傘だけは何故かパクられる
自転車、見るだけならば簡単そうなのだが、練習が必要なのか? とも思うのだが、簡単そうに見えて実は難しいのかもしれないのでアンナさんが教えてくれるというのであればそれに甘えても良いだろう。
そんな事を思いつつ女性三人でたわいもない会話をしながら散歩をしていて気づいたのだけれど、私たちの他に女性、それも一人で歩いている人や先ほどの自転車という乗り物に乗って移動している人たちがちらほらと目に入ってくる。
私たちはミヤーコという戦闘面でも頼りになる方がいるので万が一賊に襲われても安心なのだが、女性一人で移動している人たちもミヤーコと同じくらい強い人たちなのだろうか?
「うーん、ここ日本はこちら側の世界でも女性一人で、それこそ夜道を歩いても基本的には安全な珍しい国だから、彼女たちはミヤーコさんどころかここで働き始めてから護身術を習い始めた私よりも弱いと思うよ? 女性が一人で外出しても襲われるような事は殆ど無いと言えども絶対ではないので、迷子対策もありつつ護衛としてミヤーコと私がいるんだけどね」
「私も初めは女性同僚が夜に一人で街まで買い物へ行くと聞いた時はビックリしたのですが、今まで襲われたなどと言う話は聞いたことないですし、もう慣れましたね」
「ここ日本では財布を落としても高い確率で警察……向こうでいう衛兵に預けられて、そして預けられた衛兵も財布の中身を抜くことなく持ち主の下に戻って来るくらいには安全な国だからねー」
「えぇっ!? 財布を落としても戻ってくるのですかっ!? 私を騙そうとしている訳ではないですよね?」
勿論王国でも戻ってくる事はあるのだろうが、その確率は限りなく低いだろう事は容易に想像できるため、それが高い確率で戻ってくるというアンナの話を聞いて、もしかしたら私を騙そうとしているのでは? と勘ぐってしまう。
「ないない。それくらい平和な国なのは本当だから。ただ、コンビニで買った傘だけは何故かパクられるのよね……」
「何故なんでしょう……?」
「それは私も不思議に思っておりました」
「何でだろうね?」
「あら、そんな話をしたらコンビニにつきましたね」
「お話が楽しくてあっという間でしたね……っ!」
そして日本の事を色々と教えて貰っていると、気が付いたら目の前にファミリア・マートというコンビニに着いたようである。
いざコンビニを目の前にするとただでさえワクワクしてふわふわしていた気持ちが、更に高まってきて鼓動も力強く脈打ち始めた。
今まで一人で何かをした事はあれど、それはお父様やお母様が出した選択肢の中から選んだものが殆どであったし、そうでなくとも後日お父様が全て手配してくれていた。
だからこそ何をするにも緊張すれど怖いという感情は無く安心してできた。
しかしながら、今回は使用人こそ着いて来てくれているものの、コンビニを貸し切りにしている訳でも、店員はお父様が事前に用意している者でもないのだ。
その事を思うと今までの私がどれだけ愛され、そして両親の加護の元護られてきていたのかという事が分かってくる。
確かに貴族の娘という立場上誘拐をされやすいというのも当然あるのだろうけれども、それでも両親から受けた愛を今度は私なりに返して行こう思えてくる。
「さぁ、参りましょう……っ!!」
「頑張れっ!!」
「何か困った事があればいつでも頼ってくださいねっ」
そして私は小さな勇気を両親から貰えた気がして、その勇気でもってコンビニへと自動ドアを抜けて一歩足を踏み入れる。
しかし、前回でも自動で開くドアというものを体験したのだけれども、未だに『人が近づくと勝手に開く』という構造が分からない。
どこかでドアを開ける専用の人がいるのかと思っていたのだけれども、どうやらそうではなくて完全に人の手を借りずに自動で開くとの事で『確かに人の手で開けていては、それは手動だな』と思った事を思い出す。
「「いらっしゃいませー……っ」」
「あ、えっと、よ、よろしくお願いします……っ」
店員さんから挨拶をしてくれるので、どう返して良いのか分からず当たり障りのない返しをしてコンビニの中へと進んで行く。
「…………わぁーーー……っ」
コンビニの中はキラキラしていて、何だか夢の中へ迷い込んでしまったような錯覚になるくらい目に入るモノ全てが目新しく、そして私の目には光り輝いて見えた。
ファミリア・マート自体は外から見る分にはそこまで大きくなく、こじんまりとした店といった印象なのだが、その小さな店舗の中には見た事もない様々な種類の商品が陳列されており、いったいここにある商品はどんな商品なのだろうか? と気になってしまい、一つ一つの商品を時に手に取りながらじっくりと観察してしまう。
異国の文字で書かれた本が整然と置かれ、紙で出来たコップや皿も束で売られているのを見るにここ日本では紙というのは王国と違って比較的安価なものなのだろうか? と思い、紙のコップの下に書かれている値段を確認してみる。
「……あの……アンナさん、ミヤーコさん……っ」
「お、どうしたどうした?」
「何か困った事でもあったのですか?」
「いえ、困った事ではないのですが、この紙のコップの下に書かれている値段が110円と書かれているのですが……これは間違っているのでは? もし間違っているのならば店員さんにお伝えしした方が良いのか? と思いまして……」
すると、下に書かれた紙のコップの値段は110円と書かれているではないか。
流石にこの値段は安すぎると思いアンナとミヤーコへ聞いてみる事にする。
もし値段表記を間違っているのならば店員さんへ教えてあげた方が良いだろう。




