卵かけごはん、略してTKGっ!!
ソ、ソウイチロウ様が私の事を美人で可愛くて人形のような美しさはまるでお伽噺に出てくるお姫様のようだと思ってくれていたなんて……も、もしかしなくてもこれは両想いなのではっ!?
あぁ、どうしましょうっ!? こんな出来すぎた展開は流石の私もその想定外といいますか。心の準備ができていないですわっ!!
で、ですが嫁いだ妻の役目は家の跡取りを作る事。
という事は早速今夜にでも呼ばれるのでしょうかっ!?
そんな妄想を繰り広げていると、食卓に朝食が並べられていく。
「生卵がいる人は挙手お願いします」
それと共にかごの中に卵を入れた給仕であろう女性が、生卵が欲しい者は挙手するように言うではないか。
「あ、あのミヤーコ。生卵はいったい何に使うのかしら?」
しかしながら私はその生卵が何に使われるか皆目見当もつかない為隣に座っているミヤーコへと話しかける。
「あぁ、奥方様はこちらの世界の住人でございます為『卵かけごはん』というのは初めてでしょう。卵かけごはんとは言葉の通り生の卵とご飯を混ぜて醤油をかけて食べる料理です。そして給仕係りの人はご飯に卵をかけて食べる人は挙手するようにと聞いているわけですね」
「…………え? た、卵を? 生で?」
そして私の問いにミヤーコが『生の卵をご飯に混ぜて食べる料理』と説明してくれるのだが、流石の私も生の卵という部分に若干引いてしまう。
「そうっ!! 卵かけごはん、略してTKGっ!! シンプル故に奥深く、使う醤油が変わるだけで味も変わり、アレンジも無限大っ!! しかしながら死ぬときに食べたい最後の食事に上げる者もいる程の美味さと魅力がある至高の料理、それがTKGっ!! マジで美味いよっ?」
そんな私の反応などお構いなしにアンナが、いかに卵かけごはんが素晴らしいか熱弁するのだけれども、流石に生の卵はちょっと……と遠慮しようと思ったその時、ソウイチロウ様が手を挙げて給仕から生卵を貰っているではないか。
その姿を見た私は、気が付いたら手を挙げて生卵を貰っていた……。
ど、どうしましょう……。
そう思った所で『やっぱり気持ち悪いから要らない』と突き返す度胸も無ければ、そもそもここに住む人たちが当たり前に食べている物を『気持ち悪い』と突き返す行為はかなり失礼である為、私に残された道は卵かけご飯という、生の卵を炊いたライスに混ぜるという料理を食べる道しか残されていないのである。
ちなみに朝食のメニューは、お味噌汁という見たことない茶色い飲み物に、だし巻き卵という見たことないチーズのような違うような食べ物に、鮭という魚の塩焼き、そして焼きのりというまるで黒い色した紙のような食べ物に、炊いたライスである。
そして、その朝食をソウイチロウ様や使用人たちは細い棒二本で器用に掴んで口へと運び食べていくではないか。
昨日出された料理からこの朝食に至るまで見たことない料理ばかりで、味も見当もつかず異国の地へ嫁いでしまったような気分になってしまう。
そんな中私は一旦卵かけご飯については思考の端に追いやり、ナイフとフォークを使ってチーズの様なだし巻き卵という卵料理から手を付けようとナイフを入れた瞬間、その柔らかさに軽く驚いてしまう。
火を入れた卵というのはもう少し弾力があるものではないのか?
しかしながらいくら触感が想像よりも柔らかいといっても、見た目からして卵が多く使われている料理である事は間違いないだろうし、であればその味もおのずと想像できるというものである。
そう思いながら半分に切っただし巻き卵をフォークで刺して口へと運んだ瞬間、私の口の中は旨味を含んだ汁で満たされるではないか。
「なんですのっ!? このジューシーすぎる卵料理はっ!? しかもその味は私が想像していたどの味とも異なる上に、今まで食べてきたどの卵料理よりもおいしいですわっ!!」
「美味しいよねだし巻き卵っ!! これを嫌いだという人に今まで出会った事が無いくらいだからねっ!!」
そして、想像以上の美味しさに思わず感想が口から出てしまい、それにアンナが答えてくれる。
確かに、これほどまでに美味しい卵料理を食べて『苦手』だと言う者はまずいないだろうと、納得できるほどの美味しさであった。
「ちなみに似たような料理で卵焼きもあるから、こっちも美味しいよっ!! しかも甘いバージョンもあるからっ!!」
「あ、甘い……っ!? それはスイーツではないんですか?」
「ちっちっちっ。これがスイーツじゃなくてちゃんとおかずなんだよなぁ。ちなみに甘い派と甘くない派で派閥が分かれているけど私はどっちも好きだったりするよっ!! まぁ、日本にはキノコ派かタケノコ派かで派閥が分かれていたりとかもするんだけれど、これはまぁ、後で良いか」
そしてアンナが甘くてもスイーツではなくてちゃんとおかずになる料理だと教えてくれるのだが、甘いのにスイーツではなくておかずになる料理など皆目見当もつかないのでいつか食べてみたいと思う。
しかしながら、恐らくソウイチロウ様の故郷なのだが色んな派閥があるようで、ソウイチロウ様が所属している派閥を、私が間違えて敵対派閥を応援するような過ちを回避する為にも今度教えて貰わなければと心に刻む。
ミソシルというスープも、サケという魚の塩焼きも美味しくて食べ進める手が止まらないのだが、だからこそ私は敢えて白銀に輝くライスと、異様な存在感を放つ生卵の事を考えないようにして食べ進めていく。
しかしながら食べ進めていくという事は、異様な存在感を放つ生卵をライスにかけて食べる料理を食べるその時が近づいているという事でもある。
そして、その時はついに来てしまう。
白銀に輝くご飯と生卵以外を全て食べてしまったのだ。
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