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神に問うー国民生命保護法案ー未来へと続く道ー

作者: ムラカワアオイ
掲載日:2023/10/12

「こんばんは。八時になりました。アナウンサーの平田智子です。この時間は予定を変更いたしまして、ニュースをお送りいたします。先ほど、ニュース速報でもお伝えしましたが、衆参両会議で、『国民死刑制度』が、与党の賛成多数で可決されました。私も死にますので、国民の皆さん、勝手にこのニュースの続きをご覧ください。それでは、さようなら。皆さん、それなりに頑張ってください。それでは、首相の記者会見をお楽しみ。それでは、記者会見場の板倉レポーターを呼んでみたいと思います。板倉さん。板倉さん」

何だ、こりゃ。このアナウンサー、ピストルで頭、ぶち抜いちゃったよ。そうか。死んだほうが幸せかもな。でも。しかし。

「はい。記者会見場の板倉です。それでは、首相の国民死刑制度に関しまして、この時間は番組の内容を変更させていただきます。先ほど、行われた首相の記者会見の模様をご覧いただきまして、国民の皆さん、どうぞ、ご自由に死んでください。皆さん、死んだら楽ですよ」

 はあ。国民死刑制度。まあ、テレビ、観とくか。ご自由に死んでくださいって。言われてみてもなぁ。あ、でたでた。首相だ。俺、この人の胡散臭いところが好きなんだよな。

「ⅤTVの小林と申します。この制度なんですが、意味が全く、分かりません。首相、何のおつもりですか」

「どうするもこうするも、今の我が国を良くする為に我々が法に基づき、審議してきたわけですから、生きることって、面倒くさいでしょ。それに、この不景気ですし、人間、どうせ、死ぬわけですから、皆さんと死をわかちあえる事は、光栄に思っております」

 本気かよ。でも、考えてみたら、最近、変な事件、多いしな。何だ、この音。まさか、銃声。窓を開けたら、ヤンキーが花火をしてた。何だよ、テレビ、観たいのによ。電話が鳴ったら、俺、死んだ。


「どうも、青空あの世この世です。僕等もね、頑張らなあかんなぁ、思うとるんですけど、今から三途の川ツアーいきましょか」

「あの、ここ何処ですか」

「あの世とこの世の中間地区でんがな。えっと、君、鷹尾修さんの息子の鷹尾武君やね。お父さん、待ってはりますよ。それから、おじいちゃんの浅次朗さん、おばあちゃんの照子さんも」

「あの、よく分かんないですけど」

「まあ、付いてきなはれや。このボートに乗ってや」

 やっぱり、あの世ってあるんだ。死んで良かったと思うべきなのか。何か、きれいな景色が見えてきた。向日葵が沢山、咲いている。


「ええ、本日も青空あの世この世ボートをご利用いただきまして、ありがとうございます。ありがとうございます。この船は時速百キロであの世へ、とあの世へと進んでおります。本日の乗務員は青空あの世この世で御座います。今日もやっぱり青空ボート。青空ボートで快適なひと時をお過ごしください」

「あの」

「どうしました」

「煙草吸ってもいいですか」

「ごめん、兄ちゃん。最近、僕等も不景気でな。灰皿、買う予算もないねん。三分で着くから、待ってなぁ。ビールやったらあるで。こんな時ぐらい飲まなあかんで。おっちゃん、おごったるわ。はい」

飲むか。ああ、お疲れ様。俺の人生、終わっちゃったんだな。で、俺を殺した奴って誰だ。それにしても、このボート、速過ぎる。なんだか黒い鳥居が見えてきた。

「お疲れ様でした。神様ところへ行って、手続き、お忘れなく。兄ちゃん、身体には気を付けてな。ほなな」


きれいな村だ。それにしても、神様って誰だ。とりあえず、煙草。煙草。ふー。巫女さんが灰皿を持ってやって来た。

「武君。久しぶり。フォーエバーアイドリング中の史上最強のハトコ、キチキチユニット戦士、理恵ちゃん、絵里ちゃんだよ」

「理恵ちゃん、絵里ちゃん。何してんのこんなとこで」

史上最強のハトコ、キチキチユニット戦士、理恵ちゃん絵里ちゃんとは、俺の初恋のお相手で、二つ年上のとても可愛い双子のお姉さん達なのである。理恵ちゃんと絵里ちゃんは去年の夏、バイト帰りに交通事故死。その昔、二人はレディースの総長で、イタリアンマフィアにスカウトされ、ドンを任されたこともある、乗れないマシンはない無敵のグレートガールなのだ。

「バイトしてるの。灰皿伝達大使に任命されちゃって。今、神様のところにお連れしますね。はい、お塩。清めて、清めて。よし、行きましょう」

 黒い鳥居を潜ると、白いスーツを着こなす坊主頭の男が俺に名刺を差し出した。

『神様 田村総一郎』

その田村の神様が俺に申しつける。

「鷹尾武。享年三十二歳。ご愁傷さまでございます。武君。君、二十七歳の誕生日に彼女にふられて、やけになって、映画館で煙草、吸っただろ。それに高校の時、カンニングして、叱られた先生の車、金属バットでめちゃめちゃにしただろう。それから、お前、去年、一万円拾って、警察に届けなかっただろ。懺悔しろ。お前みたいな奴に生きる資格はねえんだよ。指、詰めて、懺悔しろ。分かったか」

「待ちなはれ」

 後ろを振り向くと、ば、ばあちゃん。

「神様、あんたね、武はカタギなんやで。指、詰めろって、誰に言うてんのや。え、こら」

神様にこんなこと言っていいのかよ。それでもって、俺の指、無くなっちゃうの。

「ばあちゃん、やめといたほうがいいよ。罰当たっちゃうよ」

「武、ここは黙って。神様、あんたが指詰めろ。え、分かってんのか。かっこつけとんちゃうぞ。私はな、あんたと違って、明治、大正、昭和、平成、令和と、阪神、応援してきたんやぞ。おい、修、刀、持ってこい」

「武、なんや、その関東弁わ。え。東京で何しとったんや。ぼけ」

「親父、また、飲んでるのかよ。東京で俺が何しようと勝手だろうが」

「修、あんた、人のこと、言えるんか。あんたもプロ野球選手になるいうて、アメリカ行った、身分やろ。こら。はよ、刀、持ってこい」

 親父はその昔、草野球の異端児と呼ばれ、四番でピッチャーを守っていた。生涯打率は三割三分九厘。防御率、2.18。そして、ばあちゃんの猛烈な反対を押し切り、メジャーリーガーを夢見て、渡米した過去を持つが、蓋を開けてみると、成績不振により二十歳でアル中になってしまった良い人なのか悪い人なのか分からないジャパニーズなのだ。そして、夢を語り合ううちにニューヨークで知り合った、看護師だったお袋と結婚。平成十年一月三日、お袋の介護も虚しく、急性アルコール中毒で死去。五十二歳の最期であり、くしくも、一月三日は俺のじいちゃんである、株式会社鷹尾酒店の創立者、鷹尾浅次朗の誕生日でもある。俺は生まれて初めて喪主を務め、友達の森田君に挨拶文を代筆してもらい大変な正月であった。

「はい、はい。刀」

「何をする気だ。俺は神様だぞ。この無礼者」

「ほなな、神様」

 ば、ばあちゃん。ばあちゃんが神様の腹、刺しちゃったよ。

「わ、私は一週間後に、ふ、復活する」

え、まじかよ。神様、死んじゃったよ。え、あの世で死んだら、次、何処、行くの。それも田村の神様だよ。

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。武、今日から私が神様やで。なんでもいうてきいや」

「う、うん」

「武、葬儀屋に電話してくれるか」

 104。と。

「あの、あの世で一番、近い、葬儀屋、探してるんですけど」

「この辺りですと、曇り空一丁目に倉田葬儀店がございますが、お調べ致しましょうか」

「お願いします」

「倉田葬儀店をご案内します。ご利用ありがとうございました」



「それでは、神様、故田村総一郎儀の葬儀、告別式をとり行います。ご遺族の方から、ご焼香をお願い致します」

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

「それでは、喪主様からのご挨拶をお願い致します。奥様の咲江様、どうぞ」

「生前、総一郎をご愛顧いただきまして、心からあつく御礼、申し上げます。神様まで成り上がり、欲しいものは何でも買ってくれました。プロレスラーを夢見た十代。写真家に憧れた二十代。人様に迷惑ばかりかける総一郎を愛していただきまして、感謝の限りでございます」

 ああ、俺も、手を合わせるとしよう。合掌。でも、一週間後に復活するんでしょう。ばあちゃんが新しい神様という事だから、え、待てよ。どうなるの。

 号泣する遺族の方々。しかし、ここは暑い。汗だくだ。それにしても、何で、田村の神様の葬儀に俺達が出席しなくちゃいけないの。と俺は思いつつ、缶コーヒーを飲み干した。これも人生、田村総一郎さん。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。ばあちゃんが、赤い椅子に座り、俳句を作っている。そうすると、俺は神の孫か。

「武、ちょっと来い」

「また、飲んだくれて説教かよ」

「ちゃうわ。とにかくついて来い」

 親父が運転する、軽トラに乗って、トンネルを三つ潜ると、『鷹尾商店』の看板が見えてきた。何時まで経っても親父は親父。酒臭い。

「ここが俺の店や。武、お前の部屋も用意してあるで。ちょっとは見直したか」

「分かった。分かった」

「ほな、ここで働けよ」

「やっぱりな。絶対、そう言うと思ったよ。俺、もう、あんたとは、もう、関わりたくないんだよ」

「じゃ、二度と帰ってくるな」

「ああよ。帰ってこないよ。一番近い、バス停ってどこにあるんだよ。俺、もう、行くから」

「交番で聞いて来い」

「交番ってどこだよ。え、この、無責任野郎が」

「何やと、この馬鹿息子が」

親父を殴ったら、何故だか、俺の右鼻から血が出てきた。何なの、これ。そして、空を見上げると、緑色のワンピースを着た、どっかで見た、女が俺を睨んでいた。あれ、誰だっけ。

「武君、暴力はいけないよ」

「あの、あなた、何処かで見たことあるんですけど」

「私ですか。さて、誰でしょう」

 ううん。誰だ。よし、素直になろう。それが一番だ。

「あの、分からないんですけど」

「あの、私、女優で、あなたの完全理想の女性像を含んでいる、菅野まなみです」

「え、あの、管野さん」

「はい。本物ですよ。ねぇ、約束してくれる。もう、暴力、絶対に振るわないって」

「はい。約束します」

「じゃあ、今回は許してあげよう」

親父は管野さんにサインをしてもらい嬉しそうである。何故だか、三人で、ちゃぶ台を囲んで、そうめんを食べている。そういえば、管野さんには生前、お世話になった。部屋には、管野さんのポスターだらけだったもんな。日本を代表する女優さんだ。映画、『BOYごっこ』の教師役を観て、俺は感動、涙したものだ。

「この子をよろしくお願いします」

「はい。お義父さん」

「何をよろしくお願いしてるの」

「武君、結婚しよう」

「武、お前の運命の人はこの人なんやで」

「あの、俺、管野さんと今日、知りあったばっかりなんですけど」

「いいの。いいの。私には、何でもお見通し何だから。結婚してください」

「俺で本当にいいんですか」

「はい。以前から好きでした」

「あの、何で俺のこと、知ってるんですか」

「武君の詩集を読んで前から、ファンだったんです」

 俺はその昔、詩集を自主出版し、全く、売れなかったが、それなりに詩人だった。まさか、管野さんが俺の詩集を読んでいてくれたとは。奇跡だ。実力でもぎ取った勝利だ。愛ってやっぱり素晴らしい。

「あの、結納とかきっちりしたほうがいいですよね」

「ううん。どうでもいいんじゃないかな。愛さえあれば大丈夫」

 ひー。ビールが美味い。管野さんがまぶしい。親父の笑顔を見るなんて、何年ぶりだ。

「そうですね。愛さえあれば大丈夫ですね。いい響きですね。愛って」

「おい、武、良かったな。ハネムーンやな。新婚旅行やな。管野さんと管野さんのポスターをプレゼントしまくった俺にまず感謝しろよ。ね、管野さん。ところで日本酒はお好きですか」

「日本酒はちょっと、呑めないです。ごめんなさい、お義父さん。後で、もう一度、サインしてあげる」

「ありがとうな。まなみちゃん」

「お袋はどうしてるんだ。今」

「今はこの世のフィンランドで命の大切を訴えている寿司屋でバイトしてんねん」

 なにっ。俺を殺したホシはお袋だと捜査上で浮かんでいたのだが、お袋らしい。したたかに日本から離れたか。

「まなみ、俺を信じてくれ。カラオケ行こう」

「はい。ハネムーンは行かなくていいから、カラオケで贅沢しましょう。二十四時間カラオケ、武君頑張ろうね。美味しいもの沢山食べようね」

「おう。まなみ、俺について来い」

「はい。あなた」

菅野さんのファンで良かった。あああ。詩人ってなんだろう。何のために詩人は存在するのであろうか。俺は、どす黒い、この世とあの世を知ったわけだ。俺は死んだんだな。まなみはきれいな人だ。ヒトラーも死んだんだろ。アイルトンセナも死んだ。ということは、ここはあの世だ。会えるかもしれない。俺は、あの世を散歩した。すると、郵便局の横に弁当屋があった。財布には三万円。死んでも腹が減るんだな。何か、食べようか。


「いらっしゃいませ」

パンチパーマのおばちゃんがレジにいた。

「唐揚げ弁当にライス大盛り」

「以上でよろしいですか」

「はい」

「659円になります」

俺は小銭を持っていなかった。一万円札を財布から出す。

「44番でお待ちください」

おばちゃんは、厨房に移り、弁当を作る。ああ、腹減った。死ぬってどういうことなんだ。


「フラミンゴロケンロー。フラミンゴロケンローカモン」

俺は今、まなみとカラオケに来ている。ウオッカを二人で飲み干し、歌っているだ。まなみは、『愛をください』をカワイク歌っていた。俺は、『マリオネット』を誇らしげに歌った。カラオケ屋は不思議だ。『あの世カラオケ』という店だが、さっきから、気になることがある。所謂、『アエギ声』が隣の部屋から聞こえるのだ。

「武君。ここから出よう」

「うん。そうだな」

夫婦となった俺たちは、カラオケ屋の前にある教会で、十字架を切った。なんなんだろう。あの世って。この俺の横にいる、菅野まなみは、本物なのか。だけど、死人に偽物も本物もないだろう。俺は、煙草をふかし、まなみの手を強く握った。そうすると、トイレへ行きたくなった。神社のトイレで小便を済ます。まなみとタクシーを拾い、親父のもとへと帰ることにした。でも、でも、でも。ばあちゃんは神様を殺してしまったんだ。本当の罪と罰ってなんなんだ。死刑になったら、あの世とこの世。今、俺がいる、あの世で死ねば、どうなるものか。

「武君。そう深く悩まないでね。死んじゃったのはお互い様だから」

「そ、そうだな。気楽にいくか」


ビジネスホテルにまなみとチェックイン。太陽が見える、部屋の中。俺はまなみを抱いている。夢にまで見た心境。あの世で子作りとは、どういうわけだ。俺、死人。まなみ、死人。あの世には死人しか存在しないのか。皆、死んだから死人として生きているわけで。参った。俺は、発射した。まなみは、笑顔で眠りに就いた。俺達、永眠してるんだろう。あの世で眠るとは、果たしてどういうことなのだ。ワインでも飲むか。冷蔵庫の横に置いてある赤ワインを一気に飲み干す。酔っぱらいの出来上がり。でも、神はなんでも、なんだってお見通しなんだろう。霊感が強かった、名前は忘れたが、首にほくろがある、同級生がいた。よく、霊が見えると、言ってたっけな。俺は、冷凍庫の氷を取り出し、なめた。俺は菅野まなみを、本当に抱いた。でもでもでも。ここは惑星なのか、異世界なのであろうか。俺は、まなみの横で、もう一度、眠った。皆、死人だ。


家に着く。俺は、親父とまなみと、また、酒を飲んだ。親父は確かに嬉しそうだ。俺は仏壇に手を合わせるのであった。これから、どうなる。あの世。あの世もこの世もいろいろとあるもんなんだなぁ。



翌日。俺は散歩がてら、スーパーに買い物へ行く。自動ドアを開けた瞬間、電話が鳴った。着信、親父。

『武、葬式や。ばあさんが死んだ』

『それって、ほんとかよ。あの世で死んだら意味ないじゃん』

『ええから帰ってこい。喪服、置いてあるから』

『はいはい』

ばあちゃんが死んだ。神になった、ばあちゃんが死んだら、果たして、どうなるの。俺はタクシーを拾う。


「兄ちゃん、ここ、あの世会館までで、いいんだろう」

「そうだな。俺、今、二千円札しかもってないんだ」

「それだったら、2000円ジャストにしとくわ」

「ありがとう」

運転手さんと話しては二千円札を差し出す俺。この運転手さんも死人かよ。まったくもって筋が通らない。また、電話が鳴る。まなみからだ。

『武君、お義父さんから聞いたよ。おばあちゃんのこと。私、撮影の仕事があるから、遅れるんだ。ごめんね。こんな時に』

『いや、いいよ。で、何の撮影』

『やくざモノの映画』

『そ、そうか』

俺はばあちゃんに逢いに行く。最期の姿。神と化したばあちゃんはどんな顔をしているのであろうか。俺は、悲し気に笑う親父と喫煙。黒いネクタイ、喪服を親父から手渡され、トイレで着替えた。ばあちゃんの最期か。棺へと歩く。きれいな穏やかな顔をしている、ばあちゃん。ばあちゃんの遺影には俺が撮った笑顔の写真。


「武はばあちゃん孝行やな。遺影の表情、めちゃ笑顔やんけ。俺は、お前と違って、親孝行できへんかったからな」

「そんなことないよ」

ばあちゃんは本当に天に召されるのであろうか。ここはあの世。田村の神様も生き返るのか。三日経っても、復活しない、田村の神様。俺は、トイレで小便を済まし、この矛盾がたまらなく怖くなってきた。お袋はいったい、どこで何をしているのであろう。本当に死ってなんなんだ。そうこうしていると、まなみが黄色いタクシーから降りてきた。ご苦労様です。姉御。

ばあちゃん。ばあちゃん。お坊さんが三人。まなみは喪服に着替えて、手を合わす。俺はばあちゃんの死の意味が分からないままに焼香する。親父は涙を拭いて、まなみは親父を励ます。


出棺したばあちゃんの棺。家族ってなんなんだ。親父とまなみと俺、三人が通された部屋には、ビールが五本。三人で飲み干す、あの世の夏。まなみは泣きじゃくる親父を慰める。

「俺、俺、親孝行、なんも出来へんかった。ゆ、許して、ばあさん」

「そんなこと、ないですよ。お義父さん。お義父さんは頑張っておられるじゃないですか。御立派ですよ。私、アイスクリーム、買ってきますね」

親父の泣き顔。これが本当の死なのであろうか。死んで。生きて。もう一度、死んで。よく、お袋に言われた。

『お前なんて産まなきゃよかった』

『頼むから死んでくれ』

『金で泣け、金で苦しめ、金で死ね』

俺は虚しさの中、生きてきた。なんなんだ。これってなんだろう。涙がこぼれた。俺は何のために頑張ってきたんだろう。何のために生きて死んで、苦しんで。でも、まなみが俺と結婚してくれた。夢見てた女神、まなみと。セックスもした。これは親孝行なのであろうか。親不孝なのであろうか。そうこうしていると、まなみがスイカバーを三本、持って部屋に帰ってきた。

「お義父さん。元気を出して。おばあちゃん、お義父さんの元気な姿を望んでいますよ。きっと、はい、スイカバー、冷たいですよ。武君にも。武君、元気を出してね」

三人でスイカバーにかじりつく。冷たい、美味い、甘い。夏だ。すると、部屋の扉が開いて。

「恐れ入ります。お骨のほうを」

まなみが応える。気丈に。

「わかりました。お義父さん、武君。おばあちゃんの最期ですよ。お骨、拾いましょう」

俺達、家族。あの世。この世。時の流れって何だろうか。ばあちゃんはあの世からあの世のあの世に旅立つんだろうな。俺は、親父とまなみの三人でばあちゃんの骨を拾った。そして、納骨するために、ハイヤーで墓地へと向かった。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。黒いスーツの男が二人、墓を開け、ばあちゃんは納骨された。親父は、線香を手向けて、俺もまなみも続いて線香に火を点けた。あの世の中で。でも、ばあちゃんは復活するのかもしれないと思うと、あの世にいることを幸せだと一瞬、感じた。


ばあちゃんが亡くなって、一か月が過ぎた。ばあちゃんは復活していない。俺はコンビニでいつもより高い煙草を買って、仏壇に手を合わせた。親父は、まなみの慰めに応えるように、仕事を探すと、言い出した。そして、親父は自動車教習所に通いだし、普通二種の免許を取った。そして、仲間に電話を毎日のようにかけては、会社を作る。タクシー会社を作ると意気込み、手続きを役所で済ませ、「タクシーあおぞら」を有限会社として立ち上げた。俺はなにをするまででもない。まなみとセックス三昧の日々。俺はあの世で無職。リビングでテレビを点けた。

『菅野まなみさん、妊娠。お相手は一般男性』

えっ。俺のこと。外を見ると、取材陣といえばいいのか、カメラを担ぐ人達が大勢、いた。

「馬鹿野郎。俺は見せ物じゃねえ」

俺は大笑いする取材陣に呆れかえった。すると、電話が鳴った。まなみからだ。

『武君、ごめんね。私、そう、おめでたなの。隠しててほんと、ごめんね』

『いいよ。いいよ。それより、頑張ろうな。産まれてくる赤子のためにも』

独りよがりに生きてきた俺が父親に。俺、まなみの立派なヒモだ。しっかりしなくては。俺は冷蔵庫のビールを飲み干す。嗚呼、あの世ってテレビもあるんだ。この不思議な感覚。


親父が帰ってきて、嬉しそうに言った。

「おう、武。今日の売り上げ、まなみちゃん効果で67万円や。なんか、欲しいもの、あるか」

「欲しいもの。煙草かな」

「なんや、煙草か。夢のない奴やのう。まあ、ええわ。煙草、買ってきたるわ」

ここ、夢の中でもないんだな。テレビを点ける。また、ワイドショー。俺、なんのために生きているのか。あの世で。しっかりしなければ。俺も父親になるわけで。笑ってる鏡の中の俺って誰だ。誰なのか。一般男性で悪いか。


まなみが、帰ってきた。ちゃぶ台を囲む、俺とまなみ。

「武君、産休、取ったからね」

「うん。俺が父親でほんとにいいの」

「うん、あなたしかいないから」

クチヅケを交わす夫婦。テレビの中では、ロッテ対日ハム。そういえば、じいちゃんは何してるんだろう。じいちゃんも死んでるわけだから、この、あの世にいるはずだよな。そうだな、あの世も悪くない。明日は、あの世神社のお祭り。まなみとデートするか。国境とか人種とか、あの世にもあるのかよ。俺はまなみと、布団にもぐり、キスをして眠った。


神社。まなみは青い浴衣姿。俺は金魚すくいに挑戦。取れた取れた、金魚が二匹。まなみは笑顔で、ファンと思われる中年男性のサインに応じる。女優さんだもんな。まなみは。

「武君、カステーラ、買ってあげる」

「ありがとう」

二人の幸せお祭りデート。カステーラの出店。今度はハゲたおっさんが、俺に言う。

「兄ちゃん。こんな、べっぴんさん、連れていいね。羨ましいよ。姉ちゃん、菅野まなみにそっくり。きれいだね」

本物やっちゅうねん。このおっさんは、まなみに、ずっと、

「きれいだね、きれいだね、きれいだね」

と嬉しそうに声をかけては笑う。そういえば、中学の同級生だった中島。自殺したよな。あいつもあの世というここにいるのか。皆、死を経験している人間どもだ。金魚。金魚も死んで、ここに来たのだろうか。俺は、まなみと手を繋ぎ、夏祭りの神社を歩く。

「武君」

「なに、どうした」

「頑張ろうね」

「うん。頑張ろう」

幸福者は生きてる限り幸福だ。あの世で生きる。お酒が飲みたくなった。まなみはタクシーを拾い、俺も続く。

「休もう」

「そうだな。休もう」

タクシーの運転手さんは、まなみに握手を求め、「おめでとうございます。安産、願うね」と笑顔で言う。有名人なまなみ。俺は夜道を走る、タクシーの中、金魚が泳ぐ、ビニール袋を手にしたまま。行先はこの前、行ったビジネスホテル。俺等、人間って金魚と変わらないのかい。と一瞬、思い、嬉しそうに、まなみと会話する運転手さんを見つめていた。



俺。あの世、この世。理不尽に熱い気持ち。まなみが、安産。俺達、親だ。息子の名前、「純一郎」。鷹尾純一郎。命名した。親父は、じいちゃんになり、純一郎にキスをする。禁煙成功。親父は、タクシードライバー。俺は、いつしか、「あの世デパート」のガードマンを職としている。月日は流れ。まなみは、仕事好き。芸能界に、即、復帰。でも、ばあちゃんは復活しない。俺も出勤だ。紺色の制服に着替え、てくてく、この街を歩く。


ただ、心配事がひとつ。お袋も復活しない。どこにいるのかさえも分からない。死んでいるのか、生きているのか、あの世、この世で。


俺は、職務に就く。そうだ、温泉にでも、家族揃って、行くとしよう。のんびりと。あっという間に昼休み。テレビではボクシング中継。俺は、自動販売機に、コーラを見つけ、飲み干した。煙草もやめたことだし、健康そのもの。テレビを消して、昼飯を食らう。まなみの手作り弁当。俺もまなみもきゅうりは苦手。ポテトサラダに食らいつく俺。


結局、俺は、あの世で死なない男。でも、あの世はこの世で、人生って、何度もあるのか。

はて。最大の矛盾。俺は、自宅でアイスコーヒーを飲みながら、この矛盾に、一瞬、呆れ返り、タイムマシーンを連想した。そういえば、俺って詩人だったんだな。前世では。でも、まなみが、あの世というこの世で、俺の子供を生んでくれた。盾と矛。いったいなんなんだ。いいわ、今日だけは、煙草でも買いに行くとするか。あの世コンビニで。純一郎をまなみに預けて、俺は自転車に乗った。


「マルボロ、ひとつ」

「かしこまりました」

背の低い、男子高校生だと思われる、コンビニの店員さんはにこりと笑い、こうも言った。

「まなみさん、お元気ですか。僕、ファンなんです」

「元気だよ」

「お兄さん、幸せ者ですね」

「そうだな。幸せだ」

俺は自転車にまたがり、自宅に帰る。マルボロを吸いながら。今の時刻は、5時55分。早く起きてしまった。親父が言う。

「おい、武、俺の会社を継ぐ気ないか」

「お、俺が」

「お前しかおらんやろ」

「か、考えとく」

「わし、隠居しようかと思ってな」

「早いよ、隠居なんて」

「そうか、お前、煙草あるか」

親子二人でマルボロを吸う。俺って、何歳だ。親父って何歳だ。まなみは俺と同じ歳で、学年は、一つ下。俺、この世で、嫌いなものは数学と学校の先生。と、きゅうり。

「親父さ、隠居して、どうするの」

「そうやな。俳句でも始めるか」

「いい人生だね」

「お前、前世で詩人やったもんな」

「ま、まあな」

「久しぶりにドライブ、行こか」

「うん」

俺は親父の軽トラの助手席に座る。子供の頃、失恋する度に俺をドライブへ連れて行ってくれた親父。俺が跡継ぎか。親子を乗せた軽トラは、北へ北へと進むのであった。お袋、元気かな。親子、北上。車の中。神社、仏閣、お墓が視界に多い。待てよ、前世の俺の身体はいったいどこへ行ったんだ。俺は、運転席に座り、親父を助手席に乗せて、帰宅するのであった。


「武君、お義父さん、お帰りなさい。今、何か、作りますね」

まなみはキッチンへと消えた。すやすや、眠る、純一郎。起こさないよ。ゆっくり、眠ってていいよ。嗚呼、優しくなりたい。そして、親父も眠りに就いた。

「せっかく、作ったのにお義父さんったら、寝ちゃったね」

「まあ、いいじゃん。二人で食べよう」

「うん」

ちゃぶ台に夫婦。お袋、どこにいるんだ。ヒー、カレーが美味い。俺とまなみは、純一郎を見つめている。

「まなみさ」

「どうしたの」

「はっきり、言うわ。俺、お袋に逢いたいんだ」

「お義母さんに」

「うん。お袋に逢って、親不孝を詫びたい」

「そう」

「うん」

夫婦はなぜだか、警戒心に苛まれた。純一郎の起きる声がする。まなみは、すぐさま、純一郎をだっこして、母乳を与える。


ガードマンとしての職務。まなみの夫。軽いような辛いような。この人間という生き物。お袋に逢うには、どうすればいいのか。後ろを向くと、背がやたらと高い、酒臭い角刈りの兄ちゃんがいた。そして、俺に、言う。

「兄ちゃん、マザコンでファザコンらしいな。今日の一面、トップだぞ。笑える男だな、お前は」

職務遂行。男の頭を警棒で割った。そして、トランシーバーに向かう、俺。

「二十代だと思われる、男性、不審者。身柄を確保。どうぞ」

「了解しました。警察に連絡します。事務所へ帰ってきて。どうぞ」

「了解しました。どうぞ」

俺は、トボトボと事務所への階段を昇る。永遠なんてきっと、ないから。事務所に帰ると、えっ、どこかで見た人。六十代だと思われる女性。

「あんた、いつまで生きてるの」

「お、お袋」

「あんた、一緒に帰るよ」

「だから、お袋、何してるんだよ、こんなところで。今まで何してたんだよ。フィンランドにいるんじゃなかったのかよ。皆、心配してたんだよ。俺達、家族だろうが」

「あんたを迎えに来たんだよ」

爆音。拳銃でお袋は俺の頭をぶち抜いた。すると、俺の体は一瞬のうちに赤子と化して、お袋の母乳を飲んでいる。これが生まれ変わりというやつか。

人生って、いったいなんじゃい。死、そして、生命。生きるって何なんだろう。あの世、この世。ま、いいか。俺は、また、一から出直すよ。素晴らしき人生になりますように。


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