小さな勇者と大きなうさぎ
童話というより絵本のようになりました。
覚えやすく書きやすい漢字は崩してませんが、ほぼひらがなだらけなので大人の方は読みにくいかもしれません。
少しでも皆様の心に優しさが届きますように。
ある村におくびょうな男の子がいました。
その子は自分のきもちを口にするのがにがてで、ほかの子たちからいっしょにいてもたのしくないと言われていました。
「ボクもみんなみたいになんでも言えるようになりたいなぁ……」
そうねがって男の子はまいばんお月さま、お星さまたちにおいのりしていました。
「みんなとなかよくなれますように。おともだちができますように」
するとある日のこと、村のみんながあつまってうさぎのはなしをしていました。
「どうしたの?」
男の子はおかあさんにききました。
「森におおきなうさぎがでるんですって。だから森にははいってはいけないわよ」
「うん……」
うなずいたものの男の子はきもちがフワフワ、ウズウズとしていることにきがつきます。
「なんだろう、このきもち……」
そのよるもお月さま、お星さまにねがいごとをしていたときです。
「どうしてキミはぼうけんにいかないの?」
「そんなにもほんとうのキミは森へいきたがってるじゃないか」
とつぜんお月さまとお星さまがはなしかけてきたのです。
「うわっ……!」
「しつれいだな、キミは」
「ぼくたちだってはなしたりするさ」
男の子のねがいごとはお月さまとお星さまにちゃんととどいていたのです。
かれらは言いました。おともだちがほしいなら、そのおくびょうなきもちからとびださないといけないと。いつまでもこわいこわいとかくれていたら、いつになってもおともだちはできないよと。
「でも、どうしたらいいの……?」
「森にいくんだ!」
「うさぎにあえばかいけつさっ!」
でもでもでも…………。そうして男の子がなやんでいるあいだに、あさになりました。
おかあさんにねていないことをしかられましたが男の子の心の中は森へいくことへのきょうふと、それでもおともだちがほしいという思いでいっぱいでした。
「おかあさん、おともだちってどうすればできるの?」
「自分からはなしかけないといつまでもできないわよ」
そう言ってせんたくにいってしまいました。
「ボクからはなしかける……」
お月さまとお星さまのいうとおりでした。こわいからとかくれていては、いつまでもおともだちはできません。
「よしっ、ボク森にいく!」
男の子はカクゴをきめるとポシェットをかたにかけ、ハンカチやすいとう、おかしをいれてドアからとびだします。
「いってきますっ!」
森のいりぐちはくらくてジメジメとして、かぜもつめたくて男の子はブルリとふるえました。
「で、でも……おともだちほしいもん!」
こわくてこわくてたまらないのはほんとうです。
だけどおともだちがいないままなんて、なかまはずれにされたままなんて、男の子はそっちのほうがこわかったのです。
だからいっぽ、いっぽと、すこしずつあしを森へとすすめます。
そしてながいじかんをかけて、やっと森の中へとはいれました。
「ふぅー……こわかった!」
でもいちど中にはいってしまうとあらふしぎ。きょうふはきえてしまいました。
だっておそらからのヒカリが木のはっぱにはねかえり、キラキラとピカピカと、森の中をうつくしくかがやかせています。
「うわーっ! すごくキレイッ!」
まるでいつもみあげていたお星さまたちのようで、男の子はとてもゆうきがわいてきました。
「これならこわくない!」
男の子にえがおがさきました。
ニコニコ、ニコニコ。男の子はげんきに森をあるきます。
すると木がまったくないくさっぱらにでました。
そこにはいっぴきのちいさな白いうさぎがすわっていました。
「うさぎさん! 大きなうさぎさんをしりませんか?」
「しるわけないだろー! うさぎはちいさいもんだ!」
とても大きなこえに男の子はビックリしました。そしてとてもこわくて、さっきまでのたのしいきもちなどふきとんでしまいます。
「ひえっ!」
「なんだ、男ならなさけないこえをだすな!」
こわいというきもちに男だとかかんけいあるのかな? と思いながらも男の子はビクビク、オドオド。
すぐにでもおうちにかえっておかあさんにだきしめてほしいきもちでいっぱいです。
男の子のおうちはしたくないこと、いやなことはしなくていいと言います。おかあさん、おとうさんがそう言うのです。
だから男の子はすぐにかえろうとやっとわいたゆうきを自分ですてようとしました。
「なんだ、せっかくここまできたのにかえるのか!?」
でもうさぎがまたさけびます。
男の子はこわくてこわくて、たまらずないてしまいました。
シクシク、ポロポロ。シクシク、ポロポロ。
「なくなっ! こわくてもなくな!」
男の子はうさぎをみます。
すると、なんとこれだけのおおごえをだしていたうさぎも……ないていたのです。
「どうしてうさぎさん、ないてるの?」
こわいのはボクのほうで、こわがらせているのはうさぎなのに。
男の子はふしぎでなりません。
「だって……オレだってほんとうはこわいんだ。おまえらにんげんが。でもないたらすぐつかまって、たべられちまう……」
シクシク、シクシク。
うさぎはおともだちやかぞくをにんげん、男の子とおなじ見た目のひとにたべられていたのです。
すこしでもよわいと思われたらたべられる。だからうさぎはおおごえをだしていました。
ほんとうは男の子のように泣きたいのに。にげたいのに。かくれたいのに。
でもそうしたら、のこったたいせつ
なほかのおともだちまでたべられてしまう。
そうなることのほうが、うさぎはなによりもこわかったのです。
「そっか……ごめんね。がんばったね」
よしよし、なでなで。
男の子はふわふわなうさぎのあたまを、おかあさんがしてくれるようになでてあげました。
ボクはいつもすぐにないちゃうのに、うさぎさんはすごいなー。
男の子にはうさぎがとてもつよくみえました。
それはちからがつよいとか、おおごえをだすからとか、そういうものではありません。
こわくてもなきたくても、ひっしにがんばるその心が、とてもつよいとおもったのです。
「うさぎさんはゆうしゃなんだね! こわいのにみんなをまもろうとするなんて、ほんとうのゆうしゃさまだ!」
男の子はとてもかんげきしました。
ほんにでてくるゆうしゃは男の子のあこがれだったのです。
「オレが……ゆうしゃ?」
ぱちぱち。うさぎは大きなあかい目をあけしめします。
にんげんをおどかしていたのに、まさかゆうしゃといわれるなんて。
うさぎはとてもうれしくなりました。
「ありがとう……そんなふうにいわれたのははじめてだ」
すこしてれくさそうなうさぎはおおごえをだしたことをあやまります。
「こわくて……たべにきたのかとおもったんだ」
「ううん、ボクこそきゅうにきてごめんね。でもおおきなうさぎさんって、どこにいるんだろう?」
くびをかしげる男の子にうさぎもふしぎそうに目をまるくします。
「そんなのこの森にはいないけどな……だれからきいたんだ?」
「おかあさんたちがはなしてたんだ。おおきなうさぎがいるから、森にはいっちゃダメって」
ひとりといちわは目をパチパチ。
するとうさぎがわらいました。
「もしかしたらオレのこえかもな! さけぶし、それでおおきなうさぎっていわれてるのかもしれない」
「そっか! うさぎさんがそのおおきなうさぎさんなんだね!」
男の子があいたがっていたおおきなうさぎに、まさかもうあっていたとは思いませんでした。
おどろきながらもうれしい男の子は、うさぎさんのちいさなてをにぎりました。
「じゃあ、うさぎさん! ぼくとおともだちになってくれませんか?」
「な、なんだって!? でもキミはにんげんで、オレはうさぎだぞ!?」
うさぎさんはビックリして目をおおきくパチパチとまたたかせました。
男の子はうなずきます。
「そんなのかんけいないよ! ボクはうさぎさんとおともだちになりたいんだ!」
男の子はこわくてもこわくても、がんばってみんなをまもろうとしていたうさぎと、なかよくなりたいのです。
男の子がもっていないゆうきをもっていて、あこがれのゆうしゃのようなうさぎと、おともだちになりたいのです。
「で、でもこんな森の中までこれるのか? こわいだろう?」
「へいきだよ! だってうさぎさんがいるんだから、こんなのこわくないよ!」
するとうさぎはとってもうれしそうにわらいました。
「そうか……。じゃあ、ともだちになろう! オレもほんとうはなかよくしたかったんだ」
ひとりといちわはニコニコ、ニコニコ。とてもうれしそうにわらいあいました。
男の子はうさぎとわかれておうちにかえります。
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
おかあさんのいつものこえです。
男の子はトコトコおかあさんのそばまでいくとニコニコいいました。
「ボクおともだちできたんだよ!」
「ともだち? だれ?」
おかあさんはふしぎそうです。
ほかのこたちからなかまはずれにされていることをしっているからです。
「森のおおきなうさぎさんっ!」
男の子はむねをはってとくいげです。
おかあさんはそれをきいてびっくりしました。
「森へいったの!? ケガはしなかった!?」
しんぱいしてくれるおかあさんに男の子のむねはポカポカあたたかくなります。
「うんっ! うさぎさんはとってもやさしくて、ゆうきがあって、ゆうしゃさまだった!」
げんきいっぱいにいう男の子におかあさんはとてもうれしくなりました。
「そう……よかったわね」
「うんっ!」
「あんなにこわがりだったのに森にいくなんて……。それにおおきなうさぎともおともだちになってくるなんて、あなたもゆうきがあるわね」
あなたもゆうしゃさまよ。
そういってあたまをなでてくれるおかあさんに男の子の目はキラキラします。
「ほんとう!?」
「ほんとうよ。ちいさなゆうしゃさま、ほかのこたちともおはなしできそう?」
「がんばる!!」
そうしてちいさなちいさなぼうけんにでかけた男の子はほかのこたちともゆっくりゆっくりと、ゆっくりあせらずおともだちになっていきました。
もちろん、うさぎとはいまもおともだちです。
……いえ、だいしんゆう。いちばんだいすきで、たいせつなおともだちです。
かれらのゆうじょうをいつまでもいつまでも、お月さまとお星さまはみまもっていました。
おしまい。