その時はちゃんと向き合おうと心に誓う
◆ソウイチロウside
「気になるのでしたら一緒について行けばよろしかったのでは?」
「それではシャーリーも俺の事を気遣ってしまい、心の底から楽しむことは出来ないだろう?」
メイド長からそう指摘されるも、シャーリーには羽を伸ばして欲しいと思っているので、俺がついて行っては本末転倒だろう。
「そんな事はないと思いますがねぇ……。むしろ私には一緒に行った方が奥方様は喜んだと思いますが……」
「いや、流石にそれは無いだろう。夫婦とはいえお互いにプライベートな時間は重要である事くらい俺も理解している。それに、歳の近いアンナに仲が良いミヤーコの中に俺が入るのは違うだろう? そしてまだシャーリーは若いんだ。俺みたいな三十路と一緒に行動するのも嫌だろうに生贄のように俺の妻にされたのだからせめて年頃の女性としての」
「……私の目には単純に旦那様が怖がっているだけに見えますけどねぇ」
そんな事を話すとメイド長は『俺が行った方がシャーリーは喜んだと思う』と言うので、流石にそれは無いと否定すると何故か俺が怖がっているだけだと返ってくる。
一体、何に怖がっているというのだろうか。メイド長とは一度じっくりと話し合う必要があるようだ。
「ただいま戻りましたっ!!」
さて、どうやってメイド長に分からせようかと考えていたその時、シャーリーが帰ってきたようだ。
「……楽しかったか?」
「はいっ!! それはもうっ!! あ、あの……その……コンビニでスイーツを二種類買って来たので一緒に食べませんかっ!? お昼を食べてきているので私一人では流石に食べきれないと思うので、手伝ってくれるとありがたいです……っ!!」
「そうだな、シャーリーが手伝って欲しいというのならば一緒に食べようか」
「ぜ、是非っ!!」
するとシャーリーは顔を真っ赤にしながら俺と一緒にスイーツを食べようと言うではないか。
恐らくシャーリーの事だから今度ここでパーティーを開く際に出すスイーツの試食をしようと買って来たのだろう。しかしながら、お昼ご飯まで計算しておらず、買って来たスイーツが入るほどの余裕は無い、という事なのだろう。
「どう思います? 私絶対旦那様はシャーリーの勇気には気付かずに別の予想を立てていると思うんだけど?」
「えぇ、あの顔は正に的外れな推理をしていますね。メイド長はどうですか?」
「はい。私もそう思います。そもそも奥方様を異性として見ているかどうか怪しい気もします」
「何をこそこそ話しているんだ?」
「あ、なにも無いです」
「何も無いですね」
「問題ないです」
「……はぁ、まぁいいか。とりあえずアンナとミヤーコ、今日はシャーリーに付き添ってくれてありがとうな」
そして俺とシャーリーのやり取りを見て使用人たちがこそこそと話し始めるので、何を話しているのか聞いてみても適当にはぐらかされてしまうではないか。
でもまぁ、俺に不平不満があるとか、そういう感じではないのでこれ以上突っ込む事はせずに、それとは別に今日シャーリーと一緒に日本へ行ってくれた二人に感謝の言葉を告げると、シャーリーを連れて食堂へと向かう。
「それで今から一緒に食べるスイーツ何を買って来たんだ?」
「えっと、シュークリームとプリンですっ!! 二個ずつ買ってきてしまったので……」
なるほど。そもそも一個ではなくて二個ずつ買ってしまったという事か。それであれば猶更俺に半分食べて欲しいというのも分かるのだが、冷蔵庫に入れて別の日に食べれば良いのでは? と思うもののそれを口にする事はしない。
というかアンナとミヤーコ、そしてメイド長から『余計な事は言うなよ』という圧を凄く感じるので言いたくても言えないのだが……。
「なるほど。コンビニのシュークリームとプリンは美味いからな……良い選択だ」
「ありがとうございますっ!! いったいどんな味がするんでしょうか? ソウイチロウも絶賛する程なのですからきっと物凄く美味しいのでしょう……っ!!」
そしてシャーリーは『楽しみですっ』とささやきながら俺があげた淡いピンク色の買い物袋からシュークリームとプリンを取り出す。
その時にカップ焼きそばも見えたのだが、きっとアンナの影響に違いない。
「それにしてもシュークリームというものは、見た目だけで言えば王都でも売ってそうですけれども、このプリンという食べ物は見た事が無いですね……。さて、どちらから食べましょうか?ソウイチロウ様はどちらがおすすめですか?」
「そうだな、プリンのほうが恐らく一般的にはおススメなのだろうが、俺的にはシュークリームの方がおすすめではあるな」
「……なるほど。ではまずはシュークリームから食べましょうか。……いただきますっ」
シャーリーはそういうと封を開きシュークリームを取り出すと、その小さな口でカプリとシュークリームへかぶりつく。
「…………んん~~~~っ!!」
するとシャーリーは一瞬固まり、次の瞬間には可愛らしく悶え始めるであないか。
コンビニのスイーツとはいえ、生まれ育った国の物を食べて喜んでくれるのは、やはり嬉しいものである。
「美味しいか?」
「はいっ!! 美味しいですっ!! 物凄く甘いのにしつこ過ぎず。かといって濃厚なクリームと、それを包む薄い生地。しかもそのクリームは生地の中いっぱいに入っていて、何処を食べてもクリームが口の中へと大量に入ってきますっ!! 恐らくこれは私史上スイーツランキング暫定一位ですっ!! 紅茶との相性も抜群です!!」
よほどシュークリームが気に入ったのか、興奮気味にシュークリームについて語り、そしてはむはむと小さな口で啄むようにかじりついては紅茶を飲むと、またシュークリームにかじりつく。
その姿がまるで小動物のようで、愛らしい。
今はまだ妹のような存在ではあるものの、時折見せる大人びた表情や言動にドキッとする時もあり、このまま一緒に過ごして行く過程で妹のような存在から一人の女性として認識するのはそう遠くないような気がするな、と今はまだ子供らしく花より団子と言った感じでシュークリームを堪能するシャーリーを見てそう思う。
きっとシャーリーは、俺には勿体ないくらいの絶世の美女に成長する事だろう。
その時にもしシャーリーが俺の事を異性として好いてくれているのであれば……その時はちゃんと向き合おうと心に誓う。
「それは良かった。しかしプリンも負けずとも劣らず美味しいぞ?」
そんな事を思いつつ俺はプリンの封を開けてスプーンですくい、シャーリーの口元へと持っていく。
「ほら、入れてあげるから口を開けて。あーーん」
「え、えっと……あーーん………っ!? んふーーーーーーっ!! な、何ですかこの美味しい食べ物はっ!! 口の中でとろけてしまい無くなってしまいましたっ!! そして甘くてほろ苦くて美味しいっ!! こ、これはシュークリームとプリン。どちらを暫定一位にするか迷ってしまいますっ!!」
けれど今は、今しか見られない天真爛漫なシャーリーを愛でていたいので、急いで大人になる必要もないぞと心の中で思いつつ、シュークリームとプリン、どちらを暫定一位にしようか迷っているシャーリーを見つめるのであった。
完。
ここまで読んでいただきありがとうございますっ!!
ここまでとても楽しく書かせていただきましたっ!!
最後に高評価をしていただきますと嬉しいですっ!!(*'▽')ノ




