1∶出会いと異世界転移②
※誤字脱字や文章など、読みにくい点があるかもしれません。
ようやく異世界への転移です。
話のペースは非常にゆっくりです。
──はずだった。
「…………今、何か光らなかった?」
逸れたはずの意識が、再び洞穴へと引き戻される。そしてそれは愛だけではなかった。
「光りましたね……」
「3人とも目にした、ということは気のせいではなさそうね」
引き寄せられるように3姉妹はもう一度洞穴の入口付近まで近付く。そろりと穴の中を覗き込んでみるものの、やはり暗闇が広がるばかりである。
三姉妹は確かに光を見た。
あれは何だったのだろう。そう不思議に思い首をひねる。
すると、
「──うわっ!?」
「きゃっ!」
今度は強い光が三姉妹の目を眩ませた。光はすぐに淡いものへと弱まる。しかし、消えることなくゆらゆらと周りを漂っていた。
「お姉さま……!」
「私から離れないで」
目の前の超自然現象に混乱する葵が奏にしがみつく。奏は葵を守るように抱き締める。平静を保とうとする奏もまた、到底理解が追いつかない状況に立ち竦んでしまう。
ただ、恐れと同じくらい目を奪われた。
言葉を発するのも憚れる程に幻想的な光景が広がっていた。まるでお伽噺の中に迷い込んでしまったかのように。……けれども得体の知れない何かに気を許せるほどの余裕など奏と葵には無かった。
(きれい)
ふたりが身動ぎ出来ない中、愛は両腕を伸ばした。恐る恐る指を近付けると、わらわらと光は集まってきた。それは温かかったり冷たかったり。ふわりとした匂いと肌を撫でる風に、愛は懐かしさを覚える。
それから、愛の目ははっきりと捉えていた。
三姉妹を取り巻く大きな光は、ひとつひとつが羽根の生えた小さな光の玉であった。羽根の形や色は実に様々で、ぱたぱたと飛び交う姿は愛らしさもあった。
彼らは敵意を持っていない。そう愛は感じ取る。寧ろ三姉妹を見て喜んでいるようであった。
(この子たちはぼくらを待っていた……?)
ついてきて。
そう言わんばかりに手を引かれ、愛は足を踏み出す。怖いなんて感情は何処かへ行ってしまったのかもしれない。不可思議な現象を前に彼女の中に潜んでいた好奇心が湧き立つ。
洞穴へと誘われていく愛を視界に捉えた奏がぎょっとなる。
「愛!!」
「愛姉さま!」
叫び声にはっとなった葵もまた強く名を呼んだ。当の本人はきょとんとなる。それから二人の心境を察して微笑んだ。
「この子たち、ぼくらに伝えたいことがあるみたい」
「え……?」
「大丈夫。この子たちに敵意はないから」
行ってみようよ。
熱を含んだ眼差しでそう言った。先を行く愛を止められず、奏と葵は互いに顔を見合わせる。それから光へと視線を戻す。光はきらきらと色を変えて、ふたりから少しばかり距離を置いていた。
ふたりが怖がってしまったからだろうか。そんな心配りを感じ取った葵は、そっと奏から離れて導きの方へと歩き出す。
「葵までついて行こうとか考えてる?」
未知との遭遇に未だ警戒が解けない奏が言う。葵は不安な面持ちながら頷いた。決して好奇心などではない。既に先へ行ってしまった愛を追い掛ける為である。
(お姉さまを放ってはおけない。あの光に何処かへと連れて行かれてしまったら──)
悪い方向へと考えてしまい、ぞわりと背筋が寒くなる。泣き出しそうになるのを必死に堪える。けれども、いくら決意を固めようとも葵の足は中々進もうとしない。
「奏姉さま……」
やはり怖いものは怖いのだ。
先に愛がいると分かっていても、ひとりでは勇気がでなかった。
「戻ってこれなくなるかもしれないわよ。葵ならわかるでしょ?」
「はい。でも……」
縋るように奏を見つめる。奏は少しばかり悩んでから、観念したようにため息をついた。
「わかったわよ。どの道愛をこのままにはしておけないしね」
引き留めても聞き入れてはくれないだろう。時たま頑固になる妹の性格をよく知る姉はぎこちなく笑った。
(さっさと愛を連れ戻して家に帰ろう。お父さまたちにこの事を伝えないと)
光が指し示す先に奏も興味がないわけではない。だが、それよりも自分たちの身の安全が優先だ。細心の注意をはらいつつ、奏は葵と手をしっかりと繋いで慎重に歩を進めていった。
──一方、愛はというと歩みを止めてぽかんとしていた。
「何これ?」
進んだ先には大きな白い扉が聳え立っていた。
行く手を阻むように立つそれに小さな光が集まり、愛を尚も誘う。
(これって、異界の扉とかだったりして?)
扉からはここまで導いた光と同じ匂いが流れてきて、より異質な空気が漂う。たったそれだけの根拠で扉の先が異世界へと繋がっているのではないか、と思わせる程に。
ここまで来てようやく彼らの意図を愛は理解する。
「よし」
すっぱりと覚悟を決める。
この扉を開けたらきっと此処へは戻れなくなる。
そんな予感がするも、引き返すという考えは無かった。
(すっかり彼らの虜になってしまったのかもしれない。それに……)
愛はここ最近見ていた夢を思い返す。あれはこの時のための予知夢だったのかもしれない、と。
「この扉に触れて良いの?」
愛が光に確認をとると、彼らはくるくると踊りだす。
(これから先、何が待ってるんだろう)
抑えきれない好奇心を深呼吸を挟んで落ち着かせる。そうして勢いに身を任せて扉に触れた。すると、呼応するかのようにゆっくりと扉は開かれて、愛の視界を真っ白に染めた。
「うわっ──」
「今の声は……!」
「愛姉さま!」
奥から聞こえてきた愛の声に奏と葵が駆け出す。
「どうしましょう!愛姉さまに何かあったら……愛姉さまっ……!」
「とにかく、行ってみるしかないわ」
何が起きているのか分からず、愛を心配する気持ちも相まって気が動転する葵。奏は妹の手を強く握り、半ば引っ張るような形で駆けていく。表面では平静を崩さない奏だが、心の内では冷や汗をかいていた。
(あの時、無理矢理にでも引き返すべきだった?)
「今は、愛を連れ戻さないと」
押し寄せる後悔の念を振り払って、地を蹴っていく。足場の悪さに転んでしまわないように気を配りながら、ふたりはひたすら走り続けた。
洞穴は一本道だったようで、それ程経たずにふたりも愛がいた白い扉の前へと辿り着いた。
「……え」
「なに、これ……?」
強い存在感と威圧感に圧倒されてしまう。
「愛姉さまは何処へ……?」
葵は辺りを見回す。しかし、すぐ近くに愛の姿は無かった。先には扉がある為、此処で落ち合わないのは可笑しい。
ともすれば、その行く先はひとつしかない。
ふたりは真っ白で重厚な扉へと視線を戻す。様々な色を帯びる光。ざわりと空気が変わるのを感じて、目の前のそれがこの世界のものではないと妙な確信を得る。
──もし、彼女がこの先へと誘われたのだとしたら、恐らく連れ戻すことは叶わないだろう。それどころか自分たちまで連れて行かれるかもしれない。
そう思い至り、ふたりの足は止まってしまった。
「奏姉さま。愛姉さまは……」
葵が奏を見上げる。奏も葵と目を合わせる。愛を大切に思う気持ちはあっても、帰りたいという心情がふたりを躊躇わせた。
どうしたら良いのだろう。
そう答えを求めるようにしがみつく葵。奏はただ抱き寄せる。奏も胸中で同じように葛藤していた。
立ち尽くすふたりの周りを光たちは暫し漂っていたが、やがて諦めたような雰囲気をまとわせて離れていく。光が完全に収束すると、真っ白な扉は徐々に透け始めた。
「えっ!?ま、待ってください!愛姉さまを返して!!」
愛を失いたくない。
そんな思いと焦りに駆られた葵が咄嗟に手を伸ばした。妹の突飛な行動に素早く反応した奏が抱き止めようとする。しかし、足場の悪さに躓いて蹌踉めいてしまった。
二重の意味で押される形となって、扉が消える寸前に葵の手が触れた。幼さを残す小さな手が待ち望んでいたかのように光に包み込まれる。
「きゃあっ──!」
「っ……!?」
身体を引っ張られる感覚と視界を覆う色の洪水。ふたりは反射的に目をきつく閉じた。ぐるぐると光や音の洪水にふたりは飲みこまれ、思考が奪われ、やがて意識が遠のいた──。
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