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2∶はじめまして異世界②

※誤字脱字や文章が読みにくい点などあるかもしれません。


 三姉妹がお世話になるお屋敷に到着です。

 ここからしばらくの間、このお屋敷で過ごすお話になります。

 

 瞬きの間に景色は一変していた。それでもまだ街より離れた場所にいると奏と愛は把握する。

 遠くに見えていた街の屋根がひとつひとつはっきりと捉えられるようになり、街道に植えられた鮮やかな並木も、大広場に湧く噴水も見える。最奥に悠然と構える建造物はやはり桁外れに大きく、外壁の美しさから城を思わせた。

 街並みからくるりと振り返れば大きな屋敷と、目を引く庭園が広がっていた。三姉妹の実家も大自然に囲まれた土地であるが故に相応の広さがある。けれども目の前の屋敷は二回り以上はありそうな程で、それを囲う多彩な草花たちが蒼い屋根と真珠色の外壁を引き立たせており、まるでひとつの絵画のようであった。


「ここが、リヴァインさんのお家ですか?」

「本当に人が住んでるんです?」


 驚嘆する姉妹の突飛な発言に、リヴァインから笑い声が漏れる。


「ちゃんと住んでいるし、ここで間違いない」


 おいで、とリヴァインの手招きに奏と愛はついていく。庭園を抜けて扉が開かれる。景観を崩さない大広間には使用人と思わしき人たちがずらりと並び、圧巻であった。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「私のいない間に何か変わりないか?」

「先の強い力の流れによるこちらへの影響はございません。……おや、そちらの方々は……?」


 リヴァインと話す執事らしき初老の男性が三姉妹へと視線を向ける。


「予言に詠われた少女たちだ。あの現象はこの子たちのもので間違いないだろう」

「なんと……!左様でございますか」

「ああ。丁重に頼む」

「畏まりました」


 報告と指示を承った男が恭しく頭を下げる。それから三姉妹へと笑んだ。温和な笑みから滲み出る深い敬愛に気圧されてしまい、奏と愛は僅かに後退る。


「もしかしてぼくらってこの世界ですごーく重要なポジションに立たされてたりする?」

「あの様子からそうでしょうね。ここの方々の反応だけでは判断は難しいけれども」


 ふたりはひっそりと耳打ちする。

 予言が何なのか謎が増えるばかりだが、歓迎されている事だけはふたりとも理解できた。


「お待たせしてしまい申し訳ございません」


 リヴァインと話をしていた男がやって来る。


「私はクロフォード家に仕えるセバスと申します。お部屋をご用意しましたので私の後に付いてきて下さい」


 微笑みを携えたまま、洗練された所作で案内を申し出た。執事である男はセバスと名乗った。リヴァインよりは頭一つ分低いがそれでも長身の部類に入るスラリとした体躯。オールバックの白い髪に、壮年期中期の顔立ちに白い髭と灰色の瞳。黒のスーツと似た衣服を着こなし、物腰から誠実さと忠誠心の高さが窺えた。

 理想的な老紳士に「格好良い」と愛はうっとりする。奏が小突いて早々に我に返らせる。そんなやりとりにもセバスは眉ひとつ崩さなかった。


「こちらです」


 セバスに連れられて三姉妹──葵はセバスに抱きかかえられながら、彼らが用意したという部屋へと通された。質の高い調度品が集うものの、派手な装飾の類は見られない。広々とした間取りに清潔感があり、陽当りも良好で居心地が良さそうな空間となっている。

 自分たちの住まう屋敷とは全く違う雰囲気に後込みしつつも、奏と愛は促されるままにソファーへと腰を落ち着けた。未だ眠る葵はベッドへと寝かされる。


「直ぐに軽食を用意させますので少々お待ち下さい」


 失礼します、と頭を下げてセバスは部屋を後にした。


「はあ~……さすがに疲れたぁ」

「ようやく一息つけるわね」


 力が抜けたように奏と愛はふかふかのソファーに身体を沈める。窓の外はまだまだ明るい。奏は左手首に嵌めた腕時計を見る。異世界転移の影響に耐えられなかったようで、針は動いていなかった。


(神さまのお願いを叶えるまでは、帰してくれなさそうね……)


 昼下がりを示したままの針に、奏は諦めたように息を吐く。


「お父様たち、心配してるかな」


 愛がぽつりと呟いた。肘掛けに頬杖を付いて窓を見ている。


「してるでしょうね。急にいなくなってしまったんだから」


 同じように窓の外の景色を見やりながら、奏が言った。


「あなただけの責任じゃない」

「奏姉たちはぼくを心配してあの扉まで来てくれた。ぼくのわがままが招いた事態だよ、これ」

「……本当にそうかしら?」


 奏の言葉は愛の沈んだ気持ちを凪いでくれるものではなかった。それに気付いた愛が神妙な面持ちで振り返る。


「神さまが私たちを選んだのは運命の導きだと言っていた。あの洞窟は早乙女家以外は立ち入らないし、私たちが来るのを待っていたんじゃないかって思うのよね……」


 流れるようにふたりは視線を交わせる。


「もしあの時精霊の誘いを断ったとしても、何れ何らかの力でひっぱってこれるよう働きかけてきたかもしれない」

「ぼくたちがこの世界に来たのは必然ってこと?」

「推測の域を出ないけどね」

「…………」


 話していて、ふたりは言い知れない空しさを覚える。けれどもこのまま沈んでいては何も始まらない。そう思い立った愛は、気合を入れるように自らの頬を叩いた。


「愛?」


 びっくりした奏の目が瞬く。にっ、と愛は心強い笑みを浮かべた。


「ここに来たのが必然なら帰るのもまた必然だし、さっさと神さまの用事とやらを終わらせちゃおう!それにこんな事滅多に起きないんだし、折角だから思う存分楽しんじゃおうぜ☆」

「……!」


 このような状況下でも発揮する妹の明るさに、奏はくすりと笑う。


(……そうね。今考えたところで答えなんて出ないもの)


 難しく考えるのは後回しにしよう。そう奏もまた気持ちを切り替える。

 神が選んだ以上、この世界において重要な役割を与えた三姉妹をこのまま放置するような真似はしないだろう。今はそれに従う他ないのは癪ではあるが、一筋の光を見失うわけにもいかない。

 ふたりは力強く頷き合う。ふたりとも同じ思いであった。心做しか部屋の空気も変わったような気がしたところで、ノック音が響いた。


「軽食をお持ちしました。よろしいでしょうか?」

「はーい!どうぞ!」


 セバスの声に愛が元気よく返事をする。

 程なくして扉が開かれるとセバスの他に女性が2人控えており、カラカラとワゴンが運び込まれてきた。奏と愛の前に2人分の軽食が並べられる。未だ眠っている葵の分は後ほど用意するようだ。


「ほわぁ。美味しそう」


 温かなパンとスープの匂いに奏と愛の食欲が唆られる。特に前から空腹を訴えていた愛は釘付けになっていた。


「お食事が終わりましたらお下げしますので、その際はこちらの呼び鈴を鳴らして下さい」


 ことり、とセバスがテーブルの端に小瓶を置いた。持ち手が淡青色に色付いた鐘のような形状をした透明の小瓶だ。配膳を終えたセバスと女性使用人たちは「失礼します」と言い、足音一つ立てずに退室した。


「まずは腹ごしらえだよ!」

「ふふっ。そうね」


 奏と愛は手を合わせて頂きますをする。早速ふわふわのパンに齧りついた。


「美味しい!」

「焼き立てかしら。すごく香りが強い」


 焼き立ての香りが口の中に広がり、ふたりの表情がぱぁっと明るくなる。一口サイズに切られた肉や野菜が彩るスープも優しい味付けであった。

 舌鼓を打ちながらも、あっと言う間にふたりは完食した。再び手を合わせてご馳走様をする。


「これを鳴らせば良いんだよね」


 セバスから説明を受けた通り愛が呼び鈴を鳴らしてみる。すると、小瓶が淡く光り、それに合わせてノック音が鳴った。「どうぞ」と愛が返すと、部屋の前で待機していたのであろう使用人たちが入室し、手早く片付けを済ませていった。

 魔法のようであった。


「…………はや」

「お礼の一言の猶予すら無かったわね……」


 あまりの手際の良さに奏と愛は呆気にとられてしまう。

 お腹が満たされた事で自然と気が緩んだふたりは、それからはただぼーっと静かな時間を過ごす。まだ状況を飲み込みきれていないものの、気持ちは落ち着きを取り戻していた。


(あれが……魔法、なんだ)


 愛は自らの両手を見つめる。

 リヴァインの魔法から身を守った時、身体の内側から熱いものが込み上げ、両手から放つと共に抜けていった。生まれて初めての魔法の感覚は、今もはっきりと残っている。


(本当にあの子たちから受け取ったんだ。そしてぼくはそれを受け入れたんだ)


 両手を握り締めて、愛は笑う。なのにその目は寂しげであった。


「……奏姉?」


 そ、と愛の手に奏の手が重ねられる。愛は顔を上げた。奏もまた、似たような目をしていた。


「ねぇ愛」

「ん?」

「少しだけこうしてても良い?」


 奏が愛に寄り掛かる。


「えっ、めずらし」

「今はそういう気分なのよ。文句ある?」

「いえいえ!寧ろ大歓迎です!」


 滅多に見ない姉からの甘えに愛は息を呑む。しかし、それは思い悩む妹への優しさでもあると気づく。優しさに乗っかって愛も奏に寄り掛かった。衣服から慣れ親しんだ匂いがして、寄せ合った温もりはいつの間にか心の拠り所となっていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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