物が弾を受ける。


「くっ、馬鹿め。そんな小さな魔法で俺がやられるわけがないだろう」


 魔術師は、不敵に笑って柱に命中するのを待った。

 ところが、オフィーリアの弾は、柱から外れた。


「外しやがった!」


 弾は、柱のそばを通り抜け、その向こうにある窓へと飛んでいく。

 そして、窓に設置してある魔道具に命中した。


「――っ!?」


 爆弾の魔道具は、オフィーリアの火魔法で練られた魔法弾が命中したことで魔道具は発動し、窓ごとその周辺を吹っ飛ばした。

 爆発は思ったよりも小規模であったけれど、爆発の衝撃で割れたガラス片と爆風が魔術師を襲った。


「うわああっ!」


 魔術師は、爆風の勢いで手摺りに衝突し、そのまま階下へと落ちていった。

 突然の爆発と上から落ちてきた死体に驚き、生徒たちがさらにパニック状態になる。

 階下で戦っていた衛兵たちもまた動揺を隠せなかった。


「なんで爆発したんだ!」


「あそこには魔術師がいたから誤爆したのかも」


「ちっ、使えねえな。早く体勢を立て直せ! 第1王子が逃げるぞ!」


 2階の爆発した窓は、外へ唯一抜けられる場所となった。

 そのため、影たちも2階へ向かって外に出る算段をとろうと、階段の方へと移動を始めた。

 それを衛兵たちが阻止しようと、また新たな形勢での攻防戦が始まった。


「影が窓の意味を理解したようだ。これで第1王子は外へ逃げられるだろう。ここでの役割は終わった。私たちも先を急ごう」


「あ……ありがとう」


 走り始めたオフィーリアの後ろで、マルガが小さな声で礼を言うのが聞こえた。




 梯子を見つけ、屋根裏へと上ると、そこは真っ暗だった。


「『ライト・ライト』!」


 マルガが光魔法を発動させると、頭上に小さな光の玉が浮かび上がり、天井裏一帯を薄い明かりで照らした。

 屋根裏は、天井の梁とキャットウォークが交差していて、高さもそこそこあり、思ったよりも動きやすい空間になっていた。


「このホールって天井が高いでしょう。だから、天井板の補修とか照明の点検とか、あと照明に使われている光の魔道具の交換は、ここでやっているそうよ。だから、思ったよりも広い空間なのね」


 生徒会の手伝いをしているマルガがそう言いながら周囲を見回した。

 壁側にはロープや工具などが置かれている棚があった。


「道具や棚に埃が積もってないですね。この舞踏会の準備で人が出入りしていたのでしょう」


「それだけじゃないだろう。きっとあのテロ集団もここに入っているだろう。下をあれだけ爆弾の魔道具を使って袋の鼠にしているんだ。自分たちの逃げ道を用意しているとしたら、同じように屋根から逃げることを考えているのだろう」


 壁にはいくつもロープがひっかけてあるが、フックの数の割にはロープが少なかった。


「計画が失敗しても、ここに逃げてくるだろう。先を急ごう」


「屋根へ出られる扉はこっちよ」


 マルガが煙突のそばの梯子を指差した。

 オフィーリアは、壁のロープと棚から大きなカラビナを6つ取り出した。


「オフィーリア嬢、何をしているのですか?」


「私たちの脱出道具だ」


 そのとき、轟音と共に建物が揺れた。


「きゃっ! 何!?」


「下で誰かが爆発させたようだな」


「ええっ!? それじゃあ、建物壊れちゃうの? 私、死んじゃうの? いやあああ!」


「落ち着いて。さっきオフィーリア嬢が爆発させたときの振動と同じくらいだから、きっと影があれを参考に扉か窓を爆発させたのかもしれません」


 パニックを起こすマルガをカイルが宥めた。

 しかし、爆音と振動はこれだけではなかった。


「まずい。誘爆したかもしれません。オフィーリア嬢、早く行きましょう!

何を探しているのですか? 手伝いましょう」


「必要なものは見つかった」


「それで何を――」


「説明は後だ。下手をすればこのホールは崩れる。早くここから脱出しよう」


「早く行きましょう! オフィーリア様!」


 マルガはそう言って我先に梯子を上り始めた。

 屋根の上に上がると、ひとりの男がいた。

 下の衛兵たちと同じ格好をしているが、その顔からは騎士としての風格は少しも感じられないほど荒んだ目をしている。


「おい、ここで何をしている! おまえたち、下で拘束されていたんじゃないのか」


 男が剣の柄に手をかけて、こちらへと向かってきた。


「下におりろ! でないと痛い目をみるぞ!」


 そう言って剣を鞘から抜いて振り上げた。


「きゃあっ!」


 脅しのつもりで振り上げたであろう剣を、カイルが手にしていた剣で振り払った。

 冷たい金属音が鳴り、男は弾かれた剣に引っ張られてバランスを崩した。

「2人とも、ここは僕が! ここで少しは僕もカッコいい見せ場をつくらないとね」


「この、大人をなめんじゃねえ!」


 どうにか屋根の上で尻餅をつかずに済んだ男は、よたつきながらも立ち直って剣をカイルに向けて振り上げた。

 カイルはその剣を受け止め、切り結んだ。

 男の剣は、乱雑で無駄の多い動きをしているが、腰の入れ方や立ち回り方は実践を経験している者の動きで、思ったより隙がない。

 しかし、カイルもそれを無駄のない動きでかわし、剣に無駄な力が見られない。

 騎士の剣裁きとは少し違う、こちらも実戦経験のある立ち回りと剣裁きだった。

 カイルの腕を確かめたオフィーリアは、周囲を見渡し、目的のものを探した。

 先ほど衛兵がやってきた方向に、屋根から向こうの森の木へと張られたロープを見つけた。

 壁にかかっていたロープが少なかったことを鑑みて、屋根から脱走するためにロープをあの屋根裏に用意していたのだろうと察した。

 ロープの張り具合を確認し、オフィーリアは持ってきていたロープを、ドレスに差していたナイフで切り始めた。


「ねえ、このロープで逃げるの? 私、こんな所から飛び降りるなんてできないわよ」


 下を見てマルガは青ざめ、喚いていた。


「ねえ、聞いてます?! 私、こんなところから下りれないって――」


「マルガ……」


 オフィーリアがマルガを抱き寄せた。

 驚いて言葉を失うマルガの顔に、オフィーリアは自分の顔を近づける。

 目と目が間近に迫り、マルガは思わず赤面した。


「お、オフィーリア……様?」


「いいか。敵はこのロープで脱出する予定だ。つまり予め用意されていたものだから頑丈にできている。私の言う通りにすれば、おまえは助かる。大人しく言うことを聞けるか?」


 オフィーリアはとても整った顔をしている。

 マルガのような可愛らしい顔とは違い、涼やかな美しさで、男装したら美麗な男性に見えるのではと思える中性さも持ち合わせている。

 マルガはうっとりと見惚れ、素直に頷いた。


「は、はい……あなたの言うとおりにします」


「よし」


 マルガの返事を確認すると、オフィーリアはマルガのドレスをナイフで引き裂いた。


「ぎゃあああ! な、なんてことをするんですか! ウィル様が贈ってくれたドレスなのに!」


「うるさい。このままだとロープが結べないんだ」


 オフィーリアは、ドレスを縦に引き裂き、ロープを股間に通した。


「ひゃあっ! はしたないですわ!」


「うるさい」


 マルガが手で抵抗しようとしたが、それを払い除けて素早く両足にロープの輪を通して腰に巻きつけ、カラビナを取り付けた。


「これは安全装置だ。これがあれば落ちない。あと、手袋代わりだ」


 そう言ってマルガのドレスの裾を切って、手に巻きつけた。

 それから先ほど短く切っていたロープにカラビナを留め、張られたロープへと取り付けた。


「準備はいいか」


「え? なんの準備……って、え? え?」


 マルガが狼狽えている間に、オフィーリアは張られたロープに取り付けロープをマルガの腰のカラビナに取り付けた。


「いいか、この垂れてる方のロープをしっかり握るんだ。落ちはしないから安心しろ。木に辿り着いたら、腰のカラビナからロープを外せ。いいな」


「え? え? はい!」


「いくぞ」


「え? あ、きゃあああああああああ――!!」


 いきなりオフィーリアに背中を押されたマルガは、屋根から踏み出し、宙を舞った。

 体重の重みを利用して、傾斜がかったロープを滑るように落ちていく。

 マルガは何がなんだかわからないまま森の木の中へと消えていった。

 マルガが無事に下までいったことを確認したオフィーリアは、まだ剣の音が聞こえる方へと向かった。

 いつの間にか人数が増えていた。


「すみません。衛兵たちが湧いてきちゃって」


 下の爆発で逃げてきた衛兵たちが5人ほどいた。

 倒れている衛兵も3人いたが、ひとりに対して5人は分が悪かった。

 カイルも腕を負傷しており、やや圧されているようだった。

 オフィーリアはナイフを手にとり、背後からカイルに斬りかかろうとしていた衛兵目掛けて投げつける。


「ぐあっ……」


 自分の背後でナイフを受けて倒れる衛兵を、カイルは確認すると、その先にいるオフィーリアに微笑んだ。


「ありがとうございます。ゴルディに助けられるなんて光栄だ」


「そのゴルディのことだが、後で聞かせてもらうぞ。そのために生還するんだ」


「こんなところで死んだりしませんよ」


 カイルとオフィーリアは背中合わせになり、向かってくる衛兵を倒していった。

 持ってきたナイフを使い切ったオフィーリアは、体術で相手の首をへし折り、剣を奪い、斬り伏せていく。

 流れるような手際であっという間に5人の衛兵は戦闘不能になった。


「ああ、間近でゴルディの戦闘を拝める日がくるなんて……この世界に転生してきてよかった」


 漫画で見たことのある戦闘シーンをリアル体感したカイルは感動して目を潤ませている。


「おい、遊んでる暇はないぞ」


 階下でまた爆音がし、建物が振動する。


「おっと、オフィーリア様、早く逃げましょう……って、何してるんです?」


 我に返ったカイルは、オフィーリアが倒れた衛兵たちを積み上げているのを目にする。

 衛兵たちが積み上がったことでその下にある扉は見えなくなった。


「この扉をそのままにしていたら、下からまた敵が湧いて出てくるから開かないように重しを積んでいる。死体も使いようだ」


「僕も手伝います!」


 2人で倒れた兵たちを扉に積んだ。

 そうしている間にも建物が揺れ、不安定になっているとわかる。


 わああああ――


 外が騒がしくなった。

 下を見れば、ホールから捕まっていた生徒たちが外へと逃げていた。


「どうやら無事に外へ出られる場所ができたようですね。さあ、僕たちも早く行きましょう」


 そう言っている間に再び爆発音がして、今度は建物が大きく揺らいだ。


「主要の柱が爆破されたようだ。ここはもうもたないな」


 オフィーリアは張られたロープにカラビナを取り付けた。


「身体にロープを巻いている時間はない。まがりなりにも、騎士の真似事ができるんだ。体力はあるな」


「はい。オフィーリア様を抱えて飛び降りるくらいの体力と気概はあります」


「なら、このロープを掴んで飛び降りろ。ロープの先にマルガがいるはずだ」


 カラビナに取り付けられたロープは円形に結ばれていた。

 それを見たカイルは、ロープを掴んだ。


「あなたが先に――」


「私はおまえたちをここから脱出させる依頼を受けている。最後まで見届けてから脱出する」


「……わかりました。では、下で再び逢いましょう。気をつけて!」


 カイルはそう言うと、屋根を蹴った。

 勢いよく傾斜になったロープを滑り降り、森の中へ消えていった。

 それを見届けてオフィーリアも飛び降りようとしたとき、背後で爆発が起こった。



<続く>

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