1∶出会いと異世界転移
※誤字脱字や文章など、読みにくい点があるかもしれません。
※話の流れなどおかしい点があると思われますが、温かい目で見守ってください。
日本の某所にて。
窓から差し込む陽の光にひとりの少女──早乙女葵は目を覚ました。ゆったりと上半身を起こして伸びをする。
「ふわぁ……よく寝た」
寝起きも良く、ベッドから降りてらんらんと昨夜準備していた衣服に着替える。それから葵は窓の外へと目を向けた。
雲ひとつない晴天の下、穏やかな風に木々や草花たちが揺れている。両親の趣で都会から離れ、豊かな緑に囲まれた壮観な景色を前に葵は嬉しそうに微笑んだ。
今日は日曜日。学校も習い事も休みの日である。葵は姉ふたりと一緒に敷地内にある山を散策する約束を交わしていた。天気にも恵まれた事もあり、笑顔を深めた。
「何を着ていきましょうか」
普段は大変に行儀の良いお嬢さまだが、今は鼻歌を歌いながら鞄にハンカチなどを詰めていく。
そこへ、こんこんとノックが鳴った。
「葵ちゃん、おはよ。準備できた?」
扉越しに声を掛けてきたのは早乙女愛だ。葵より年1つ上の姉である。
「出来てますよ!今行きます!」
「ふふっ。ゆっくりで大丈夫だよ。先に行ってるからねー」
「わかりました」
返事をしてから葵は姿見の前に立つ。それからくるりと洋服を翻した。
襟元と袖口のレースがふわりとなびく白色のブラウスに、腰周りにリボンが留められた紺色のキュロットスカート。動き易くも可愛らしいデザインは葵のお気に入りである。
肩口までのふんわりとした黒髪に小さい青い薔薇が留められたカチューシャ。あどけなさを残す小さな顔に大きな黒い目。
14歳だが、それよりも幼く見られる小柄な容姿にとても良く似合っていた。
「よし!行きましょう!」
支度を終えた葵は、意気揚々と部屋を後にした。
広々とした屋敷内は清潔感に溢れ、澄んだ空気に満たされていた。快適な日常を提供してくれるのは早乙女家に仕える召使いたちだ。どんな時も穏やかな笑みと美しい姿勢を崩さず、てきぱきと仕事を熟す姿に葵は見惚れる。
(わたしも、早乙女家の人間としてしっかりしないと。いつか、あの人と共にこの家を護っていくのだから)
すれ違う彼女たちに挨拶を交わしながら、家族の待つリビングへと向かった。
「おはようございます!」
扉を開けて元気良く挨拶をする。既に葵以外は皆席に着いており、「おはよう」と笑顔で応える。テーブルには朝食が並べられてあり、今日はハムエッグと焼き魚に、味噌汁と白米、それからサラダだ。
「それじゃあ頂こうか」
父の一声に家族揃って手を合わせる。
「いただきます!」
最初にぱくついたのは愛だった。
料理好きな母の手作りに頬を緩ませる。邪魔にならないようにと背中まである緩やかな黒髪をひとつ結いにしてあり、幼い顔立ちと小柄な体格に似合わない勢いで箸を進めていく。
そんな彼女は襟元に赤いリボンと袖口にフリルがあしらわれた白のブラウスに、赤色のジャンパースカートを身に着けている。
「そんなにがっつくとつまらせるわよ。急がなくてもご飯は待ってくれるし」
「いいや!この温かさと美味しさは逃げてしまうよ!」
呆れ気味に目を細めたのは早乙女奏だ。葵より2つ年上の姉である。
ひとつに束ねた艷やかな黒の長髪と、眉目秀麗な顔立ちに黒縁の眼鏡。容姿もさることながら、食事中の仕草ひとつとっても非常に品がある。彼女は妹ふたりとは違い、足首まであるシックな黒のワンピースを着ている。それが尚のこと引き立たせていた。
全く正反対の姉ふたりに、葵はくすりと笑う。
「今日はお兄さまとお姉さまはいらっしゃらないのですね。お祖父さまもですけれど」
早乙女家の当主である祖父は古い友人との付き合いで、長兄と長姉は学校の都合により朝早くから出掛けている。そのため、今日は両親と3姉妹の5人での朝食となった。
「お祖父さまなんかさっさと出掛けちゃったからね。新しい出会いだとか何だとかですんごい楽しそうだったし」
「お祖父さまはここ最近ずっとそわそわしてたものね。よほど楽しみだったんでしょ」
「だね」
眩い笑顔を見せた祖父を思い出して愛と奏が笑い合う。そこへ葵も会話に加わる。
「お兄さまたちもお忙しい時期ですのに輝いてましたね」
「ふたりとも大学生活を満喫してるからね。サークルとか憧れるなぁ。羨ましー!」
「わたしも大学へ入学したら入ってみたいのです!」
「葵たちはその前に今を頑張りなさい。特に愛は成績が芳しくないんだから勉強しないと」
「奏姉さまはずっと学年位首位を維持されてますものね!わたしも頑張らないと!愛姉さまも、ね?」
「ぼくは…………適度に頑張ります」
3姉妹の談笑に両親が微笑む。
「あなたたちも今日を楽しみにしてたのでしょう?確かに勉強も大切だけれど、今日はうんと楽しんでらっしゃいな」
「くれぐれも怪我のないようにな。知らない場所には立ち入らないこと。それと、知らない人についていったりしないように」
両親からの言葉に「はーい」と3姉妹は元気良く返事をする。
「だってさ葵ちゃん。美味しいお菓子をぶら下げられてもついてっちゃ駄目だよ?」
「愛姉さまと違ってわたしはそんなに食い意地はってないのですー!」
「寧ろ愛の方が引っかかりそうじゃないの。もしそうなっても助けないからくれぐれも気を付けなさい」
「……ぼく、奏姉に何かしたっけ?」
「日頃の行いよ」
「日頃の行いなのです」
「ぼくは品行方正な淑女ですー!」
可愛い末っ子をからかおうとした愛だったが、逆にからかわれる形となってしまい、唇を尖らせた。微笑ましいさん姉妹のやりとりに両親も遠慮なく笑う。
一家団欒も兼ねた朝食は穏やかに過ぎていった。
それから朝食と後片付けを終えた3姉妹は、それぞれ自室にある鞄を手にとって玄関へと集まった。
「3人共行ってらっしゃい。気を付けてね」
「後で冒険の話を聞くのを楽しみにしてるよ」
「行ってきます!」
「お土産に木の実とか野草とか獲ってくるねー」
「ふたりのことは見張ってるし、暗くなる前には帰ってくるよ」
両親に見送られながら3姉妹は満面の笑顔を携えて、勢い良く玄関の扉を開けると駆け出した。
春先の暖かな陽射しと、晴れ渡る青空と新緑の心地よい香りが3姉妹を出迎えた。
早乙女家が所有する土地は広大で山を1つ抱えている。季節毎に美しい顔を見せ、野草や山菜に木の実などの実りも豊富である。3姉妹は幼い頃よりこの山で遊び育ってきた。ただし、あまり奥深くには入らないようにと忠告されてきたので麓付近までで留めていた。
「よーし!今日はガンガン進んじゃうよー!何があるかなー?」
しかし、今日はいつもより少しだけ散策の幅を広げようと計画を立ててきた。祖父や両親からの許可が下りた所まで進む予定だ。
「あまり早く歩かないでください」
「大丈夫だよ。ほら、転ばないように手繋いで行こ」
「はい!」
「時間はあるからゆっくり景色を楽しみながら行きましょう」
「はーい」
早速地図を広げて進みはじめる愛と、彼女に誘われて意気揚々と手を繋いで歩く葵。そんな仲睦まじいふたりの後を奏がついていく。
ある程度手入れが行き届いているため、そこまで道は悪くない。それでも山道であることに変わりはないので、3姉妹はゆるりと歩む。特に体力が少なく体調を崩しやすい葵へ姉ふたりは気を配っていた。
当の本人は大変ご機嫌な面持ちで鼻歌を歌っている。
(この日のためにがんばってきたかいがあったなぁ)
葵自身も自らの身体のことは嫌というほどに理解しているので、今日のために自己管理を徹底した自分を心の内でひっそりと褒め称えた。
「そう言えばさ、今日またあの夢を見たんだよね」
愛が明るい声で言う。
「あの夢って異世界の夢のこと?」
「そう!ぼくはそこですごーい魔法使いになってるんだよ!……あれ?神さまだったかな?」
「愛姉さまならなれそうなのです」
「夢を語るのもいいけれど、まずは現実を見なさいよ」
興奮気味に話す愛に葵が楽しげに微笑み、奏は呆れた顔をした。
「て、手厳しい……」
「奏姉さまの言う通りですよ!」
「えぇ……そっち側に付くの……?」
会話も弾みつつ、三姉妹は順調に山道を進んでいく。
「──あれ?」
不意に愛が足を止めた。くん、と繋いでいた手を引っ張られて葵も振り返る。ふたりの後ろを歩いていた奏もまた歩みを止めた。
「愛姉さま、どうされました?」
「あれ何だろ。あんなのあったっけ?」
愛の指差す方へ、ふたりは顔を向けた。
「洞窟?っぽいけど……」
奏の呟きに葵が小首を傾げる。
3姉妹の注目の先には洞窟らしき穴があった。3人は恐る恐る中を覗く。
入口付近は草木や蔦に覆われており、中はどこまで続いているのか分からない程に暗かった。その風貌と空気から随分と年月が経っているように見受けられる洞穴であった。
「何だろうね、これ」
「お姉さま方はよく此処へ来られるんですよね?見たこと無いのですか?」
「うん」
「私もよ」
あまり深くまで足を踏み入れない葵は兎も角。奏も、毎日のように遊びに来ている愛ですら今初めて目にした。
「入ってみる?ちょっと……いや、すごーく気になる」
洞窟に入ってみようという愛の提案に、奏が難しい顔をする。
「確かに気にはなるけど……危ないでしょうし、後々のことを考えれば止めた方が身のためよ」
いくら私有地であったとしても、見知らぬ場所に子どもたちだけで向かうのは危険だ。出かける前に父から忠告もされている。それに何かあったとき、家族に迷惑をかけてしまうのは明白だ。
「わたしもそう思います……」
葵も奏の意見に賛同する。葵もまた興味はあるものの、恐怖が先立っていた。
(入れたとしても、万が一帰って来れなくなってしまったら──)そう考えて、身体を震わせた。
「ふむ」
そんな慎重なふたりを前に愛は腕組みをする。うーんと唸ってから、閃いたと言わんばかりに表情を明るくさせた。
生き生きとする愛の目を見て、彼女をよく知る葵と奏は嫌な予感がした。
「じゃあぼくが先に入るから30分くらい経っても戻って来なかったら父さまを呼んで……」
「──駄目に決まってるでしょう!!」
「ひぇっ!?」
ふたりの予感は見事的中して、揃って大声を上げた。驚いた愛が仰け反り、それから「何で?」と小首を傾げる。
「ぼくなら平気だよ。父さまだってそう思ってるし」
本気でわからないと言った顔をする。そんな愛を見て、奏は深いため息を吐く。葵に至っては哀しげに目を伏せた。
昔から愛は自分に対して頓着がない。時には危うい場面にも平気で身を投じてしまう。家族のこととなればなおさらだ。
それがあるから奏と葵は自分の身を大切にしようと心掛けている。しかし、愛は自らの好奇心にもとても素直なので、そういった場合は全力で止めてきた経歴がいくつもある。
「お父さまがそうであったとしても私たちが心配するのよ」
「……1番心配なのは葵ちゃんじゃない?」
「まあそれはそうだけど」
「ええっ!?何故そこでわたしに振るのですか!」
急に話が方向転換して、矛先を向けられた葵は目を丸くする。それからぷくりとほおを膨らせて、抗議の意を込めてぽかぽかと叩いた。そんな妹の頭を撫でつつ、姉ふたりは洞穴の件について話を戻す。
「とりあえず、今日は洞穴には入らない事。まずはお父さまに伝えてからね。許可が降りてからでも遅くはないでしょ?」
「ま、それもそうか。未開の土地へ足を踏み入れる高揚感を分かち合いたいし。今日のところは諦めるよ。…………すごーく気になるケド」
「ほら!目的地までまだありますよ!着いたらお茶会を開くのですよね?」
「はっ!そうだった!さっさと行こう!」
お茶菓子の誘惑に釣られて愛は気持ちを切り替える。現金なやつだと奏が苦笑して、気持ちが和らいだ葵は朗らかに笑った。そうして再び目的地へ向けて歩き出す。
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