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勇者スカウトマンの暗躍(上)

 魔族の王が代替わりして以来、我が国は衰退の一途を辿っていた。

 力を増長させた魔王軍の圧政や飢餓に貧困、それにより引き起こされる各地の紛争。

 もはや革命でも起きない限りこの国に未来はない。

 この事態の原因は国王様の優柔不断とそれを是とした私にある。

 しかし、それも今日で終わりだ。

 いくら国王様が根っからの善人とはいえ、あれを聞いて動かないなどあるわけがない。

 死に際に王女は言った。

 

「私はこの国が大好きでした。みんなが支えあって明るい未来を目指している。その中心にはいつもお父様がいて、これから絶対良い世界になるんだってみんな信じてたはずです。私もその一人でした。だから、信じたまま死なせてください。今は大変かもしれないど私が死んだ数年後、私が信じた楽しい世界が広がっている。そこには私がいないのはちょっぴり残念ですけど、そんなことよりみんなの幸せの方が大切です。この国は終わらない。いや、終わらせないでください。きっとお父様と宰相様の二人ならできます」


 国王様は最後の会話になるというのに言葉が出ない様子だった。

 涙で顔を崩し、今までの行い全てに懺悔するかのようにうずくまっている。

 私も涙が止まらない。しかし、王女様の最後の願いなのだから聞き届ける責務がある。


「もう良いのです。王女殿下。その願いは十分伝わりました。私たちが・・・変えてみせます。いえ、私一人でも成し遂げて見せます」


「ああ、あなたが覚悟を決めたのなら安心ですね」


「ええ、鬼の宰相と恐れられている私がこの国を変えると決めたのです。大丈夫に決まっています・・・ しかし、叶うならその時まで生きていて欲しかった。情けない・・・。身近な人の不幸がないと行動できないなんて」


「いいえ、あなたはできる限りのことをしたでしょう? 優しすぎるお父様の裏であなたがどれだけの痛みを背負いながら行動してきたか、私はちゃんと見ていました。だから、もう少しだけお父様とこの国をお願いしますね」


「私などにはもったいなきお言葉です! 必ずや成し遂げてみせます!」


 王女殿下はもう数分も持たないだろう。

 目は虚空を見つめ、既に私たちは視界にいない。

 それでも、最後の言葉を紡ごうと口を動かしていた。


「最後にこれだけ言わせてください。ずっと優しかったお父様が、強さを貫く宰相様が私は大好きで・・・」


 そこまで言って、王女殿下はこと切れた。

 結局、国王様はなにも言わず涙を流したままだった。

 私はすぐにその場を後にした。やるべきことは決まっている。

 私が持つすべてを使い、魔王を討ち果たすのだ。






 王女殿下が亡くなり、完全に日も落ちきったころ私は国王様の私室に呼ばれた。

 きっと覚悟を決められているはずだと信じて部屋に入る。


「よく来てくれた。適当に掛けてくれ」


 私は席に着き、国王様から本題が告げられるのを待った。

 ずいぶん長く待たされたような気がするが、きっとものの数秒だったことだろう。

 深く息を吐くように国王様はおっしゃった。


「私は魔王を討ちたいと考えておる」


「はい、当然私もです」


「そうか、当然か。私はずっと弱かった。弱すぎたのだ。理想を掲げているくせに自分の手を汚そうとしなかった。現実がこんなにもうまくいかぬものだとは思わなかった。そして、今も私は弱いままだ」


「弱いまま・・・ どういう意味です?」


 これで一旦話し合いをしてなどという理想論を掲げるつもりならば私は今後一人で行動することになるかもしれない。


「魔王は討つ。これは絶対だ。しかし、それは私個人の願いなのだ。国王として国民に命じるわけにはいかぬ。皆、弱いのだ。皆、理想を信じたいのだ。いつか理想の国ができると信じて生きておる。そのための優しい王様像は崩されてはならん」


 その通りかもしれない。しかし、王命がなくては魔王軍との戦争などできるわけもない。

 それに理想の国は理想の王がいる国ではない。


「だから、どうするというのです?」


「暗殺だ。国民には内緒で秘密裏に暗殺するしかあるまい。頼む、魔王を暗殺できるような最強の人材を集めてくれ。」


 暗殺には賛成だ。人を集めることもしよう。

 しかし、甘い。甘すぎる。

 ここまできてまだ覚悟が決まっていないというのか。

 私は国王にある提案をした。

 この国を本当の意味で理想にするための計画を。






「そこのあなた、現状に不満はありませんか?」


「はい?」


「今の魔王の圧政やなにもしない国に憤りを感じていませんか?」


「そりゃあ、感じてるけど仕方ないだろ。」


「何が仕方ないのです? あなたには現状を変える力があるかもしれない」


「もういい。帰ってくれ。その手の話はうんざりだ」


「はぁ、うまくいかないものですね」


 私は魔王を討つ人材のスカウトを始めていた。

 大体の場合は断られる以前に話すら聞いてもらえないことが多い。

 いかにも怪しい誘い方をしているで、当然といえば当然ではあるのだが。

 現在、集まっているのは一人だけ。人数集めの期限的にそろそろ限界だ。

 正直、これを言わなくても来てくれる人材が良かったのだが、王の名を借りるとしよう。




 王の名を使い、再度スカウトをはじめると面白いように話を聞いてくれるようになった。

 無論、私が鬼の宰相であることを明かしたのも大きいと思う。

 ただし、今度は誰でも彼でも引っかかるので立場や金目当てのやつを見抜く必要がある。

 そこは、私の圧力と審美眼を信じるほかあるまい。

 



 各地へ飛びスカウトを続けた結果、集めた人材は全部で6人である。

 正直、もっと人数を増やすか迷ったが少数精鋭が良いと判断した。

 この6人を二つのパーティーに分けて行動してもらうことにする。

 まず、一つ目のパーティーメンバーは余命1年の少年、大量の暗殺を経て記憶を消された暗殺者、辺境で退屈に暮らしていた老兵である。

 生い先短い人ばかり集めたのは決して失敗前提だからというわけではない。

 続いて二つ目のパーティーの紹介だ。

 こちらの面子は私の愚息、スラム街にいた少女、町中にいた怪しい占い師である。魔王討伐にいくメンバーとしてはどちらも異質なことに変わりはない。

 それでも選んだ理由はあった。

 人類にはスキルと呼ばれる不思議な力が存在する。

 その大抵は使い道がなく、とても役にたつようなものではないのだが。例えばコンパスを使わずにきれいな円が書けるであったり、あくびを誘発するであったり基本的にあってもなくても変わらないようなものばかりである。

 その中でも極まれに有能なスキルを発現する者がいる。

 それが、今回集めたメンバーたちだ。簡単に二つのパーティーメンバーとスキルをまとめよう。


 パーティー1

 少年 : 未来を見ることができる目を持つ。

 暗殺者 : 足音、自分の姿、気配そのすべてを一時的に消すことができる。

 老兵 : 肉体の一時的な強化が可能。


 パーティー2

 息子 : 声がでかい。

 少女 : 指定した人間と痛覚を共有する。

 占い師 : 対象に過去の夢を見せることが可能。


 魔王討伐までの期限は少年の余命を考慮して1年しかない。

 どちらにせよ我が国の状況的にあと1年ぐらいしか猶予はなかっただろう。

 この国を出発して魔王を討伐するま概算で3カ月程度。

 つまり残りの9カ月で如何にしてこの6人を成長させるかが今後の肝となる。

 悩んだ末、決定した計画をメンバー全員に向かって話した。


「まず、最初の3カ月。この期間はパーティーごとに連携訓練をしてもらいたい。パーティーメンバーについてよく知る必要もあるだろうし、この期間は長めに設定してある。そして、次の1カ月は連携訓練で発覚した問題を踏まえ個人で能力を高めてもらう。その後、2カ月間は再度連携訓練を行い最終調整をしてもらいたい。最後に、残りの3カ月はひたすら長旅に備えた訓練をしてもらう。魔王領まで行くにはかなりの長旅になる。魔王領に到着しているころには疲れて動けませんでは話にならないからな。場所や日時はまたいづれ連絡する。以上だ。何か疑問があるものはいるか?」


 皆、特に問題ないといった様子でこちらが再度話し始めるのを待っている。


「よし、では今日は自由にして構わん。パーティーメンバーで親睦でも深めてくるといい。」


 その後、皆はそれぞれのパーティーで固まって部屋を出ていった。

 この様子だと人間関係での心配はあまりしなくて良さそうだ。

 懸念事項が一つ減って安心して一息つける。

 これで対面した途端、言い争いでも始まっていたらと思うと胃が痛い。

 そうして、思考に耽っていると国王様が部屋に入ってこられた。


「疲れておるか?」


「いえいえ、まだまだこれからですよ。なにせ始まったばかりですから」


「一応、話には聞いていたが本当にあやつらで計画は完遂できるのか?」


 国王はやはりメンバー的に不安があるらしい。

 無理もない。他人がこの人選をしたのなら私も間違いなく疑っている。


「心配には及びません。必ずや成し遂げられます」


「そうか。お前がそういうのなら何も言うまい。私は覚悟だけ決めておこう」


「はい。それがよろしいかと。無論私もですがね」





 

 宰相様に呼ばれた後、僕たちは顔合わせもかねて食事を共にし、雑談に花を咲かせていた。

 僕らのパーティーが結成されると宰相様は僕たち専用の寮を準備してくれており、今はその食堂にいる。

 僕の感性からすると寮というより豪邸な感じはあるが、寮は寮らしい。

 そんなわけで食事は豪華だし部屋もきれいだしで不満などあるわけもなかった。

 

「お二人はどういった理由で魔王討伐に参加するんですか?」


 僕と同じパーティーメンバーである暗殺者なのか犯罪者なのかよくわからない人と強そうなお爺さんに話を振る。

 一応、パーティーを組むにあたって宰相様からそれぞれパーティーメンバーの説明はされている。

 だから、各々素性は違いこそすれお互いの経歴を許容してこの魔王討伐に参加している。

 しかし、知っているからといって急に過去の話を掘り出すのは失礼だろう。

 そのため話題はおのずと魔王討伐や未来のことになる。


 (まぁ、未来のことを知っている僕にとっては逆に語りづらいんだけどね・・・)


「そうですね。私は少しでも人助けがしたくて。過去に犯した罪に対する懺悔みたいなものですよ。まぁ、自己嫌悪で廃人になる寸前でやむなく記憶を消されたらしいのであんまり覚えてないんですけど・・・」


「わしはただただ強いやつと戦ってみとうてのぉ。昔から戦いでは負けなしなんじゃ。そしてこの年まで来てしもうた。つまらん人生じゃったわい。だから最後に魔王とかいうやつに挑んでみようかと思うてな」

 

「はは、なるほどそれは心強いですね。お二方どちらもちゃんと理由があって安心しました」


「そういうあなたは? 正直、あなたのような少年が参加するのは心が痛い。まして余命があるのでしょう。 最後ぐらい人生を楽しむべきでは?」


「僕の理由か・・・ そうだね。当たり前すぎて言語化できなかったんだけど、強いて言うなら・・・」




「未来を救うためじゃないかな」







 父上からの命令を仰せつかった俺はなんとしても今回の任務を成功させなければならない。

 いや、父上の命令でなくとも国の現状には不満があった。

 それを変える機会をもらえたのだ。むしろ自分のためにこそ全力でやらねばなるまい。

 このように決意したは良いものの早速問題にぶち当たっていた。

 もとより異質なパーティーだ。

 分かりきっていたことであるが、どうやってコミュニケーションを取ればよいのかわからない。

 貴族の息子として生きてきた私にスラム街の少女や得体のしれない占い師とどう接しろというのか。

 極論を言ってしまえば無理に馴れ合う必要はないのだが、今後上に立つものとして立場の違う人間とうまく会話ができるようになっておくことは必要だ。


「あの、何もしないんならスラム街行ってきてもいいっすか? 子供たちが待ってるんで」


「私も業務に戻りたいんですけど・・・」


 (まずい・・・なんとか会話をつなげないと)


「ああ、ごめんごめん。ええと、とりあえずもう少しだけ話そう。ええと、今から寮で暮らせるのにスラム街に戻るんですか?」


「ほかの子たちが待ってるんで。私これでもスラム街では長みたいなポジションでしたし、私がいないと食事の確保とかやばいんで。それに私がいなくなるなんて知られたら、他の連中が横暴したり自分が長になろうとしたり、荒れることが目に見えてるっす。」


「その年で長ですか? すごいですね」


「いや、ただスキルで脅してたらそうなってただけなんで。というより敬語やめてもらえません? なんで自分より圧倒的に立場が上の人に敬語使われなきゃいけないんすか。申し訳ないですけど、なんか気持ち悪いです」


「ああ、じゃあ敬語はやめるけど。え、気持ち悪い?」


「なんか距離が詰めれなくてウロウロしてる感じが男らしくねぇです」


「ボコボコに言うじゃん・・・ はぁ、そうだよ。わかんねぇんだよ。どう接していいか。スラム街の人間なんて初めて会ったし、そこの占い師さんはフード被ってて顔も見えないからなんも読み取れないし。」


「ふっ、ふふふ。あはははは。貴族様としてなっさけないです。でも面白かったから許します。」


「はぁ、それはよかった?」


「あの、雰囲気もましになりましたしそろそろまともな自己紹介でもしますか?」


「ああ、そうだね。じゃあ、俺からやろうか・・・」


(先陣を切ることで少しでも威厳回復を狙っているなんてことはない。嘘じゃない。)


「俺は今知られた通りの小心者でそのくせスキルは声がでかいだけです。はい、本当に父上の思惑を聞いてなかったら絶対に魔王討伐なんて参加しようとは思えなかった。でもやるからには覚悟してる。だから協力してくれるとうれしい」


「んじゃあ、次は私で。まぁ、さっきも言いましたけどスラム街でずっと育ってきました。今回の魔王討伐に参加した理由はスラム街がこれ以上酷いことにならないようにです。それに成功させたらお金とかいろいろ援助してくれるらしいっすからね」


「あ、じゃあ最後は私ですね。えっと占い師やってます。フードを被ってるのはごめんなさい。私のスキルは目を合わせた時点から自分の意志とは関係なく発動するんです。だから、こうやって人と目を合わせないようにするしかなくて・・・」


 各々自己紹介した後、魔王討伐に関する擦り合わせを行っていった。

 僕らの場合は訓練というより、奇襲が大事になってくる。

 完璧なタイミングで全員が行動できるように能力の発動条件やデメリットなどを確認しあった。

 新情報として出てきたのは2つ。

 スラムの少女の能力は相手に自らの血を浴びせないと痛覚が共有できないとのことだった。

 また、占い師のスキルは目を合わせた瞬間自動で発動してしまう上、相手の過去を自らも見ることになるためしばらく動けなくなるらしい。

 デメリットが二つも出てきたが、これぐらいならなんとかなる。


「よし、今日はこれぐらいにしようか。明日以降もあるし。あ、あと基本的に俺は個人で父上に稽古をつけてもらうことになってるから連携訓練は二人で頑張ってもらうしかない。その日の訓練が終わるころには顔を出すからその時に色々共有しよう」


「了解っす」


「私もそれで問題ありません」











 僕たちが魔王領へ出発する日になった。この9カ月の訓練は本当にきつかった。

 連携訓練では僕が未来視を行い、その声出しに反応して二人が動く。

 極論やることはこれだけなのだが、情報を正確に伝えるのが難しすぎる。

 僕としては映像で見えているから当たり前のことでも、二人にとっては全くの未知。

 できる限り盲点をなくして的確に必要な情報だけを伝える。

 正直、連携訓練はもはや僕の個人練と言っても過言ではなかった。

 だって、二人が強すぎる。なんだあれ。

 暗殺者は本当に姿が全く見えないし、お爺さんは身体能力が意味不明だ。

 なんで素手で剣を受け止めて粉砕してるんだよ。

 二人の予想以上の実力に戦慄し、僕の無力を実感しながら初めの3カ月は終わった。

 その後の個人練と最後の連携訓練ではとりあえず形になっていたように思う。

 そして問題の長旅訓練。これは一般人にとってきつすぎる。

 単純にやっていることが軍隊。

 無限に基礎体力づくりはするし、訓練だからという理由で過酷な道ばっかり通るしでこれが僕の人生で一番きつい出来事だっただろう。

 それに他の二人は割と余裕そうだったのが、いっそう僕のメンタルに負担をかけた。

 まぁ、それも乗り切り今日が出発の日。十分に休息を取りコンディションも悪くない。

 その上二つ目のパーティーの人達が荷物持ちやルートの案内などもしてくれるらしい。


「よし、行こうか!」





 

 魔王領までの道中は途中まで普通に整備された道だ。

 そして人間側の関所が設けられており、そこを抜けると通称”魔の森”がある。

 魔の森をまっすぐ抜ければ、魔王領側の関所の前に出るが今回はそうもいかない。

 なにせ魔王暗殺を目論んでいるのだ。

 装備も今回専用になっているし何が原因でばれるかわからない。

 というわけで僕らは当初の予定通り、魔王領の右側の魔の森に来ていた。

 

「いよいよ潜入開始ですね」


「正直余裕じゃろうけどのぉ」


「暗殺者さんが有能すぎる」


 そう、潜入といっても基本的に姿が見えなくなった暗殺者さんを先行させ安全確認してから前に進むだけ。

 基本的にノーリスクである。

 そのまま僕らはぬるっと魔王領に入り、魔王の根城にも潜入することができたのだった。



 

「ここが魔王城ですか・・・」


「なんじゃ、思ったより普通じゃのう」


 そう、最初に抱いた感想は普通だった。

 確かにお城だけあって品格はあるのだが、魔王と聞いて想像していた禍々しさは感じない。

 

「まぁ、暗い雰囲気だと魔王も生活しづらいんじゃないですかね?」


「そういうこともあるかものう」


「気にしていてもしょうがないですし、さっさと進んで魔王を倒しましょうか」


 ここから先はいくら暗殺者さんが有能とはいえ慎重に進んでいく。

 魔王の根城、流石に警戒しないわけにはいかない。

 きっと魔王は城の最奥の部屋にいる。

 そこまでできるだけ戦闘は避けたい。

 そう願いながら僕たちは進んでいった。






「なんにも、なかったですね・・・」


「うん、なんか拍子抜けって感じです」


「歯ごたえが足らん」


「まぁまぁ、もう魔王の部屋の前まで来たんですから」


「ふぅ、流石に緊張しますね」


「では、手筈通りにやりましょうか」


 僕たちは部屋の扉を開け、ついに魔王と対面した。

 こちらから魔王までの距離は約50メートル。

 その50メートルには魔王の側近と思われる兵士たちが数多くいた。

 

「ほぉ、貴様らが俺の城を嗅ぎまわっていたやつらか。子供と老人などなんの冗談だ?」


「冗談でここまで来るほど老いぼれておらんわい。わしはお主と戦いというてここまで来たんじゃ。はよう殺らせてくれんか?」


「まぁ、待て。貴様らは俺の死が目的か? それとも自国の安寧が目的か?」


「わしはただ戦いというて来たと言うておろうが・・・ わしらに命じたやつらは自国の安寧のためにお主を殺すんじゃろうが」


「くだらん。実にくだらん。自らの怠慢で落ちぶれた国を俺のせいにしようなどと。殺すべきは俺ではなく、むしろ自国の王ではないのか? なぁ、愚かな人間よ」


「難しいこと言われてもわしにはわからん。どうせ生い先短い人生じゃ。正直未来なんぞに興味はない。坊主、お主が答えてやれ」


「自国の王を殺しての革命は確かに有効かもしれない。だけど、この状況で魔王討伐に向け人を集め実際に僕らはこうしてあと一歩のところまで来ている。この点は評価されるべきだ。それにあなたはここで死に、国は良い方向へと変わっていく。未来が見える僕が言うんだから間違いないよ」


「ふん、もう良い。強情なやつらだ。考えを改めぬというのならここでその命を終わらせるまで」


 そういうと魔王は座ったまま右腕を前方に掲げ・・・




「甘いですね、魔王よ」


 そのタイミングで姿を消していた暗殺者さんが奇襲を仕掛けていた。

 首元にナイフを一閃。

 致命傷かと思われたが、ナイフは浅い傷をつけるだけにとどまった。


「硬い・・・」


「ふん、そんなおもちゃで俺が殺せるわけがなかろう。ふむ、しかしこれは貴様がやったのか?」


 魔王の周囲にいた兵士たちは床と平行になっていた。

 当初の計画通り、僕らと魔王が会話している間に姿を消していた暗殺者さんが一掃していたのだ。


「私がやりましたよ。だったらなんだというのです? 死人の出ない戦いなどあり得ません」


「その通りだ。しかし、死ぬのは俺か貴様らかどちらかだけだ。残念ながらそこの兵士たちは俺が生み出した傀儡。お前らが来ると分かった時点で魔族は皆避難させている。こうなった責任は俺だけにあるのだからな」


「それはどういう・・・」


「まぁ、そんなことはどうでもよい。くたばれ」


 そう言って魔王は最初と同じく右手を前に掲げた。


「お爺さん! 僕らを抱えて全力で魔王の後方にジャンプ!」


「承知した!」


「ヘルフレア」


 僕の呼びかけの方がわずかに早く、魔王が前方に放った黒い業火を躱すことができた。

 魔王の後方にいてもその熱気は伝わってくる。

 もし食らっていたならばお爺さん以外は跡形もなく炭になっていたことだろう。


「ほぉ、さっき未来が見えると言っていたのは本当だったか。ただの戯言かと思っていたが」


「そんなすぐばれる嘘いわないよ」


「だったら一つ聞かせろ。この先、魔族はどうなる?」


「知らないよ。でも僕らの国は確実によくなる。みんな団結してよりよい国づくりに励むんだ。そこには別に魔族をどうこうしようという意思は含まれてないはずだよ。そっちがよっぽどのことをしない限り人間側からのアクションはないと思うけど」


「俺を殺した後、魔族が滅ぶなんてことはないんだな・・・」


「そりゃあ、そもそもそんな余裕はないからね」


「そうか。やはり俺はここで敗れるか。まぁ、魔族の未来が安泰だというならば無理して抗う必要もあるまい」


 僕にはこの結末が見えていた。

 魔王が決して純粋な悪ではないことを知っていた。

 それでも僕は魔王を殺す未来を選んだ。

 さらにその先により良い未来があると確信しているから。

 

「ああ、本当にこうなるのか。でも、そうだね。ごめん、僕らのために死んでくれ」


「どういうことです?」


「なんじゃ? いまさら降参なんぞ興ざめなことはせんじゃろう?」


「無論だ。貴様の期待には応えてよう。最後に本気でやってやる」


「そりゃあ、楽しみじゃわい。それなら早速、殺りあおうや!!」


 そう言って二人の頂上決戦は始まった。

 魔王は先ほど同様、どこから生み出したからわからない黒い炎を操り攻撃。

 お爺さんはその炎を鬱陶しそうにしながら近接戦闘を仕掛けにいく。

 僕は魔王の次の攻撃が見えているけれどなんだかお爺さんは楽しそうだし、野暮な気がして何も言わずに観戦を続けた。

 





 決着はついた。

 魔王は地に伏せ、その上にはぱっと見ボロボロのお爺さんがいる。


「ふん、魔王というても大したことはなかったのう」


「でも、そういうお爺さんも結構ボロボロじゃないですか?」


「これは服が燃えておるのと煤じゃわい。わしの体はほとんど傷ついておらん。まぁ、それでも今までの中では一番強い相手じゃったがのう。満足ともいえんが、全く満たされてないわけでもない。なんともいえん気分じゃ」


「まあまあ、これで魔王も倒したんですからひとまず喜びましょうよ。」


「そうですね。これで私の役目も終わりです・・・ 少しは罪滅ぼしができたでしょうか」


「知らん。罪滅ぼしなんぞ結局は自己満足の世界じゃろ。自分のことぐらい自分で決めるべきじゃ」


「はは、そういわれるとそうかもしれません。にしても本当に終わったんですね・・・」


「そうじゃな。この一年間は割と楽しかったのう。それも帰ったらもう終わり、儚いもんじゃ」


「まあまあ、また会えますよ。お爺さんが死ぬ前にはまたこの旅の思い出話でもしましょう」


「そりゃあ無理じゃろ。お主の寿命はもうほとんど残っておらんのではないか?」


「あはは、ばれましたか。 でも最後ぐらい幸せな夢を願ってもばちは当たらないでしょう?」


「若いくせに達観しておるのう。全然もうすぐ死ぬやつには見えんわい。」


「一年前から覚悟は決めてたんで。それに最後はみんな幸せでありたいじゃないですか」


「それもそうじゃのう」


 こうして僕等の旅は終わりを告げた。















 

 違う。僕は知っている。ここからが本当の始まりだ。

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