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見覚えのある伯爵令嬢共

 次の日、学園に行くと周囲が私を見ていた。

 視線しか送られていないのに、不思議と言葉も伝わってくる。

 どうしてあなた平気な顔をしているの? ……だ。

 冷たさと憐憫が重なった視線は、昨日の放課後までの私だったら耐えられなかった。

 もし私の心が弱かったらもう学園に行かない位の嫌な感じ。


 でも、私は登校してきた。

 そう……私は昨晩ベッドで横になりながら昨日の事を考えて少々吹っ切れた。

 ベッセル様が私を必要としていないのであれば、それはそれで構わない。

 婚約者ではあるけど、私は絶対あの人でなければならないわけではないのかもしれないと思い始めたから。


 不思議だ。

 私はベッセル様の事だけを思い、大変な王太子妃教育を受けていたのに。

 遊びにも行かず、ただベッセル様のお傍にと頑張り続けたのだけど、ベッセル様に選ばれないかもしれないと将来を想像しても今なら……。


「ルティシア様」


 午前中の授業が終わった途端。リプシーがやってきた。

 緑髪に穏やかな性格の伯爵令嬢で私と仲の良いお友達だ。

 昨日の事もあって、もしかしたらベッセル様と不仲な私から離れてしまうかもしれないと思っていたけど、表情を見るとそんなことは無かった。

 というか珍しくムッとした顔をしている。


「リプシー?」


「わたくし許せません。ルティシア様はベッセル王子の為に王太子妃教育を受けたりと頑張っていたのに、昨日のあれは……っ!」


 わなわなと体を震わせながら憤慨していた。

 とはいってもここは教室内、流石にここで彼女に言わせるのは悪い。


「ちょ、ちょっと離れましょうか」


 慌てて教室から出たがまだ怒りが収まらない。


「ルティシア様。あのリリーナという女怪しいですよ。急に現れたみたいですし、そもそもあの身に着けているもの見ましたか? 品が無いったらありません」


 それは確かに私も思った。

 子爵令嬢にしてはやけに多くの宝石が付いた服を身にまとっていた。


「きっとあの宝石も偽物ですよ」


「いいえ、あれは本物です」


「え、そうなんですか?」


 そう、宝石は全て本物だ。質は上質と中庸の間といったところだったけど。

 前世で沢山の宝石を見てきた私が言うんだから間違いない。

 ただ……うーん、ちょっと気になる。


 ――とはいえ、これ以上はあまり彼女に文句を言わせるべきじゃない。

 まあまあ……とひとまずリプシーを落ち着かせた。

 まさか普段穏やかなリプシーがこんなに怒るとは思わなかった。

 てっきりベッセル様のフォローとかすると思ったのに。

 まあ、私顔だけは良いからそういう事よね。


 ともかく、今はお昼休みだしご飯を食べに行きましょう。

 リプシーをなだめながら食堂へ行くと、人だかりが見えた。

 何かあったのかしら?


「失礼」


 リプシーを引き連れて人だかりの中に入っていくと、そこには見覚えのある伯爵令嬢達三人に土下座させられている女子生徒が見えた。


「一体何があったの?」


 隣に立っている野次馬の一人に何があったか聞いてみた。

 すると、分かったことは土下座させられている女子生徒は全く悪くないという事実。

 令嬢達が話しながら前も見ずに歩いていて、机にぶつかり、上に載っていたお茶が零れてしまった。

 そこで食事を取っていたのが現在土下座させられている子爵令嬢である。


「制服が濡れてしまったじゃない。どうしてくれるのかしら?」


「申し訳ございません」


「謝って済む問題じゃないでしょう!?」


 執拗に責め立てているけど、そもそも前を見ずに机にぶつかったのは彼女らの方だ。

 普通に食事を取っていた彼女が文句を言われる筋合いはないはずなのに、これだから……。

 私は目を細めながら中に入っていった。


「あら? この騒ぎは何事かしら?」


 物事を知らない風を装って入っていくと、伯爵令嬢三人が黙ってろとばかりに侵入者である私を睨んでくる。

 そして、侵入者が私を気付いて一瞬気勢がくじけたのを私は見逃さなかった。

 リプシーが私に耳打ちする振りをする。


「まあ、そんな事が? 彼女に落ち度なんてないじゃない!」


 わざと大きな声で彼女に非は無いと宣言すると、三人は標的を私に代えてくる。


「ルティシア様には関係のない事でしてよ」


「そうよ、今私達は彼女と話しているの」


「関係ないと言われても、わたくし昼食は静かに食べたいわ。なのにこんな騒ぎだと落ち着いて食べられないじゃない」


「静かに食べたいのでしたら向こうの隅で食べたら……いいじゃ……」


 そこまで言って三人の内、一人の言葉が止まる。

 理由は簡単だ。

 私が貴族らしい微笑を浮かべながらじっと見ていたから。


「わたくしの食事をする席を指定する気かしら? もしかしてそれは命令? あなた達、いつから私に命令出来る立場になったのかしら? 随分と立派になったのね」


 貴族にとって爵位の差は相当大きい。

 伯爵令嬢が公爵令嬢に物を言うなど言語道断。

 正当性があるならまだしも今回の場合彼女らに非があるのだから尚更だ。


「で、でも制服が……」


「制服ねえ……そういえばわたくし制服どころかドレスが濡れた覚えがあるの。あれはいつだったかしら。ねえ、あなた方は知らないかしら? あの足音、声。忘れられないわ」


 ゆっくりと、それでいてはっきりとした口調で言うと、三人の伯爵令嬢達の表情に焦りの感情が見える。

 三人それぞれがお互いの顔を見合わせて、そして――。


「べ、別にこれ以上怒る事ではなかったかもしれないわね」


 失礼するわと言い残して三人は、足早に歩いて行った。

 全く、相変わらず誰かを虐めるのが好きなのね。

 みっともない。


「災難だったわね」


 私はぽかんとしている子爵令嬢にそれだけ言ってリプシーと一緒に昼食を取った。


「ルティシア様はお優しいですね、あの方とは面識がなかったようですのに」


「正しいものを正しいといっただけですわ。もしあの子の方に非があればわたくしは動きませんでした」


「それとルティシア様がお三方を責める時のあの酷薄な笑みたまりませんわ」


「え? 酷薄? そんな笑い方してました?」


 聞き直したけどリプシーは答えてくれなかった。

 ともかく、過去の私怨があって動いた面も否めないけど、すっきりしたから良いか。

 そう思っていたのだけど、物事はそれだけで終わらなかった。

今日はこれで終わりです。

続きは明日また更新します

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