声が出なくて・・・
前半→さくや目線
後半→ゆーき目線です。
「きゅーたーずさーん、もうすぐ出番ですよーっ」
「あぁ分か・・・わ、分かりましたー!」
ふぅ、危ねぇっ。
もうすぐ素が出そうだった。
今日は生放送の音楽番組に出演する。生放送だからな、緊張する。
俺はマイクを持ってスタンバイした。
・・・高音出るよな?
不安になってきた。
あぁ、水飲んでくればよかった。喉がカラカラ・・・。
まぁたった3分半。頑張ろう!
「さくやっ、今日も頑張ろうねっ♪」
「おぅ」
ゆーきが声をかけてきた。
まぁ、生放送とはいえ、俺等は何回も出てるからな。
でも、今日は練習中から声が出にくかった。
いけるよな・・・?
うん、大丈夫大丈夫。
真っ暗だったスタジオに、ライトアップがされた。
もちろん、俺たちのいるステージにだ。
イントロが始まった。
あぁもう、スカートってすかすかするーっ。
『瞬きしないで私を見つめて』
ゆーきが歌う。次は俺の番だ。
“まっすぐに私だけを”
・・・・・・。
会場の盛り上がりが突然消えた。
ゆーきも俺の方を驚いたように見ている。
声が、出ない。
歌ったつもりだった。
でも、出ない。さっきまで出ていたのに。
なんで。どうして。
+ + +
あの生放送が終わった後、私はさくやに声をかけた。
「ねぇ、大丈夫?」
「・・・・・・・・・」
大丈夫、なわけないかぁ。
だってあんなにいっぱい集まってくれたファンの目の前で声が出なかったんだから。
「ねぇ、もう高音でないの?」
そう聞くと、さくやは首を縦に振った。
もう15歳だもんね。もうさくやの友達はみんな変声期来てるもんね。
そうなれば、どうしようという気持ちが出てくる。
事務所にさくやのことを言うしかないのかぁ・・・。
そうなるともう解雇だよね。
もう・・・芸能界には戻れない。
そう考えると、胸が痛む。
でも、
ずっと私たちのファンでい続けてくれた人達はどうなるんだろう?
私達は人として最低の事をやってしまった。
人の心を踏みにじってるも同然なんだよ。
ねぇさくや。
どうすればいいのかわかんないよ。
そのあと、さくやと一言も口を利くことなく家路についた。
次の日、私はいつも通り起きてトーストを頬張りながらニュースを見ていた。
そのとき、芸能ニュースの特集が始まった。
アナウンサーが原稿を読み上げる。
『えー、昨日のある音楽番組に出ていた今話題の2人組みユニット、きゅーたーずのさくやさんの声が出なかったそうですね。澤田さん、どう思われますか?』
その言葉にトーストを喉に詰めてしまいそうだった。
『そうですねぇ、ストレスが原因ということもありますし・・・。喉の調子が良くなかったのかもしれませんねぇ』
澤田という人は物深げな顔をしながら答える。
おいおい・・・・・・。
これ私たちの事じゃん!!
すぐにケータイをとってさくやにかける。
2コールほどなったところでさくやが出た。
「なんだよ・・・」
声が枯れている・・・。やっぱり変声期かな。
「さっきのニュース見た!?」
「見てねぇけど」
「私たちの事だったんだよ! ねぇバレちゃうかもしれない!!」
そんな私をよそに、さくやの返事はそっけなかった。
「・・・ふぅん」
・・・・・・・・。
絶句。
「ふーんって・・・ちょっとォ!!」
「俺眠いから寝るわぁ」
「はっ!!?」
「ブツッ。ツーツー・・・」
あんまりだ・・・。
私ひとり焦ってるじゃない・・・・・・。