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2∶はじめまして異世界

※誤字脱字や文章が読みにくい点などあるかもしれません。


ようやく異世界生活がスタートします。

話の展開はゆっくりめです。

「白い扉を触れたら先程の場所にいた、と。それに神が関わっている、か。君たちの話すニホンという国を私は知らないが……」


 奏と愛から事情を聞いたリヴァインが眉を顰める。


「やっぱり、そうですか……」


 異世界への転移が事実となって伸し掛かり、奏は気落ちしてしまう。

 リヴァインは異世界人である三姉妹が欲しがる情報を包み隠さずに教えてくれた。

 三姉妹が転移した先は魔法文明が築かれた世界であった。転移の直前から現れた周りにいる光の集まりは【精霊】で間違いなかった。

 それからリヴァインの放った冷気と愛が守るために使った力は【魔法】と呼ばれ、この世界に生を受けたものは皆【魔力】を宿している。魔法は、この魔力を介して行使できる。

 三姉妹が魔法文明の無い世界から来たと知ったリヴァインはたいそう驚いていた。

 ──それからもうひとつ、わかったことがある。


「なら尚の事怖い思いをさせてしまったな。すまない……」

「急に不審な人物が現れたら警戒されるのは当然のことですし……もうお気になさらず」

「君たちは強いな。詫びになるか分からないが、君たちが識りたいことには出来る限り応えよう」


 リヴァイン・クロフォードは温厚篤実な人なのだろうと奏と愛は認識を改める。

 身形通り、彼は貴族であった。それも公爵家の当主だ。名乗りを聞いた奏と愛が無礼を働いてしまった事を詫びるも、「何も知らないのだから無理もない」と彼は朗らかに笑った。


「あの洞窟もリヴァインさんの領地のひとつなんですね」

「そうだ。それにあそこは精霊にとっても大切な場所でもある」


 三姉妹が転移した場所はクロフォード領の一角にある洞窟だった。

 そこは精霊と深い関わりがある神聖な場として何重もの結界魔法により護られている。立ち入るには国王の許可を得なければならず、結界を破るにも並大抵の魔法使いでは触れることすら叶わない。緊急事態を除いて立ち入ろうものならば、重罪と見做される。

 これまで一度たりとも破られなかった結界の内側に突如現れた形となった三姉妹。それを感知したリヴァインが警戒していたのだという。


(例えこちらが意図せずともね。本当理不尽……)

「はぁ」

「奏姉大丈夫?」


 姉の疲れ切った溜め息に愛が覗き込む。


「私は大丈夫」


 奏からすれば妹ふたりが心配であった。

 【神の器】となり、強いストレスを感じて倒れてしまった葵。リヴァインの魔法により寒さで震え、不思議な力を使った愛。今の所影響を全く感じていない奏はというと単純な疲労だけだ。


「単に疲れてるだけだから。それより貴女の方こそ大丈夫なの?」


 心配される程でもないと奏は微笑む。


「ぼく?ぼくも大丈夫だよ。もう寒くもないし」


 愛も笑顔で応える。偽りのない笑みに奏はほっとする。


「マナ。先程から気になっていたが……寒さを感じたのはいつからだ?」


 ふと、何か引っかかりがあるようにリヴァインが愛に尋ねる。


「えーと……扉を開けてきれいな場所から帰って来てから?」


 愛は素直に答えた。すると、


「──!」


 リヴァインの目つきが変わった。何か思い当たる節があるのだろう。そう見て取れた愛は息を飲んだ。


(やっぱり、あの場所って特別なんだ)

「そう……か」


 平静を取り繕うようにリヴァインが息を吐いた。それ以上の言及もなく、笑みを浮かべる。愛もまだ聞きたいことはあったが、何も言わずに目元を緩めた。


「ねぇリヴァインさん。この洞窟はいつ抜けられるのでしょうか?」


 割って入るように奏が声を掛けた。

 転移する前も山道であったことと、洞窟も奥深いようで三姉妹はすでに相当な距離を歩いている。更に異世界への転移の影響なのか、それとも緊張の糸が張り詰めていたせいか。精神的な疲労も蓄積されていた。倒れてしまった葵だけでなく、奏も、体力には自信がある愛ですら少し休憩を挟みたいと考えていた。

 リヴァインは三姉妹を慮るように眉尻を下げる。


「疲れているところを無理をさせてしまってすまない。もう少しで此処から出られる。この洞窟を抜けた先にある転移魔法陣を使えば私の屋敷まではすぐだ」

「転移魔法陣!?魔法で飛ぶの?ワープするの?」


 転移魔法陣と聞いて愛の顔が煌めく。あまりの豹変ぶりにリヴァインが目を丸くさせる。疲れているにも関わらずとても興奮した様子で迫る妹をどうどうと奏が宥めた。


「……詳しくは君たちが落ち着いてから話そうか。ああ、それと──」

「?」

「屋敷に着いたら直ぐに休むか?それとも何か用意させようか。こちらに出来る限りではあるが、君たちの望みを聞かせてほしい」

「えっ」


 思ってもみなかった提案に今度は姉妹の方が目を丸くした。そう言えば、と結局昼食を逃してしまったことをふたりは思い出す。自覚した途端、ぐぅぅと淑女らしくない音が鳴った。


「……はりゃ」


 お腹を鳴らしたのは愛だった。


「まずは軽食が先のようだ」

「申し訳ありません……」


 ふふ、と小さく笑うリヴァインに居た堪れない面持ちで奏が謝罪する。愛もからりと笑いながら頭を下げた。


「こちらから申し出たのだから気にしなくていい。転移魔法陣の方も充填を終えているだろうから、もう少しだけ耐えてくれるだろうか」

「はい。お気遣いありがとうございます」

「がんばりまーす!」


 三姉妹を気に掛けてくれるリヴァインの優しさに奏と愛は綻んだ。

 それから程なくして一行は洞窟を抜けた。


「うわ」


 奏と愛から感嘆の声が漏れる。

 洞窟は丘の上にあった。広大な土地に見えるのは緑豊かな絨毯に空気に溶けゆく光の粒、陽光に輝くせせらぎと、広大な大地を駆け回る見たことのない動物たち。満ち溢れた自然のずっと先には赤い屋根が連なった街らしき姿と、更に奥には遠くからでもわかる煌びやかで巨大な建造物が窺えた。

 奏と愛が圧倒されたのはそれらだけでない。

 頭上に見えるのは、真っ青な空にぽつんと浮かぶ星を思わせる2つの球体。それから鳥や竜といった、空を生きるものたちが気持ち良さそうに舞っていた。


「すご……」


 まざまざと見せられた異世界の美しさに姉妹はただただ感動を覚えた。


「美しいだろう?」


 いつの間にか足を止めて魅入っているふたりへリヴァインが声を掛ける。ふたりは顔を上げる。実に誇らしげな顔で彼は言葉を続けた。


「遥か昔より此処は精霊と人々が手を取り合って生きてきた。今こうしてこの地に豊かさが齎されているのが何よりもの証だ」


 彼の話は公爵家当主としてのものだろう。領地全体を見据える目は異様なまでに深い色を宿していた。整った容姿が引き立ち、姉妹は目が離せなかった。


「……まぁこの辺のことも追々話すとしよう」


 ふたりが話の内容を理解し難いと判断したのか、す、とリヴァインは視線を下ろした。


「さあ、行こうか」


 歩き出すリヴァインの後を奏と愛が追うと、先の地面に模様のようなものが見えてくる。


「あれが転移魔法陣だ」


 柔らかな緑に小気味良い足音を立てながら一行は魔法陣へと向かう。陣の中へと収まった時、再びリヴァインが口を開いた。


「転移魔法陣も初めてだろう?私の外套に掴まりなさい。その方が魔力酔いも起きない」

「魔力酔い?」


 初めての単語に愛が聞き返す。


「魔法を介したものに触れた際に起きる症状のひとつだ。この転移魔法陣は改良を繰り返しているとはいえ、力の流れに気分を悪くさせてしまう者が一定数いる。非常に稀ではあるものの……酷いときは丸一日動けなくなってしまう。ただ、魔力操作に慣れた者と一緒ならば話は変わる」

「……しっかり掴まってます」


 乗り物酔いと似たような症状だろうか。そう奏と愛は捉える。リヴァインの指示に従わないと後々痛い目を見る事になるのは明白であり、姉妹はしっかりと外套を掴んだ。眠っている葵に関しては、リヴァインが抱えているので問題ない。

 リヴァインがつま先でリズムよく3拍刻む。すると、程なくして魔法陣から光が立ち上った。


「わ……!」


 奏と愛は微かな浮遊感を覚えて、外套を掴む手に力を入れる。周囲の景色が薄れたかと思った次の瞬間には、視界が真っ白に塗り潰された──。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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