1∶出会いと異世界転移④
誤字脱字など、読みにくい文章があるかもしれません。
よろしくお願いします。
「誰かいるのか?」
男性のものと思わしき声が洞窟内で反響した。
三姉妹は思わずびくりとなる。それだけで声の主は気配を感じ取ったらしい。確実に足音が近付いて来る。
程なくして一人の男が現れた。
「!」
三姉妹に気付いた男は歩みを止めた。
前髪が青みがかった長い銀髪。30代前半に見える精悍ながらも非常に整った顔立ちに、アーモンド型の紺碧が入った色違いの双眼。長身に纏うのは高貴な出で立ちと見て取れる装束に瞳と同じ色の外套。
草花からの淡い光でも分かる程の美しい人だった。
「何者だ」
男は恐ろしく冷たい目で三姉妹を見据えた。腰から下げていた鞘から剣が引き抜かれる。それに「ひっ」と葵が短い悲鳴を上げた。これまでに向けられたことのない明確な敵意に身体を震わせる。
「寒さの原因ってこれだったんだ」
全く物怖じしてない様子で愛がぽつりと呟く。気付いた奏が小声で返す。
「そう言えば起きたときにも寒いって言ってたわね。私たちは分からなかったけれど……」
「マジ?今もなんだけど。何なら震えるくらい寒い」
言葉通り、寒さから奏にぴったりくっついている愛の身体は小刻みに震えていた。まるで、体の芯から冷えてしまった時のように。
反対に寒さを全く感じていない奏は、相手からのプレッシャーにより冷や汗をかいていた。
(この人がそうなんだろうか)
奏は男の方へ視線を戻す。
神の言葉は彼を指しているのか。
「……答えられないのか?」
男の目が細められる。剣が淡い光を帯び始めた。周囲で風が巻き上がる。
「は?え?」
今度こそ強い冷気を感じ取れた奏は目を見開く。
「っ……あ……」
ふらりと葵が崩れ落ちた。強いストレスについに限界が来てしまったのだ。咄嗟に愛が抱え込む。手早く奏へと預けるとふたりを守るように前へと飛び出した。
「愛?!」
奏が手を伸ばすも、愛は一瞥もくれずにその手を押し返す。それから両手を男の方へ突き出した。
(もし、あの子の言っていたことが本当なら──!)
愛は扉の先で出会った少年を思い返す。
──あなたはもう精霊たちと心をかよわせることができるから。【祝福の子】、マナおねえちゃん。
印象的な赤金の髪と瞳を持った彼の言葉を信じた。
「精霊さんたち!ぼくの声に応えて!」
愛は精霊へ声を飛ばした。すると、応えるように両手に光が収束する。ぶわりと風が舞い、三姉妹を囲うように薄い膜が貼られた。透明できらきらと輝きを放つそれは、男が放った冷気から守ってくれた。
超自然現象に奏がぽかんとなる。不思議な力を使った愛本人も、そして男の方も驚きをあらわにしていた。
「今のは……?」
「魔法、かな?たぶん……?」
「たぶんって、えぇ……」
どうやら随分と頑丈らしく、冷気を受けても膜は消えずにいる。物語に出てくるような魔法に似た力に戸惑いながら、姉妹はぎこちない表情で顔を合わせる。それから愛は自らの両手に視線を落とした。奏もつい釣られて落とす。
「──いたっ」
不意に男の困惑した声が聞こえてきて奏と愛ははっとなる。
「いたたっ。ちょっ、待ってくれ……!何故こちらを攻撃する──え?」
精霊たちと思わしき光が男の周りを飛び交っていた。男は彼らから弱い力で叩かれているようであった。
「彼女たちが【予言の少女】なのか?それは……すまないことをしたな……」
精霊たちの声が聞こえるらしく、男は非常に申し訳無さそうな顔をしながら話している。きっと叱られているのだろう。そう見て取れた奏と愛は特に口を挟まずになりゆきを見守った。
(いっそこの隙に逃げてしまう?)
逃げる選択肢を挙げようとした奏だが、いや、と頭を振った。彼が神の言っていた人物なのだとしたら得策ではないだろうと思い止まる。
「何話してるんだろうね」
奏の心境などつゆ知らず、愛は興味深げに目を輝かせていた。
それから少しの間待っていると、精霊たちと話し終えた男が剣を鞘に収めた。場を支配していた冷気も静まる。大きく息を吐くと、気まずそうな面持ちで三姉妹へ緩やかに歩み寄ってきた。
奏は葵を抱き込み、愛は再び魔法を撃てるようにと構える。精霊たちもまた、愛の傍を離れなかった。
(あれ?)
そこで、愛は空気の変化に気付く。
(この子たちの気が和らいでる)
精霊たちの声が聞こえるわけではないが、穏やかな流れを感じ取った。
(あの人は敵じゃないの?信じて良い?)
──大丈夫。
心の問いかけに、そう答えが返ってきたように愛は感じ取る。彼らを信じて構えを解いた。三姉妹を守った薄い膜も、シャボン玉のように弾けて溶けていった。
「大丈夫なの?」
未だ不信感を募らせる奏の声に愛は頷く。
「たぶん。この子たちがそう言ってる……気がする。それに逃げるなんて無理っしょ」
「……まぁ、そうね。私たちのことを【予言の少女】と言っていたからすぐにどうこうするなんてことは無いと思いたいけど。……神さまの言葉が正しいのなら、ね」
「信じるしかないよ」
ふたりで耳打ちしていると、男は数歩程距離を置いて止まった。屈んで目線を合わせてくれる。つい先ほどまで冷たい目をしていた人物とは思えない気遣いに奏と愛は愕然とする。
「いきなり魔法を撃ってしまったことを詫びる」
謝罪とともに男は頭を下げた。
「ここ最近各地で異変が起きていて警戒を強めていて、音も無く結界の内側に現れた君たちを疑わざるを得なかったんだ」
「そう、だったんですね……」
異変と結界。
異世界の知識を持ち得ない三姉妹には当然ながら何の事だか分からない。ただ、不法侵入により警戒されてしまった、という点だけは理解できた。
「あのような事をしておいてだが……君たちを私の元で保護しなければならない。許可無く此処へ立ち入った以上、このまま野放しにしておく訳にもいかないのでな」
「……わかりました」
神が言っていた人物は彼なのだろう。
奏と愛は一先ず男に従う事を選んだ。何より、未知の体験の連続に三姉妹は心身共に疲れ果ててしまっていた。
すんなりと提案を受け入れたからか、男はそれを察したようにふ、と柔らかく笑んだ。
「これから私の屋敷へと向かう。その様子だと疲れているのだろう?」
とても温かな笑みだった。近くで見るとより美しさが際立つ。
「その前に、自己紹介がまだだったな。私はリヴァイン。リヴァイン・クロフォードだ。君たちは?」
男──リヴァイン・クロフォードに名を聞かれて奏は少しばかり躊躇った。
「私は早乙女奏。呼びづらいでしょうから奏と呼んでください。この子は葵。私たちの末っ子です」
ファミリーネームが後に来ていることを考慮しつつ名乗った。
「ぼくは次女の愛です。よろしくお願いします、リヴァインさん」
愛も簡潔に応えて笑顔を咲かせる。対してリヴァインの表情が変わる。けれどもそれは僅かなものであった。ふたりは気になったが、疲労困憊の今は言及する気すら起きなかった。
「こちらこそよろしく。それじゃあ行こうか」
「はい」
短い自己紹介を終えて、3人は歩き出した。未だ気を失っている葵はリヴァインが抱えることとなった。
「……私たち、これからどうなるのかしらね」
奏が呟く。対して愛はやはり物怖じしない目で言った。
「帰るのはずっと先になりそうだね」
これから何が待ち受けているのか。自分たちは果たして元の場所へと帰れるのか。
遠くへと来てしまった寂しさを胸に抱きつつ、ふたりはリヴァインの後を付いて行ったのであった。
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