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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-1. アニスとシズアは手荒い歓迎を受ける

草原の中を歩く二人の男女の姿があった。


二人共、防具と剣を装備していることから、冒険者だと伺える。

どちらも二十代の中頃だろう、若いがその表情からあどけなさは感じられず、しっかりとした大人の雰囲気を(まと)っている。

背丈は世の中の傾向と同じく男性の方が拳一つ分高いとは言え、女性については平均を少し上回っている。


髪は男性が金髪で、女性がダークブラウン。顔かたちがまるで異なるので、兄弟には見えない。かと言って恋人同士にしては甘ったるさが感じられず、単なるパートナーと言うところか。

一見、美男美女のお似合いカップルなのだが、当人達にその気がある様子はまったくない。


「あーあ、暇だから魔物の討伐依頼を受けてみたけど、手応えが無くてつまらなかったわね」

「ラウ。暇と言うには語弊があると思うけどね。それに、公都の近くが危なくても困るから、弱い魔獣しかいなかったことは(むし)ろ喜ぶべきじゃないかな?」


物事を前向きに捉えようとする男性に対して、女性は冷たい目線を送る。


「トニー。貴方、もう少し冒険者らしく考えなさいな。冒険者はより強い敵と戦ってこそでしょう?それに敵が弱過ぎて有り余る体力を持て余しているのは、私と同じよね?」

「まあ、それはその通りなんだけどね」


右手を頭に当ててアハハと苦笑するトニーを見て、ラウと呼ばれた女性は呆れ顔になる。

その腰帯にある冒険者証にはラウラと書かれていた。女性の名はラウラと言うらしい。


「ねぇトニー、これから西の森に行ってみない?あそこなら、もう少し手応えのある魔獣がいるかも知れないわ」

「ラウ、気持ちは分からないでもないけど、今からでは西の森に行くには遅すぎるよ。帰りが夜になってからか、下手すれば野宿になってしまう」


「別に私はそれでも構わないのだけど」

「構う人達が沢山いるんだから、駄目だよ。君だって分かっているだろう?二人きりで野宿だなんて、誰かに知られたら大変なことになってしまうよ」


トニーの苦言に溜息を吐くラウラ。


「まったく、貴方はお堅いわね。まあ、そこが取り柄なんだけど。良いわ、西の森に行くのは諦めてあげる。でも、他に何をしたら良いかしらね。ワイバーンでも飛んで来れば思い切り戦えるんだけど」


言いながら、ラウラは空を見上げる。

青い空には疎らに雲がある程度で、他に見えるのもはない。

魔獣狩りに行って来た北西の森の木々の上には、小鳥が飛び交っているのが見える。


ここから魔法で小鳥を打ち落としてみようか。

いや、目的もなしに小鳥の命を奪うのは流石によろしくないとラウラは自重する。


と、もう少し遠くの方に何かが飛んでいるように見えた。

それが少しずつ大きくなっている気がする。


「トニー、北西の森の上に見えるのは、何かしら?」


ラウラに問われてトニーもそちらに目を向ける。


「本当だ。こっちに向かって飛んでいるようだね」

「何だかわかる?」

「ワイバーン?いや、違うように見えるけど、何だろう?」


「予告も無しにパルナムに近付く物は、すべて敵と判断して良いわよね」

「まあ、あの高さのままパルナムに近付けば、いずれにしても防空網に探知されて攻撃されるだろうな。運び屋は接近経路を知っているから、あそこから来ることはないだろうし」


トニーの返事を是と受け取ったラウラは、にっこりと微笑んだ。

そして魔法の詠唱を唱え始める。


「え?ラウ、いきなり攻撃しちゃうの?それは止めた方が良いと思うんだけど」


慌てるトニーに、笑顔を見せるラウラ。


「大丈夫、威嚇(いかく)にしておくから」


そして飛んで来る物に目を向け、狙いを定めると力ある言葉を叫ぶ。


「ファイアアロー」


めらめらと燃える火の矢が五本、狙った先に向けて飛び出した。

攻撃力より持続力を優先したこともあり、威力は大したことはない。当たったところで軽い火傷を負うかどうかだろう。


さて、どう反応してくるか。


ワクワクする気持ちが止められない。ラウラの口から自然と笑みがこぼれた。



* * *



アニスとシズアは、凧に乗って空を飛んでいた。

凧と言っても風を正面から受けて空を泳ぐ凧ではない。布で作った翼で風に乗り、滑空する凧だ。シズアに言わせれば、ワイバーン並みの速度で飛べる物らしい。


その凧に乗り、テナー山脈の南側にあるサリエラ村を出発したのは今朝のこと。

二人は元々はテナー山脈の北にあるアルト山脈の更に北、ザイアス子爵領のコッペル村に住んでいた。

そこから南の公都パルナムに向け、遠路はるばるやってきたのだが、そのパルナムももうすぐそこだ。


「アニー、そろそろ向こうの方に大きな街が見えてくると思うのだけど」

「それって、パルナムってこと?」

「ええ、そうよ」


シズアの言葉を聞いて、アニスは前方遠くの景色に注意を向ける。

見える範囲に大きな街はまだ無い。

あるのは森の木々だけだ。

アニスはそのまま暫く遠くを見ていた。


と、森の向こう側に草原が現れ、それから数分後に地平線から城壁が顔を出してきた。

その城壁は、遠目に見ても横に大きく広がっている。領都ザイナッハの城壁も空から眺めたことがあるが、それより余程大きい。


「パルナムだ。シズ、パルナムが見えて来た。凄く大きな街だよ」


街を見付けた喜びで笑顔になったアニスが、前方を指差しながらシズアに向かって叫ぶ。


「そうね。あれがパルナムね。ここからだと、あと大体50キロ(km)と言うところかな。今のまま行けば十数分で着いてしまうけど、それだと街を通り越してしまうから、もう少ししたら速度も高度も落としていくわね」


シズアは街の手前に見えている草原に着陸すべく、凧を操作する。

高速巡行のために使っていたエアブーストの付与魔法への魔力を少し減らすと、それに応じて凧の速度も下がっていく。それから翼の布を張っている紐を緩め、横棒を後ろにずらして翼の面積を増やす。

安全に着地するには翼が大きい方が良いのだ。


そんな風に凧の制御に集中していたシズア。だが突然、その耳にアニスの声が飛び込んできた。


「草原に人がいる。あっ、何か打ってきたっ!」

「え?」


シズアが前方に目を向けるやいなや、火の矢が五本、こちらに向かってきているのが目に入った。

そして、シズアが凧をどう動かすかを考える暇もなく、凧の脇を火の矢が掠めていった。


「何、今の?」

「ファイアアローだろうけど、どういうつもりだったんだろう。威嚇?いや、挑発かな?何にしてもシズの乗っている凧を狙ったのは許せない」


と、アニスがガサゴソし始めた。


「アニー、何をしてるの?」

「ん?あいつらのところに飛び降りる。私が降りたら問題ある?」


問われてシズアは一瞬考える。


「私だけだと体重が足りないから、アニーの代わりになるものを置いていって貰えない?」

「私の代わり?うーん、どうしようかな?あ、そか、シズ分かった」


アニスは凧の骨組みを手で掴むと身体を持ち上げ、それから手を離して凧の後方へと落ちていった。


バウッ。


シズアが隣を見ると、アニスのいたところにグレイウルフのアッシュが収まっている。


「アニーに呼ばれたのね。落ちないようにそこでジッとしててくれる?」


バウッ。


まあ、確かにアッシュならアニスより重いくらいなので問題はないが、魔獣と凧に乗ったことがあるのは私くらいではないかとシズアは思うのだった。


一方、アニスは凧から離脱すると、そのまま引力に引かれるように地上へと落ちていく。

地面に激突する直前に防具に付与したフライの魔法を発動させ、何の衝撃もなく地上に降り立つ。


アニスの前、少し離れたところに男女の冒険者が立っていた。男性は風属性に鑑定眼、女性は火と光属性。

つまり、火魔法であるファイアアローを放ったのは女性となる。

ファイアアローを目撃した時も、女性が魔法を放ったように見えていたので、それとも合致する。


ならばと、アニスは左手を剣の柄に添えて前に出る。目指すは女性だ。


「ラウに手出しはさせない」


男性が両手で剣を構えて、アニスの前に立ちはだかった。

だがアニスは男性のことなどお構い無しに前へと突き進む。

男性はアニスに向けて剣を振り下ろすものの、アニスはそれをさっと(かわ)しながら、フライの付与魔法を併用して跳躍、男性の右肩に左手を乗せると、その頭上を軽々と飛び越えた。

そして男性の後ろに着地したアニスは、そのまま目指す女性へと向かう。


パッと見、女性は美しかった。きりっとした目元に細い眉、小さな口にすっと伸びた鼻。パーティーに出れば、男性がわんさと寄って来そうな美貌だ。

なのになぜ冒険者をやっていて、私達にちょっかいを出してきたのだろう。

良く分からんと思いつつ、アニスは女性に迫る。


女性は剣を抜き、アニスに向けて構えている。しかし、アニスは全然迫力を感じられない。

トキノやランは凄かったよなと以前の戦いを思い起こす余裕すらある。


迫るアニスに女性が剣を振り下ろす。


「そんな速さじゃ、魔法を使うまでもないし」


ランの打ち込みに対して使っていた自己加速魔法(スロウワールド)を発動させることもなく、アニスは女性の剣の腹に左手を当てて押し退け、右の掌を女性の腹に。

その感触がとても柔らかい。

思い切り打ち込めば壊れてしまいそうなほど華奢な体つき。


アニスは溜息を吐くと、ぐっと右手を押し込むだけに留めた。

それでも女性は体勢を崩し、尻餅をついた。


「まったく、何がしたくて人の乗っている凧にファイアアローを撃ち込んで来たのか教えて欲しいんだけど?オバさん」


両手を腰に当て、尻餅を付いた女性の前で仁王立ちになるアニス。


「お、オバさん?私に対してオバさんだと?私はまだ23だぞ」

「私は13だからね。23なら十分オバさんだよ。それに23って完全な大人だよね?良い年してるのに丈の短いスカート履いて、尻餅ついて、下着を見せているんだから世話無いよ、まったく。スパッツくらい履いておいたらどうなの、オバさん?」


アニスの指摘で自分の姿勢に気付き、慌てて足を閉じて座り直す女性。


「オバさんオバさんと連呼するな。私にはラウラと言う名前がある」


ラウラは地面に座り込んだまま気の強そうな顔をアニスに向ける。


「礼儀知らずに名前で呼ばれる権利はないと思うけど?名前で呼んで欲しのなら、いきなり魔法を撃ち込んで来たことを謝ってよ」


ラウラの反論にも微動だにしないアニス。

そんなアニスの(たたず)まいに、遂にはラウラの方が折れた。


「お前達に向けて魔法を撃ったことは謝る。この通りだ」


謝罪の言葉と共に、ラウラはアニスに対して頭を下げる。

その姿を見て、アニスは再び溜息を吐き、そしてラウラに対して右手を差し出した。


「謝罪は受け入れるから、いい加減に立ち上がったら?ラウラ」


一瞬戸惑いの表情になったラウラだが、意を決してアニスの手を取り立ち上がる。


「気遣いありがとう。良ければ名前を聞かせて欲しいんだが」

「私はアニス」

「そうか、アニス。これからよろしくな」


「別にオバさんによろしくして貰わなくても良いんだけど」

「だから私はオバさんじゃなくてラウラだ」


互いに微笑みながら、視線で火花を散らす二人。

そんな二人を見た男性が一言。


「いやぁ、君達、気が合いそうだねぇ」


「「どこら辺が?」」


見事にハモッたラウラとアニスだった。


まあ、アニスもファイアアローの威力がそれほどでもないことは分かっているんですけどね。でも、腹を立てているのも事実です。


さて、第五A章が始まりました。第六章ではありません。元々第五章の一部でしたからね。第五章のAppendix Aみたいなものです。が、おまけではありません。本編です。各話タイトルは 5a-# になります。


さっそくオバさんが登場しました。パルナム編(第五A章)、この先が楽しみですねぇ。って、すみません、勝手に盛り上がっております。


(2023/11/18付記) ごめんなさい。ラウラの年齢を間違えておりました。正しくは23歳です。修正いたしました。

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