5-21. アニスとシズアは調査を進める
「では、あの被害者はザンデと名乗っていたのですね」
「はい。あの防具をザンデが着けていたのは良く見ていましたしも、防具に付いている印にも見覚えがあります」
「しかし、冒険者プレートにはカマルンドと書いてありましたけど」
「その名は聞いたことがありません。この村に来る前に使っていた名なのかも知れませんが、ここではずっとザンデと名乗っていました」
村長のエヴァンスは、シズアの問いに丁寧に答えた。
ここはサリエラ村の村長の家の応接間。
アニス達が死体を発見したのは二日前の夕方。日が翳りつつあったため、本格的な現場検証を行ったのは翌朝になってからだった。
春告草とも手分けして、辺り一体を隈無く調べたものの、証拠になりそうなものは何も見付からず。
仕方なくその場での調査は切り上ることとし、往きと同じ経路を反対方向に辿って、一日半かけてサリエラ村へ。
真っ直ぐ村長の家に行き、エヴァンスに事情を説明した後、青年団長のヤエルも交えて死体の検分をした。
それで得られた手掛かりが、冒険者登録したときに渡される冒険者プレートだったのだが、そこに書かれた名前には心当たりが無いらしい。
「では、ザンデについてご存知のことを教えて貰えますか?」
「彼がここに来たのは五年ほど前のことでしたか。それまでは冒険者をやっていたそうですが、年を重ねて衰えを感じてきたところに、足を怪我したので引退したと話していました。何故ここにと尋ねたら、米が旨いからだとだけ。それ以来、ここに住みついたのです。
ご承知のように村の特産品は米ですが、彼は米は作らずに季節の野菜を育てる程度で。でも、たまに魔獣の駆除をやってくれましたから、儂らとしては助かっていました」
「彼を最後に見たのは何時ですか?」
「三週間ほど前でしょうか?今年は例年に増して雨が少ないと話していたときに、川の水量も減っているように思うと話していたのを覚えています」
ふんふんと頷きながらシズアは手帳にメモを取る。
シズアの隣に座っているのはアニスではなくリョウとカズ。アニスはシズアの後ろに立っていた。
シズアの目の前にはエヴァンス。だがそこで、シズアはエヴァンスの隣に目を向ける。
「では、ヤエルはどうですか?」
死体検分のあと、ヤエルも村長の家に来ていた。
「俺も、その話をした時が最後だったと思う」
「そうですか」
メモを取る手を止めて、シズアは二人の様子を伺う。
「その時に、巨大堰に行く話はしていましたか?」
「何も言ってなかったな」
「ですね」
「ふむ」
シズアは手帳を眺めながら、手にしていたペンの柄で頬を二度ばかり叩く。
「ザンデは魔法は使えましたか?」
「風魔法が使えると聞いたことがある」
「探索魔法が得意だと言ってました。近くに魔獣がいれば確実に分かると自慢してましたよ。実際、何度も魔獣を狩っていましたし、本当の話だと思います」
「ザンデは風の探索魔法が得意、と」
口に出しながらメモを書くと、上目遣いに二人を見る。
「魔獣狩りは一人で?」
「大抵はそうですね。若いのを鍛えて欲しいと頼んだのですが、冒険者をやっていない奴は使えないから駄目だと言われまして」
「あいつが連れていっていたのはテッドくらいだな。テッドは冒険者をやっていたことがあるし、ゴーレムを使えるんで役に立つからと」
「なら、テッドが何か知っているかも知れませんね。後でテッドにも話を聞いてみましょう」
シズアは眼鏡のつるを摘まみ、眼鏡の位置を直す仕草をすると、再びペンを握った。
「因みに、ザンデとテッドの仲はどうでしたか?」
「あまり親密には見えなかったな」
「そうですね。まあ、ザンデは誰にもぶっきらぼうで、テッドについて特別何かあるようには見えませんでしたが、テッドはあまりザンデに近付きたがりませんでしたね」
「でも、一緒に魔獣狩りには行っていたと?」
「魔獣狩りは村のためでしたし、ザンデの腕が立つのは分かっていましたから、テッドとしては仕方なくだったのかも知れません」
シズアはメモを書き終えると、手帳を閉じた。
「お話ありがとうございます。それで、ザンデの家の中を調べたいのですけど、誰に許可を取れば?」
「彼には身寄りがありませんから、村の管理になります。なので、私の許可があればですが――」
そこでエヴァンスは一旦言葉を切った。
「貴女方は冒険者でしたよね。何故ザンデが死んだことについて調べているのでしょうか?」
まったくもってごもっともな疑問だ。
シズアは至極当然のように聞き取りをしているのだが、アニスから見れば、何の権利も無さそうに見えていたし、エヴァンスもそう思ったのだろう。
しかし、そんな質問にもシズアは怯まない。
「勿論、私が名探偵シズア先生だからです」
「あの、素人さんですよね?」
「素人でも名探偵ですが、何か?」
凄い。ビクともしない。
「あの、これがもし事件なら、捜査するのは憲兵の仕事ではないかと思うのですが」
シズアの勢いに押されつつも、エヴァンスはしっかりと聞き返す。
「そうですね。私は憲兵の仕事をするつもりはありません。ただ、真実を明らかにしたいだけです」
そこでシズアは姿勢を正す。
「ねぇ村長。貴方は憲兵が来るまでこの件を放置しておきたいのですか?遅くなればなるほど、真実が明らかになる可能性が遠退きますが」
「それは――でも、憲兵が――」
エヴァンスの表情に迷いの色が見える。
「では、こうしましょう。私達は憲兵が来るまで調査をする。憲兵が来たら、それまでの調査結果を憲兵にお渡しして、憲兵の指示に従います。それで問題ないですよね」
「――分かりました。それでお願いします」
結局、エヴァンスが折れた。
シズア達はヤエルにザンデの家まで連れていって貰うことになり、ザンデと共に村長の家を出た。
案内役のヤエルとシズアが先に歩き、そこにアニスがくっ付いて行く。その後ろに春告草が続く。
ヤエルの家は、同じ村の壁の中。それほど遠くはない。が、途中、ヤエルは前方から好都合な人物が来るのに気付いて声を掛けた。
「ようテッド、こちらの探偵の先生がお前と話したいそうだ」
テッドは、ヤエルが指し示したシズアを見て、眉を潜めた。
「先生、俺に何か用か?」
どうやらテッドの魔法を破ったことから、シズアが先生であることは認めているらしい。
となると、何かを警戒されているのだろうか。
「貴方は川の上流に巨大な堰で塞き止められた湖があることは知ってますよね?」
「い、いやぁ、俺は知らない」
そう言うテッドの目が泳いでいるように見える。
「そうですか」
そんなテッドの様子を気に掛けること無く、シズアは話を続ける。
「その湖の底の堰のすぐ脇のところで、ザンデの水死体が見付かりました。貴方はザンデとたまに魔獣狩りに出掛けていたと聞いたのですが、何か気付いたことがないかと思いまして」
「お、俺はあいつとは親しくは無いし。すみません、先を急ぐので」
そう言うと、テッドはそそくさと立ち去ってしまった。
「シズ、行っちゃったけど、良いの?」
「うん、まあ。それより今はザンデの家に行かないと」
シズアがヤエルに視線を向ける。と、ヤエルは再び歩き始めた。
ザンデの家は村の北西部、村を囲う壁の近くにあった。
古びた平屋建ての家は、最低限の手入れしかされていないように見える。
ヤエルが玄関の扉を開け、先に中へと入っていった。
続いてアニス、それからシズアと春告草の面々。
玄関から入ってすぐは、リビング兼ダイニングのような部屋で、食卓やソファが置いてある。暫く人の出入りがなかったために少し埃っぽいが、汚れてはいない。
その部屋には、幾つかの扉があった。
各々が違う扉を開き、その向こう側の様子を見ていたところ、エイミーが声を上げた。
「この部屋、紙が散乱してる」
そのままエイミーが中に入ろうとするが、シズアの声に阻まれる。
「エイミー、待って。証拠が見つかるかもしれないから」
呼び止められて固まったエイミーの脇から、部屋の中を覗き込むシズア。
「何かを探していたのかも知れないわね」
「何を探してたのかな?」
シズアの更に後ろから覗き込もうとするアニス。
「さぁ。これだけ散らかっていると、探し物が見付かったかどうかも分からないわね。でも、証拠を残してくれているかも知れないわ」
「証拠って何?」
首を傾げるアニスに、シズアが笑い掛ける。
「それは、これよ」
シズアは、右手の人差し指を伸ばしてみせた。
シズア先生、強いですね。名探偵とか言い切ってしまっていましたが、凄い度胸と言うか、何と言うか。それくらい肝が座っていたから、村長を言い任せたのかも知れません。
連日投稿は終わりと言いつつ、書けてしまったので投稿します。が、今度こそ次は間が空きます。




