不穏な学校生活と見てくれるエドウィン
学園生活は想像とは違った。
ベッセル様と甘く楽しい生活を出来るかと思ったけど、彼に会いに行けば必ずと言っていいほどリリーナという女性がいる。
きっと一時的なものだ。
ベッセル様だってずっと婚約者である私とべったりしていたら気も休まらないに決まっている。
たまに会いに行く位ならあの時の笑顔を見せてくれるはず。
――そう思ったのに。
「ルティシア、もう来ないでくれないか?」
ある日のお昼休み。
一緒にご飯を食べようとベッセルの元へ行くとそう冷たく言われてしまった。
「わ、わたくしが何かしましたか?」
思わず声が震えてしまう。
普段こんなに気持ちが不安定になってしまう事なんてないはずなのに。
怖いものなんてないはずなのに。
それでも、ベッセル様からの言葉が怖い。
私の質問にベッセル様がめんどくさそうな表情を浮かべる。
口を開いては閉じて、言いよどむ。
「わたくしは……」
「あのー……そういう押しつけみたいの良くないと思いますよ」
隣に座っているリリーナが薄笑いを浮かべながら言ってくる。
「押し……つけ?」
「ベッセル様困っているじゃないですか。ルティシア様が婚約者なのはわかりますけど、ベッセル様は王族ですよ。もう少し分を弁えるべきではないですか?」
「今私はベッセル様と話しているのです。リリーナ様は黙っていて」
「黙るのはお前だ! ルティシア!」
食堂中に声が響き渡る。
周囲の生徒がなんだなんだと視線を飛ばす中、ベッセルは目を細めながら私を見た。
「もう一度言う、ルティシア。これ以上俺に構わないでくれ」
「……はい」
放課後。
中庭の椅子に座りながら、私は呆けたようにぼんやりと池を見ている。
頭に浮かぶのはお昼に言われた数々の言葉、ベッセル様の表情だ。
私が何をしたというのだろう。
婚約者は私であるはずなのに、彼はリリーナしか見ていない。
あの日、私へ向いていた彼の顔は……視線はもう、私には向いてくれない。
リリーナを見る時の甘い視線は、本当なら私に向いていたはずなのに……。
ベッセル様の為に頑張った王太子妃教育の日々は一体何だったんだろう。
さわさわと風を受けて草木が揺れる。
深い息を吐くと視界を黒い影が覆った。
「…………?」
「こんなところで奇遇だね」
学年で一つ年上のエドウィン様が笑みを浮かべながら立っていた。
失礼……と一言つけながら隣に座る。
足を組み、穏やかにほほ笑みながらこちらを見てきた。
「どうしました?」
「どうしましたはこっちが聞きたい。随分沈んだ表情をしてるじゃないか」
沈んだ表情……しているだろうか。
ペタペタと自分の頬を触るがよくわからない。
それより。
「エドウィン様はどうしてここへ?」
もう授業も終わったし、大半の学生は帰っているはず。
実際中庭だって私以外は誰も残っていないのに。
「元気のない花を見つけたから少し様子を見に来ただけだ」
「お気持ちは嬉しいですが、エドウィン様に心配されるような事ではありません」
「そうだろうか?」
この人は一体何が言いたいんだ。
からかいにでも来たのだろうか。
真意が読めずじと目で見るとエドウィン様はくつくつと笑った。
「随分な目で見てくるね」
「それは失礼しました」
冷たく言ったのだがエドウィン様は、かえって笑い出した。
何だこの人は、何で嬉しそうなんださっき以上に怪しいものを見る目で見ていたら、エドウィン様は首を傾げた。
「落ち込むなんてらしくないじゃないか」
「らしくないなんて、エドウィン様にわたくしの何が分かるのですか」
「分かるさ、私は君を見ていた。君はどんな事が起きてもすぐに前を向くと思っていたぞ」
「…………っ!」
私を見てた?
じくりと胸の辺りを何かが通り過ぎた気がしたけど。
きっとそれは気のせいだと思う。
でも少しだけ心が晴れた。
そうだ、私は今回ついているのだから。
こんなに美しく、こんなに家柄も良く生まれたのだから。
きっと物事は好転するはずだ。
「どうした?」
急に立ち上がった私を見てエドウィン様が首を傾げる。
「帰ります。ありがとうございました」
真っすぐ見ながらお礼を言って一礼してから私はこの場を去った。
去り際、エドウィン様はフッと笑いながら気を付けて帰れというように片手を後ろ手に振ってくれた。
今日はあと1話更新します