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掌ですくいあげた物語19 ~ここに立つ~

作者: タンザン

ぼくはひとり いにしえの時代に立っていた

すでに三輪山(みわやま)はあり ふもとには箸墓(はしはか)古墳が築造されていた

神おわす山に 人間がひれ伏すかのように


いにしえ人も見ていたこの風景を ぼくは見ている

懐かしさに似た親しみが込み上げてくるのはなぜだろう

ぼくは別の人生でも ここへ来たのか


自分の行動を変えなければ 何も変わらないというけれど

こうして立っているだけで 

ぼくの影は変化し 想いは次々にやってくる



古墳って 人のお墓だよな


人は死んでも生きつづけ 子孫を守っているという

父の墓前で祈るのは いつだってのこった母の平安だ

お墓はぼくらの終着点ではなく 

魂の踊り場であり 別の世界への入口なのかもしれない



死が怖いと思いはじめたのは いつからだろう


幼いころ 近所の婆ちゃんが亡くなったとき

その夜は足を伸ばして寝れず 布団の中で丸まっていた

闇から出てきた手が からだの端にある足をつかんで

死の世界へと引きずり込んでいく幻想に囚われていた


父の遺骨に触れることは 怖くてできなかった

ぼくのからだも同じものでできているというのに・・・

母は仏壇のまえで長い時間すわったすえに 

置かれた父の骨壷のふたをあけ 中の骨をそっと撫でた

ぼくとは別の想いであったにちがいない



闇を怖いと感じはじめたのは いつからだろう


太古のむかしから ぼくらは闇をおそれていたという

真夜中に思い悩んで目が冴えて眠れなくなることがあるのは 

その名残りだと なにかで読んだ気がする


闇に心の底から癒され楽しめるようになれたなら

ぼくらは新しい種になれるだろうか

いくら知恵をつけたとしても そんなときが来るとは思えない



懐かしさは頭の中の思い出や記憶にだけあるのだろうか

ぼくを超えた果てしない時の中にあるのかもしれない

箸墓古墳は三輪山のふもとに ただ有りつづけ

ぼくの命だけが足早に通り過ぎていく

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