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2∶はじめまして異世界⑤

誤字脱字や文章が読みにくい点などあるかもしれません。


前回よりだいぶ間が空きました。

更新もゆっくり目になると思います。

 書斎を後にした三姉妹はセバスの案内に従って部屋を見て回った。与えられた3部屋は隣同士で並んでおり、目印としてそれぞれの扉には模様の入ったプレートが下げられていた。

 月が奏、羽根が愛、クローバーが葵となっている。室内は12帖より少し小さめだが、一人部屋としては十二分に広い。元は空き部屋で稀にしか使われていないのだという。しかし、公爵邸なだけあり手入れを怠るなどの手抜きは一切感じられ無かった。

「何かありましたら呼び鈴を鳴らして下さい」とセバスはやはり会話には深入りせずに立ち去った。

「休憩しようか」と、愛の一言で三姉妹はとりあえずクローバーの部屋で腰を落ち着ける事にした。


「なんか緊張したね」

「そうね」


 愛が紅茶を一口啜って言い、奏が頷く。

 【予言の少女】に【理の扉】、さらには【神の器】や【不可侵の聖域】……。

 あまりにも情報過多であるのと、どうしても避けられないであろう話の重みに三姉妹は押し潰されてしまわないようにと気を保つので精一杯であった。

 警告を受けた葵はぴったりと姉ふたりに身を預けている。


「葵ちゃん大丈夫?」

「はい。と言いたいですが、今はこうしていたいです……」

「ふふっ。好きなだけどーぞ♪」

「私も今はこのままでいたいかな」

「歓迎するよー♪」


 愛を真ん中に葵と奏が身を寄せ合う。愛は両腕でふたりを抱き込んだ。

 リヴァインやクロフォード邸の人たちが味方だとしとも、こうして信頼を置けるのは今はまだ自分たちだけだ。


「良かったね。リヴァインさんたちが良い人で」

「そうね。一時はどうなるかと思っていたけれど」

「漸く落ち着きましたし、お父さまたちと連絡を取れると良いのですが……」

「そうしたいけど、無理だろうね」


 葵の悩みにきっぱりと言い放つ愛。

「これを見てよ」とポケットの中を弄り、愛があるものを取り出す。それは葵たちにとっても馴染みのあるものであった。


「スマホ?持ってたの?」

「うん」


 慣れた手付きで愛はスマートフォンを操作する。電源が入り、待受画面をふたりに見せた。葵と奏が覗き込んでみると、直ぐにおかしな点に気付く。


「電波が遮断されてる?」

「そう」


 電波のアイコンにバツ印が付いていた。が、ここは異世界なので電波が通じないのは当然である。三姉妹がおかしいと感じたのはその隣にあった。


「何でしょう?これ」

「見たことないアイコンね」

「何かのアプリとかかなぁ?でも電波の横につかないよね」


 葵が指差した先には不思議なアイコンが印されていた。


「操作できる?」と奏が愛に聞く。

「まだ試してないよ。やってみよっか」と愛は頷く。

 試しに元からある電話帳やSNSのアイコンをタップしてみたがそれらは起動すらしなかった。それから謎のアイコンもタップするものの、こちらも反応が無かった。


「うーん。何も起きないなぁ」

「パスワードとか、何か条件があるのかしら」

「だとしたら今は難しそうだね」

「そうですね……」


 希望を見いだしかけていただけに三姉妹は落胆してしまう。


「どうして愛のスマホは持ってこれたのかしらね」


 そもそも愛がスマートフォンを持ち込めて来ている事に疑問を持つ。葵と奏も持っていたが、肩から下げていた鞄ごといつの間にか無くしてしまっていた。


「必要だと思われたのかな?けど電波が入らないんじゃ使えないよねぇ」

「……魔法で繋げられないでしょうか?」


 葵の発想に姉ふたりもあっ、と閃く。


「そっか!もしかしたらこのスマホも何か変わってるかも」


 三姉妹が【恩恵】を授かったように、スマートフォンも何かしら変化を与えられているかもしれない。仮にそうであったとしても全く想定しない力を加えるので相当な負荷は掛かりそうだと懸念も抱く。

 ──しかし、魔法で繋げる以前の問題があった。


「でも肝心の魔法が使えないんだよねー」

「使えないの?あの時のは?」


 残念だと項垂れる愛に奏が聞き返した。確かに愛は魔法を使って姉妹を守ってみせたのだ。あの時限りとは到底思えず、奏は小首を傾ける。それに愛はゆるりと首を振った。


「あれはぼくじゃなくて精霊さんたちの力だよ。ぼくらのまわりにたくさんいたでしょ?」

「そうなの?」

「そ」


 魔法を使ったという感覚はあるものの、それが自身力によるものではないと、そう断言する。


「その精霊や魔力とか」

「今は何も感じませんか?」

「んー……」


 奏と葵から縋るように見つめられ、愛は目を閉じて集中する。


「精霊さんたちとかは視えるけども……」


 自らの中に魔力らしきものは感じられない。しかし、代わりにこれまで視えなかったものが視えるようになっていた。大気中に舞う精霊たちや、彼らとは違う光の粒子もちらほら視える。


「精霊さんたちにご助力を願うのは──とも思いましたが、難しいですよね……」

「この世界にもこういったものがあるのかしら?」

 葵の提案に奏が首をひねる。この世界にはスマートフォンといった機器は無いのでは?と考えたためだ。

「精霊さん。どうかな?」


 愛は精霊たちに尋ねてみる。彼らは変わらずふよふよと飛んでいた。言葉は無くとも不思議と彼らの意思が伝わってくる。……けれども良い返事ではなかった。


「こっちには無いから無理だって」

「……愛もすっかり精霊の言葉を解るようになってるわね」

「そう言えばそうだ」


 奏に指摘されて愛は今更自身の特異性に気付く。無自覚だった事に奏が呆れる。葵は微笑んだ。


「愛姉さまは昔からそうでしたよね。猫ちゃんともよくお喋りされてましたし」

「あれは気が合っただけというか。猫語とかさっぱりだし」

「同じ猫だと思われてたんでしょ。精霊たちもそう思ってるかもよ?」

「ぼく、人間なんですけど……?」


 他愛のない話に逸れていき、三姉妹は笑い合う。けれども葵だけはどことなくぎこちなかった。


(わたしたちは帰れるのでしょうか)


 込み上げる気持ちを抑えようと葵は膝の上に置いた手を握りしめる。お気に入りのスカートに大きなしわがつくも、気にする余裕もなかった。

 三姉妹が忽然と消えてしまったのだ。家族は心配しているに違いない。長引けば友人たちや懇意にしてくれる人たちの耳にも当然触れるであろう。

 例え神が彼らの前に現れて説明しようともそう簡単には受け入れられないどころか、更に混乱を招くのは目に見えている。

 そして、このまま帰れずにこの世界で生きていくなんてことになってしまったら──。

 葵は思いを馳せる。


(何よりも、寂しい……)

「葵ちゃん」


 愛が葵の手を握った。


「帰れないと決まった訳じゃないよ」

「!」


 心を見透かされた葵は愛と目を合わせる。


「奏姉とも話したけど。神さまから託されて此処に導かれたのなら、それを終えれば帰る手筈を見いだせるよ」

「私たちが諦めない限り、希望はあるわ」


 奏も葵と愛の手に重ねる。

 ふたりの瞳は揺らぐ事はなく、惹き込まれそうな程に強い眼差しであった。


「……そうですね」


 吐き出しかけた弱音を、葵は無理矢理飲み込んだ。

 辛いのは自分ばかりではない。それに奏と愛もいる。そんな葵の心境に奏と愛は理解を示した。

 その後、三姉妹は夕食に誘われたが丁重に断った。代わりに軽食の時と同じように部屋に運んで来て貰い、3人で囲んで食べた。誰が作ったのかはわからないが、温かくて優しい味に葵がぽろぽろと泣き出してしまう。奏と愛は妹の小さな背を撫でた。

 それから三姉妹は一緒のベッドで眠る事にした。


「希望はある、なんて言ったけど……きっと私自身がそう願っているのかもしれないわね」


 ぽつりと奏が言う。一先ず落ち着けるようになったからか、気づかない内に押し込めてきた感情の波が溢れ、奏の目から涙が流れ落ちた。葵も未だに泣き止まない。


「良いんじゃない?絶望するよかはるかにマシだよ」


 啜り泣くふたりの手を握り、愛はカーテンから覗く窓の外を眺める。


「それに……いざという時はぼくがふたりを守るから」

「それはまた話が違うんじゃない?」

「いーの!ほら、おやすみ!」


 昼間は目が眩みそうになるほどの色や音を持っていた異世界の夜は、冬のような静けさが広がっていた。

 深い夜は、三姉妹を眠りへと誘った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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