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男性の美しさに目を奪われてしまった



 そして、私を乗せた馬車は一週間ほどで私の新たな旦那様が治めている領地、タリム領へと到着した。


 そのタリム領の最初の印象なのだが『綺麗』その一言に尽きる。


 ゴミ一つ落ちてない街並み、レンガで整備された道路、そして恐らく観た感じ上下水道もちゃんとあるのだろう。


 これほど整った街並みは王都位なものであると思っていたので正直かなり驚いている。


 山と湿地に阻まれ、かなり迂回しないとタリム領へと行く事ができないのだが、逆にその立地だからそタリム領の情報は王都まで届いていなかったのだろう。


 タリム領は以前から陸の孤島と言われ、商人ですら行くのを躊躇う程である為猶更である。


「す、凄い……」

「そうでしょう。正直言ってここタリム領は、町は綺麗、治安は良し、食べ物になると王宮の料理よりも美味いほどの町ですからね。ちなみにタリム領については国王陛下から『情報は外には出さぬよう』と言われているからなかなか他の領地や王都まで情報が流れてくることは無い、まさに知る人ぞ知るオアシスになっているというわけです」


 私の口から思わず漏れた言葉が聞こえたのか、何故か国王陛下が用意してくれた御者が答えてくれる。


 当初ラインハルト国王陛下にすら、シュバルツ殿下やアイリスの嘘に騙されて、御者を寄こして来たのだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。


「さて、もうすぐで旦那様が住んでいるお屋敷が見えてきますよ。長旅お疲れ様でした」


 タリム領の街並みに見とれて眺めていると、御者の言葉により一気に私は現実に引き戻される。


 そうだ。私はタリム領へ観光に来たわけではなく、ここの領主に嫁ぎに来たのだ。


 長旅の疲れとタリム領の街並みで忘れていたのだけれど私の旦那様はあの(・・)ソウイチロウ・シノミヤなのである。


 やはり噂通り太っていて、顔と髪は油でギトギトしており、その肌は荒れて凸凹。そして性欲が強く、感情のままに怒鳴りつけ、欲望のままに動く……そのような人物なのだろうか。


 想像しただけで今すぐにでも逃げ出したいと思ってしまうのだが、逃げるとしてもどこに逃げれば良いのか? という問題と、逃げたくないというほんの少しだけ残ったプライドが私に『逃げてなるものか』と思わせる。


 どうせならばソウイチロウ・シノミヤを私にメロメロにさせて操り、私を裏切った奴らに嫌がらせの一つでもやってやろう。


 そう思えば、むしろ受けて立とうという気にもなる。


「あ、ほらっ! 見えてきましたよ。あそこが旦那様が住んでいらっしゃるお屋敷ですよ」


 そう言われて私は馬車の中から窓の外をのぞき込むと、そこには黒いレンガを屋根に敷き詰めた観た事も無い屋敷が視界に映るではないか。


 この屋敷だけでソウイチロウ様が普通ではないという事が伝わってくる。


「いらっしゃいませ、シャーリー様。私は四宮家に仕えておりますメイドのミヤーコでございます。早速ではありますが旦那様がお待ちしておりますので案内をさせていただきます」


 そして、馬車から降りるとこれまた見た事も無い服を着た、シノミヤ家のメイドだと言う猫耳の女性が出迎えてくれ、私をソウイチロウ様が待つ部屋へと案内してくれるとの事なので、私はその言葉に従ってミヤーコの後ろをついて歩いていく。


「この敷地内にある建物全て土足厳禁でございますので、玄関でかならず靴を脱ぎ、室内用のスリッパへとお手数をおかけしますが履き替えていただきますよう、何卒宜しくお願いいたします」

「わ、わかりましたわ」


 土足厳禁という事に珍しさも相まって驚きはするものの、反抗する意味もないので私は素直に従って玄関で靴を脱ぎ、室内用の履物(スリッパと呼ぶらしい)へ履き替え中へと入るのだが、一歩入っただけでこの家が普通ではない事が窺えてくる。


 それは外見同様に内装も普通とは違う作りになっているのだが、そういうところではなく、例えば天井で真っ白に輝いている魔道具一つとっても、それがとんでもない高級品である事は間違いないだろう。


 その魔道具だけではなく、建物に使われている素材なども見たことない素材で作られている事は一目瞭然である上に、そもそも外見からして見たことない建物であるのだが、室内もやはり見たことないような作りになっているではないか。


 そんな室内を私は好奇心のままにめながらミヤーコについていくと、とある部屋の前で止まり、扉を三回ノックする。


「入れ」


 すると中から男性の低い声で入室を許可する返事が返って来る。


 その返事を聞いたミヤーコは躊躇うことなく扉を開け、中へと入っていくので私もミヤーコの後に続いて中へと入る。


「し、失礼します……っ」


 あの悪名高い噂の人物であるソウイチロウ・シノミヤという者はいったいどんな顔をした人物なのだろうか?


 オークのような見た目であろうか? それともゴブリンのような見た目であろうか?


 そう思いながら私は声の主であり、私の旦那様となる相手の顔へと目線を向ける。


「うん……? 誰だ? この娘は?」

「あら、旦那様は国王陛下からのお手紙を読んでいらっしゃらないのですか?」

「あ? そんなもの、どうせいつもの『遊びに行くから色々我を楽しませる物や美味しい食べ物を用意しておけ』とかいう内容だろうから読んでないぞ? 最近のアイツは竜の物語シリーズにハマっているから前回プレイした作品の次の物を既に用意しているし、美味い物を用意しろったって、どうせいつも通りラーメンか何かだろう」

「はぁ~……。旦那様は、仕事はできるのにどうしてこう、肝心なところでいつも抜けているのでしょう……。 残念ながら今回は『どうせアイツはちゃんと手紙を読まないだろうからメイドのミヤーコにも、万が一手紙を読まなかった時を考えて同じ内容の手紙を送る』と私にも手紙を送ってきた国王陛下のほうが一枚上手でしたね……」

「は? おれがあのおいぼれジジイよりもポンコツだと言いたいのか?」

「残念ながら、今回の件に関しましては間違いなく旦那様は言い逃れができないくらいにはポンコツでらっしゃいます」


 そして、男性とミヤーコは言い合いをし始めるのだが、私はその内容がまったく耳に入って来なかった。


 そう、私は目の前の男性の美しさに目を奪われてしまったのだ。


続きが気になる、面白いと思った方は評価とブックマークをしていただけると嬉しいですっ!!(*'▽')ノ

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