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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-19. アニスとシズアは扉を開けたい

巨大堰の上の地面の真ん中に位置する建物は、石造りに見えるものの継ぎ目がない。

もしかしたら、魔法で作られたものなのかも知れないが、それを調べる術はなかった。

ただ、建物全体が結界で覆われているのはアニスにも分かる。

魔法でどこか一部を破壊して中へ入るのは無理そうだ。


「これが扉なのかしらね」


シズアの前には建物の壁に嵌め込まれているかのような黒褐色の金属板があった。

上部が半円形の扉のような形をしているが、ドアノブがない。

その上半分には絵が掘ってあり、その右下、金属板全体から逸れはそれの真ん中右寄りに(ぼたん)らしきものを並べたパネルがある。


リョウがそれに顔を近付けて、繁々と眺めていた。


「これ、操作盤だよな?正しく釦を押せば、入口が開くんじゃないか?」

「そうですね、先輩。でも、何を押せば良いのか分かりませんよ」

「四文字押してから『開』だと思うが?」


アニスも二人の後ろから覗き込む。


操作盤には横に四列、縦に三列、全部で十二の釦があり、その上に四つの枠が並んでいる。

釦には、それぞれ一つの文字が書かれていた。

文字の並びは次のようになっている。


[が][く][し][じ]

[た][だ][と][は]

[や][れ][ん][開]


この中から四文字選べと言うことらしい。


「でも、どうやって文字を選ぶのですかね?」

「やっぱり、この絵が関係しているんじゃないか?」


操作盤を見るために屈んでいたリョウが、背を伸ばして金属板に掘られた絵に目を移す。

そこに描かれているのは稲穂と、それを見守る一人の人物。その風貌は、神殿に祀られているザナウス神の姿に似ている。

しかし、神に実りを願うなら豊穣神アルミティアであるべきで、であれば女性の姿になる筈。なぜ、男性が描かれているのか。


「これって稲だよな。それに祝福を与えるように男性が手を広げているように見える。だとすると、神を描いているのか?でも、農業の神は女性神じゃなかったか?えーと、名前はなんだっけ?アルテミス神?」

「アルミティア神ですよ、先輩。神に失礼ですって」


アニスと同じことをリョウも考えていたようだ。


「そうだったな。でもともかく女神ではなく男神が描かれている。だとすると『だんしん(男神)』が答えか?」


試しにとリョウが[だ][ん][し][ん]を打ち込んでから[開]を押すが、何も起こらない。


「駄目か。『しんじゃ』『はんとし』『はんだん』『じしゃく』『れんしゃ』『たんれん』と、うーん、どれも違うな」

「絵と関係ないですからね。それにしても、この建物のこと、村長は何も言ってませんでしたね」


「そう言われればそうだな。サリエラ村と同じサリエラの名前を冠しているのだから、村に言い伝えでも残っていても良かった筈だが、何故だ?」


リョウは腕を組んで首を傾げたが、そうしたからと言って理由が思い付ける訳でもない。


「ねぇリョウ。サリエラ村の村長から聞いた話を覚えている?あの村で育てている米の由来について」


ランがリョウに話し掛ける。


「え?ああ、ランが村長に尋ねていた話のことか?それなら覚えてる。豊穣の女神に何度かお告げを貰いながら、村民たちがせっせと稲の品種改良を繰り返したんだったよな。それで、あの土地の気候に合う、美味しい米が生まれたって」

「それで米に名前を付けることにした」


「そうだ。村人たちは、女神――えーと、アルミティアだったよな――に米の名付けを願った。しかし、アルミティア神は自分ではなくザナウス神から名前を授かるようにと告げたんだ。それでその時の村長がわざわざ南の公都の神殿にまで行ってザナウス神にお伺いを立てて、オーバンブル米の名を頂いたんだったよな」


と、そこまで話したところでリョウが気付く。


「だから男神なのか。となると、四文字は『ざなうす』か?いや、操作盤にはそれらの文字は一文字も無いよな」

「先輩、もしかして『しんたく(神託)』じゃないですか?それなら全部あります」

「なるほど、神託で米の名を決めたからだな。試してみるか」


リョウは、順に[し][ん][た][く]と押してから、[開]の(ぼたん)を押下する。

すると、カチッと音がして、金属の扉のような物が、建物の内側に向けて少しずれた。

いや、「扉のような物」ではなく、実際に扉だった訳だ。


「おおっ、やったなカズ。冴えているな」

「当たって良かったです。中に入ってみますか?」

「ああ、だがちょっと待て」


中に入ろうとするカズを止めてリョウは後ろのランに振り向く。


「悪い、ラン。一応、中を確認して貰えるか?」

「任せて」


ランが扉を少しずつ開いて中へと入っていく。


「大丈夫、問題ない」


振り返り、ランが皆に伝える。

その言葉を受けてリョウとカズも扉を潜り、エイミーがその後に続いた。


「アニーは入らないの?」

「ん?勿論、行くよ」


シズアを先に中へと促しつつ、最後になったアニスは扉の前で立ち止まり、操作盤に見入る。


駄洒落(だじゃれ)神託(しんたく)とは、か」


操作盤を作った人物は、ザナウス神と話したことがあるのかも知れない。


想像でしかないが、多分、ザナウス神は冗談のつもりでオーバンブル米の名を出したのではないだろうか。「そんな駄洒落で名前を付けるな」との突っ込みが来るのを期待していたのだ。

しかし村長は有難くその名を頂戴してしまった。


突っ込み待ちのボケがスルーされ、駄洒落神はかなり落胆したのではないか。

先日のザナウス神の話し振りには、どう考えても突っ込みを期待しているように思わせる節があった。

その場にいたのが自分だったら突っ込んであげられたかも知れないが、当時の村長には冗談が通じなかったのだろう。


そして、操作盤の作成者にその話をした。だからその人は、こんな皮肉っぽい文字の並びを選んだのだ。

扉を開くために使う釦は「しんたく」の四文字だけ。すべての文字を使って意味のある言葉になることは、きっと村人には教えていない。


アニスはこういう洒落の利いた物が好きだ。

できれば作成者に会ってみたいが百年前の人、今も生きているかどうか。

いや、エルフやドワーフなど長生きする種族かも知れない。


旅する中で、手掛かりでも探してみるかとアニスは心に留めるのだった。


言葉遊びについて、「アニス達の住んでいるところでは言葉が違うんじゃないのか?」と言うご指摘もあるかも知れません。そこのところは、良い感じに訳しているとご理解いただければ助かります。


ほら、よく海外の小説の翻訳でも、駄洒落を上手く訳していますよね。


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