ビーフシチューの包み焼きハンバーグ定食
ミヤーコさんの説明曰く、王都でも食べられるワイン煮込みのシチューを更に濃厚にしたソースと、獣の肉をミンチ状、所謂挽き肉にしたものを丸くして固めた物を一緒に包んでその中で蒸し焼きにした料理らしく、想像しただけでも涎が出てくる。
肉をミンチ状にする調理法は固くて食べにくい獣の肉を食べるときに使われる調理法なので、この料理は初め安い肉を使っているのかと思いスルーしかけた時、それを見越したミヤーコからの『良い肉を挽き肉にしています』という一言で、メニューに描かれているこの料理が光り輝き始めた。
良い肉をミンチにする……何故今までそんな単純な事を思いつくことができなかったのだろうか……。
確かに、安い肉に用いる調理法であるが故に、そういう先入観があり、良い肉をミンチにするのは勿体ないと思ってしまうというのはあるのかもしれない。
良い肉を挽き肉にして食べる……想像しただけで口の中が涎で洪水だ。
「それではドリンクバーコーナーへ行きましょうか」
「ドリンクバー……?」
「そっか。シャーリーはドリンクバーは初めてだもんねっ! あそこの機械で自分の好きな飲み物をいれて飲む事ができるんだよっ!! ドリンクの入れ方は簡単で、下にコップを置いて飲みたい飲み物のボタンを押している間その飲み物が出てくる仕組みになっているってわけさっ!! ちなみにおかわりは自由っ!!」
「なるほど……?」
そしてアンナはそう説明しながら操作して飲み物をコップへと注いでいくではないか。
「あ、お二人のドリンクバー代は私が代わりに払っておきますので」
「さすがミヤーコ姉さんっ!!」
「あ、ありがとうございますっ!」
思い返してみると注文をするときに店員さんが『ドリンクバーはお付けしますか?』と確認して、ミヤーコが『全員分お願いします』と言っていたような気がするのだが、どうやらドリンクバーとは自分で入れなければならないものの色んな飲み物を何度でも飲むことができるというシステムのようである。
そしてその後もいろいろとレクチャーを受けるのだが、紅茶からコーヒーという飲み物まで私が思っている倍以上の種類の飲み物を飲めるようだ。
そして私は迷った末にアイスティーを選び、ボタンを押して氷の入ったコップへと注ぐと、みんなと一緒に席へと戻る。
メロンソーダやコーラなど見た事もない飲み物も気になったのだが、今日は煮込みハンバーグなる食べ物に集中したい為、王国でも慣れ親しんだ紅茶にする事にした。
本来であれば冬以外で冷たい飲み物を飲もうとした場合、一杯がかなり高い値段になるのだが、ここではそんな冷たい飲み物が数百円で飲み放題というのだから元は取れているんだろうかと心配になる。
うん、想像していた通りこの紅茶も普通に美味しいですね……。
高級な茶葉と熟練のメイドや執事が淹れた紅茶と比べると、流石におくれはとるものの、だとしても普通にレベルが高いと感じられるくらいには美味しいと思える。
それをボタン一つでコップに注ぐ事ができ、数百円で何度でも飲めるという事を考えると美味し過ぎると言っても良いレベルではないだろうか。
となると、きっと他の飲み物も美味しいのだろう。そう思うと試してみたくなるのだが、ここはグッと我慢する。
次来た時の楽しみとして取っておこう。
『お待たせしました。料理を取ったら完了ボタンを押してください』
そしてアンナとミヤーコで談笑しながら待っていると、美味しそうな臭いをさせつつ可愛らしい雲みたいな顔が描かれたゴーレム? が軽快な音楽と共に料理を運んでくるではないか。
その可愛らしさに思わず緩んでしまう。
そんなサプライズ? もありつつ料理が私の前に運ばれて来た。
「わざわざ取ってくださりありがとうございます」
「いいって事よっ!」
銀色の包みからは白い湯気と共に食欲を刺激する匂いが香ってくる。
そして私はナイフとフォークを使って銀色の包みを破いて、中に入っている煮込みハンバーグを露わにする。
その美味しそうかつ美しい煮込みハンバーグに思わず数秒間見入ってしまうのだが、食欲を抑える事ができずそのままナイフで一口サイズに切ってフォークで刺し口元へ持って行くと、『ふー、ふー』と息を吹きかけてから口へと運ぶ。
「あむっ……」
するとどうだ?
私の口の中へ想像を絶する美味しさが爆発するかの如く広がって行き、はしたなくも歓喜の声で叫びそうになってしまう。
うな重や卵かけご飯なども美味しかったのだが、それらとはまた違う、複雑かつ濃厚、それでいてしっかりと肉の旨味もドカンと感じつつも、どこか懐かしさを感じるような味に感動をすると同時、歯は要らないのではないかと思える程の柔らかさにも衝撃を受ける。
こ、こんな美味しい物を食べてしまうと駄目になってしまうっ!
何がと聞かれれば返答に困るのだが、もしこんな美味しいものが銀貨一枚と少しという値段で王国でも食べられるようになってしまっては、きっと王国民は駄目になってしまう。そしたら煮込みハンバーグを禁止にする必要が出てしまう事だろう。
ウナギはまだ値段もそこそこしたからこそあの美味しさには納得(それでも想像を超える美味しさだったし、安すぎるとも思うのだが)なのだが、流石にこの煮込みハンバーグを銀貨一枚相当の値段で食べられるのはやり過ぎではなかろうか。
このソースだって料理の事にはあまり詳しくない私ですら物凄い手間と時間、そして様々な食材が使われている事くらい容易に想像できるのだ。
「どう? 美味しい?」
「はいぃぃいいいっ!! 美味し過ぎますし安すぎますぅぅううっ!! 毎日食べに通いたいくらいですぅっ!!」
「ワインが使われているので、醬油ベースの和食と違って慣れ親しんだ味なのも良いですよね?」
「確かに、どこか懐かしさを感じてましたぁぁあっ!!」
そして私はあっという間にビーフシチューの包み焼きハンバーグ定食を完食してしまうのであった。




