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父の心配とルティシアの暗転

 私の名はグレイグ・アルバイン。

 アルバイン家の当主だ。


 アルバイン家は、歴代王家に仕えている名門だ。

 王家に近く、忠誠を認められた事すらある。

 そんなアルバイン家だが、現在小さな問題が起きている。


 ルティシアである。

 兄であるトラムが質実剛健な騎士であり、王宮に仕えている中、年の離れた娘として生まれた彼女は、とても可愛がられた。

 幼少期はもう少し馬鹿だったが、ある日を境にやけに賢くなった気がする。


 それとルティシアはベッセル王子の婚約者となった。

 王太子妃教育を受ける前からルティシアは元々所作などは良かった方だが、教育が始まってから更に洗練された。

 唯一、ルティシアの微笑だけは個人的に問題があると思っていたのだが、妻であるエッシェルは、それはそれで個性的で良いと、礼儀もしっかりしているし……とフォローしていた。


 ……エッシェルも快活な女性だ。きっと妻に似たのだろう。

 妻の言う通り礼儀正しく元気ならいいのだが、


 ただ、先日とんでもない話を聞いた。

 ベッセル王子と婚約したという発表の場で水浸しになりドレスを駄目にした。

 ドレスに関しては良いのだが、まさかそんな大事な場でそんな事があるとは……。

 会場を準備してくれたルーナ大公は、私とも親しい相手だ。

 まさかそんな事があるとはと、爵位では向こうが上だが平謝りされた。


 私としては愛娘が……と少々憤っていたのだが、話を聞いていると怒りが収まった。

 ルーナ大公があまりにも娘を褒めるのだ。

 ルティシアの行動が素晴らしかったと。


 水浸しになり髪もドレスも駄目になったハプニング。

 それにも関わらずルティシアは堂々とやってきて自分が水を被っても可愛いことをアピールしてきたのだ。

 もしその場で泣きでもされたら会場を整えた大公の面目丸つぶれだった。


 しかし、ルティシアは水を被ったからこそ美しいと言い張ったのだ。

 天井付近のステンドガラスの光がルティシアの頭上へと降りかかり、まるでそれは後光のようで彼女の言う通りに美しかったと、大公は声高に語る。


 更にその場が穏やかなものになったのは、エドウィン様の存在である。

 ベッセル王子は、ルティシアの行動に顔が引きつっていたそうだ。

 それも当たり前だ、普通はあっけに取られるし水浸しの婚約者がそんなことを言ってきても、8歳の子供であるベッセル王子が上手い事出来るわけがない。


 だが、エドウィン様は違った。

 大笑いして固まっていた場を盛り上げた。

 笑っていいのか、それとも固まったままが良いのかと判断に困っていた貴族達に笑っても良いと後押ししたのだ。


 おかげでルーナ大公は、本来なら処罰を受けるレベルの警備ミスだったにも関わらず、軽い注意を受けただけで済んだ。

 ルティシアとエドウィン様の機転により救われたのだ。


 ルーナ大公は鼻息荒く娘を褒めてくれたが、私は知っている。

 演技とかではなく、ルティシアは素でああいう性格だ。

 何か屋敷で想定外の事が起きても前向きに考えるし、何なら不思議とそれが上手い具合に行く。

 ヘンな言い方をすれば持っているタイプなのだ。


 つまりこの変化も何かの兆しなのだろう。

 私は息を吐きながら手元にある報告書を見る。

 ルティシアの王太子妃教育の進捗状況だ。


 そこに書かれていた事で私を悩ませるのは、ルティシアの上達具合ではない。

 婚約者であるベッセル様はあまりだが、エドウィン様がやけにルティシアに会いに行っている。


 …………。

 エドウィン様に関してルティシアに聞かれたがさる公爵家のご子息としか伝えていない。

 言及するなと言われているからだ。

 それにしても一歳しか違わないのに才覚が違う。

 差が出るのはやはり……。


「ふむ」


 ともかく、今はまだ私が口を出すことではない。

 もしルティシアが傷つくことがあったとしても私が守ろう。

 そう、あくまでも私はルティシアの味方であり続けるだけだ。


☆☆☆


「では行ってまいります」


 15歳の誕生日を迎えた次の春。

 ルティシアは王立学園へ入学した。

 王太子妃教育を無事に終えた淑女として、学園内においてもベッセル様と楽しい学園生活を迎えられると思っていた。

 そう。

 入学前は思っていたのだ。


 しかし――

 廊下で会ったベッセル様の目は冷たかった。

 広く綺麗な学園。

 窓から陽光が差し込める綺麗な廊下、壁を見れば過去にいた校長の肖像画が飾られている。

 少々お疲れだったのか、ここ数年は1年に一度位会いに来てくれて話しかけてもあんまり良い雰囲気ではなかったかもしれない。

 けど、学園内ならきっと……。

 そう思ったのに。


「ベッセル様、その隣の方はどなたですか?」


 ――ベッセル様の隣には知らない女性が立っていた。

 服にいくつもの宝石が着けられていて、妙にキラキラ光っている。


「ああ、紹介がまだだったな。彼女はリリーナ・エレベレン。子爵令嬢だ」


「リリーナ・エレベレンです。お見知りおきを」


「あ……え、ええ……わたくしはルティシアです」


 その後は何を話したのか覚えてない。

 でも、その時の私の気持ちは覚えている。

 普段からあまり後ろ向きな事は考えないようにしていたのに。

 ただただ、悲しく、悔しかった……。

あと2話更新します

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