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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-24. 間話・エルザは王女の暴走を心配する

ザイアスの街の夜更け。


薬屋兼魔具屋の店主、エルザ・サルトレイは、灯りを手にして店の地下へと降りていく。

地下のワイン蔵から今夜飲むワインを取り出すためではない。いや、ワインのことは(つい)でであって、地下に降りた本来の目的は他にある。


なのだが、エルザはまずワイン蔵に入り、地元産の赤ワインの棚の前に立った。


「そうね、今夜はソファーズ種の気分かしら」


そう呟くと、棚からペアナ村産のソファーズ種のボトルを抜き取る。

ペアナ村では幾つかのワイン用の葡萄を栽培しており、エルザはそれらのいずれも気に入っていたが、ここぞと言う時にはソファーズ種の赤ワインを選ぶことが多かった。


ともあれ、エルザは満足そうにワイン蔵を出ると、今度こそ本来の目的のために階段下の隠し部屋に入り込んだ。


そしてその部屋にある小さな机の前に座り、机の上に置いてある対話の鏡の魔具に被せた布を外す。


「さて、呼び出しが来るまで待ちましょうか」


エルザは腰につけた収納ポーチからワイングラスとコルク抜きを取り出し、ワインの栓を抜き、グラスにワインを注いだ。

グラスを持ち、軽く揺らして香りを立て、優雅にその匂いを嗅ぐ。


そしてワインを一口。


「んー、幸せ」


今日も一日、十分に働いた。

いつもなら夕飯と共にワインを飲んでいたところだが、外に出ていてそれができなかった。

しかし、ようやく飲める時間がやって来たのだ。


ソファーズ種の赤ワインは、酸味は抑え気味で、渋みの効いた深い味わいのワインだ。

これを飲むと、心身がリラックスして疲れが癒されていく感じがする。

仕事のことなど忘れて、このままとろけてしまいたい気分になる。


だがしかし、現実は甘くはない。

エルザがゆっくりまったりワインを楽しんでいるところに、魔具の下部にある知らせ灯が橙色に点滅し出し、着信を告げてきた。

仕事の時間だ。


エルザは、ワイングラスを手にしたまま、気だるげに対話の鏡に魔力を流して起動させる。

先週は王女が出て驚いたが、流石に二週連続は無いだろうと、エルザは軽い気持ちで応答した。


「エルザです」


そう言いながら、エルザはあれ?と想う。画面が明るくならず、相手の顔が見えない。


「夜中までお疲れ様です」


先方は名乗らなかったが、声だけで誰かは分かった。


「王女様、前回に引き続きとは畏れ多いことです」

「堅苦しい言葉は無しにして頂戴。それで、そちらの領地の動きは?」

「大きな動きはありません。前回お話しした姉妹の少女達が旅に出たのですが、直前、子爵の呼び出しを受けていました。依頼を受けた可能性があります」


それまでのまったりとした空気を振り払い、エルザはワイングラスを机の上に置くと、姿勢を正して王女に報告する。


「依頼の内容は分からないのですか?」

「はい、残念ながら。考えられるのは、密書の搬送でしょうか」

「隣接する第一王子派への書状とは考え難いですね。となると」

「南の公爵様宛ではないかと思われます」


ここまでは、説明せずとも王女も理解している筈。

案の定、どうしてそう考えたのかの質問は来ない。


「二人のその後の足取りは?」

「出発した翌日にはザイナッハで目撃されています」

「早いですね。例のワイバーンと同じくらい早く飛べる乗り物ですか」

「はい、おそらく。ただ、ザイナッハには長居せず、南に向けて出発しています」


言うまでもなく、ザイナッハを治める侯爵を訪問してはいない。


「それで、二人は今どこに?」

「ザイナッハを出た後の目撃情報はありません。ですが、テナー山脈の南側にあるサリエラ村でギルド依頼を受けたようです」


冒険者パーティーがギルドの依頼を受けたことは、時間差はあれどギルド間で共有される。

アニス達がギルド依頼を受けたことをエルザが知ったのは、今日の昼のことだ。


「アルト山脈だけでなく、既にテナー山脈も超えているのですね。それであれば、南の公都パルナムまで、あともう一息ですね」

「その通りですが、ギルド依頼をこなすのに何日か掛かるでしょう」

「地方の村の依頼なんて、周辺の魔物の討伐程度ではないの?」


常識的に考えればその通りだ。


「いえ、村の近くを流れる川の水源調査となってました」

「あらそう。水源の調査?サリエラ?何か聞き覚えのある名前ですけど、何だったかしら?」


王女の様子は見えないが、首を傾げていそうに思える。

エルザは自分の知識が役に立てるかと口にしてみた。


「サリエラ巨大(せき)のことですか?」

「ええ、そうだわ。サリエラ巨大堰。確か、伝説の冒険者パーティーが作ったという逸話のある、王国随一の大きさを誇る堰だったわよね。アーサー・ミーツの話に出てきたことがあったわ」


王女の嬉しそうな声が響く。

アーサー・ミーツの物語の舞台となった土地の話になって嬉しいようだ。

伝説の冒険者パーティーに関する王女の情報源がスオウ・チダヤの推理小説で良いのか(はなは)だ疑問もあるが、王家から見れば伝説と言っても冒険者パーティーのことなど気に留めるほどのことでもないのだろう。


「それなのですが、奇妙な偶然がありまして」

「何かしら?」

「少女達が受けたギルド依頼ですが、春告草と言う別の冒険者パーティーとの共同受注になっています」

「共同受注なんて珍しく無いけれど、それがどうかしたの?」


「春告草には、今話していた伝説の冒険者パーティー光の翼のメンバーがいます。エルフ族のランと言う名のC級冒険者なのですが」

「C級?ああ、資格返上したのね。エルフならよくあることだわ」

「はい」


冒険者のランクは、基本的には一度上がると下がらない。だが、長命のエルフの場合、若いうちはバリバリと高ランクを目指しても、後になって上級を続けるのが嫌になる者が出てくることがあるのだ。

そのために一旦ランクの資格を返上して、D級からやり直せる制度がある。

ランもその制度を利用したと言うことだ。


「それにしても、あの少女達はエルフ族のランと出会ったと言うことなのね。光の翼は共和国独立の裏の立役者とも言われているわ。昔話をして貰えると良いわね」

「王女様もその話には興味がおありですか?」

「そうね、今の状況を打破する参考になるお話ならね」


「なら、接触してみますか?」

「どうしようかしら。いえ、今は止めておきましょう。それほどの有名人だと、他の陣営の目が光っているかもしれないし、無闇に接触しても嫌がられるだけでしょう。少女達と関係ができたのなら、少女達を通した方がきっと良い結果を生むわ」

「仰せのままに」


向こう側の映像が見えないながらも、エルザは右手を胸に当てて座りながら畏まる。


「それはともかく、サリエラ巨大堰を作ったときの冒険者の一人が再び巨大堰に向かうことになった訳ね」

「その通りです」

「アーサー・ミーツは、『偶然も重なれば、必然』と言いますけれど、今の話だけでは、必然性を見いだすのは難しそうに思えますね」

「はい。特に意図は無いのではないかと」


「ランが巨大堰に再訪するのも、少女達と出会ったのもね。とは言え、暫くは春告草の動きも追いかけましょうか。でもそれは南地域の担当者に任せましょう。貴女は引続きザイアス周辺の様子を探ってくださる?」

「畏まりました」


「それにしても、少女達がパルナムに来るまで、あと一週間くらい掛かりそうね」

「二人に会われるのですか?」

「私のところにまで来ればね。どんな二人なのか楽しみだわ」


王女の声が弾んでいる。

安全ために何処にいるかは尋ねられないが、言葉ぶりからは既にパルナムにいるように聞こえた。

あの二人についての話の何が、王女をそうさせたのだろうか。


「成人もしていないうちに、もうC級に手が届きそうな二人ですから、相当の跳ねっ返りですよ」

「裏表がなければ、幾ら元気があっても構わないわ。城の中は腹の探り合いばかりで、本っ当に詰まらないのよ」


まあ、そうだろうなとエルザは王女の心の内を察した。自分も派閥争いの只中に好んで入っていきたいとは思わない。

地方でワインを飲みながらノンビリ過ごすのが性に合っている。


「良い出会いになることをお祈りしております」

「ありがとう、エルザ。出会いは最初が肝心ですものね、精々歓迎してあげるわ」

「王女様の御心のままに」


畏れ多くて口には出せなかったが、王女の歓迎が行き過ぎたものにならないことを願うエルザだった。


エルザは王女と行動を共にしたことがあるのです。なので王女のことを良く知っていて、だからこそ心配なんですね。


さて、これで第五章が終わりなのですが、問題があります。

5-1.の後書きで、「ここに出てきた人が本編に登場するのは何話になるのでしょうか、お楽しみに。」と書きましたが、何と、本編に登場しないままで終わりになってしまいました。


いや、本当に申し訳ございません。本来、一章は十数話くらいで軽くいくつもりでしたが、前章も本章も二十話を越えている状況...。

このまま書き続けるとどうなるか不安があり、ともかく、第五章を一旦ここで切らせていただくこととしました。


勿論、王女は次章に出て来ますので、今少しお待ちいただければと思います。


パルナムでは他にも新しい面白キャラが出てくる予定です。筆者としてもとても楽しみです。


ではでは。引き続きお付き合いいただければ幸いです。


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