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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-18. アニスとシズアは川筋を下る

「見事に水が無くなっているわね」


谷底に下り立ったシズアが感想を漏らす。

普通なら川底に転がっていたであろう大小の石も、今は空気に(さら)されている。ただ、山に遮られて陽の光が直接入って来ないため、地面はまだじっとりしているし、石にこびりついている苔も枯れてはいない。


「ここ、浮遊魔法(フライ)が使えなかったら、(せき)の上に登るのに一苦労だったろうね」


アニスは上を見ていた。

堰は勿論平らで登るための手掛かりは何も無いが、その両脇とも切り立った断崖で、何の道具も無しに登るのは無理そうだ。

これを見てしまうと、遠回りしたのは正解だったと納得できる。


「アニーと私だけだったら問題ないよね」

「えっ?それはそうだけど、その話をまた持ち出すの?」


不満そうな表情をするアニスに、シズアは笑ってみせた。


「ううん、ごめん。そんなつもりで言ったのではないの。今回、春告草と一緒に魔獣と戦ったお蔭で、私も成長できたと思うし、C級昇格のための討伐ポイントも稼げたから、私は良かったと思ってるわ」

「それなら良いんだけどさ。で、シズもそろそろC級昇格の条件が満たせるよね?」


これまで、シズアでは危ないと判断した魔獣はアッシュとアニスで戦って倒していたので、アニスの方が討伐数は多くなっている。それに自分の契約魔獣との共闘は単独討伐扱いなので、シズアよりアニスの方が条件を満たす上で有利だったのだ。


結果として、アニスは既に冒険者ギルドで申請すればC級昇格できるまでになっている。

でも、アニスはシズアを待つことにしていた。一人で先に昇級する必要性を感じていないこともある。


それに、昇級要件を満たしていても昇級申請していない人なんて珍しくもない。

D級のままでいるサラもそうだし、ランやエイミーだってきっとそうだ。


もっとも、シズアが要件を満たせば、一緒にC級になるのは有りだとアニスは考えている。

だから今回のことで、シズアの討伐数が増えたのは嬉しいことだった。


シズアもアニスのそんな気持ちを知っているし、それに応えたい。


「そうね。私の場合、単独討伐が課題だけど。早いところ火の精霊と契約して火魔法が使えるようになりたいわ。そしたら、一人で戦ったって、C級魔獣なんて目じゃないと思うのよね」

「それはそうとは思うけど、火魔法は森の中では使わない方が良いからね。エイミーだって岩場でしか火魔法使ってなかったよね?」


「アニーが水魔法使って火が燃え広がらないようにすれば?」

「いや、それ、手伝ってることになっちゃうって。単独討伐にならないから」


「私が倒し終わってから火を消せば、アニーが手伝ったことにはならないと思わない?」

「えー、後始末するまでが戦いじゃないの?」


いくらシズアが好きでも、後先考えずに戦うような冒険者にはなって欲しくない。


「分かったわよ。火魔法は場所を考えて使うから。でも、単独討伐には時間が掛かるかも知れないわ」

「うん、それで良いよ」


気持ちが通じたようで嬉しいアニスは、ニコニコしながら返事をする。


「勿論、シズが危険になった時は、周りのことなんて考えずに身を守ってくれて良いからね」

「ええ、そうさせて貰うわ。それで、アニー、この川が村に向かっているのか確かめに行かない?」

「そだね。ラン先輩達が来るまで、もう少し掛かるだろうし」


アニス達は再び箒に跨り、谷底の川の跡を下流に向けて辿り始めた。


川筋は曲がりくねっていたので、アニスは速度を抑えて慎重に進む。その先に魔獣がいないかと警戒も忘れない。

そうしたことに神経を割いていたと言うのに、何故か急に頭に浮かんだものがある。


「ねえ、シズ。謎々なんだけど」

「謎々?どうして今?」

「何だか思い付いちゃって」

「良いけど、何?」


シズアが聞く気になってくれた。


「えーと、じゃあ問題。川を下っていくと魔獣に遭遇しました。それはどんな魔獣だったでしょう?」

「え?川の下の方にいる魔獣?河口(かこう)?海の魔獣?」


「残念。答えは火竜(かりゅう)。川の下の方は下流になるから」


「あー、なるほど。と言うか何で今そんなこと考えてるの?」

「うーん、何でだろうね」


意識していないところで駄洒落神(ザナウス)に感化されてしまったのかも知れないが、だとしても、余り嬉しくない。


ともあれ、そんな会話をしているうちに、谷の終わりが見えて来た。

川底が大きく落ちていて、水が流れていれば滝になっているだろう箇所を越える。

そこから更に進むと両側の崖がなくなり、開けた場所に出た。足の下には森が広がっている。


「この先に村があるよ。ほら、森の向こうに畑が見える」

「ああ、あれね、見えるわ。となると、やっぱりあの水門から水が流れ出るようにしないといけないということね」

「そだね」


それからも暫く二人は箒に乗って宙に浮いたまま森を眺めていた。


「さて、目的は果たしたし、今から戻ればラン先輩達が堰に着く頃になると思うから、そろそろ湖に戻ろっか?」

「ええ」


シズアの同意を得たアニスは、箒に乗ったまま回れ右して元来た川杉を逆に辿り始める。

再び崖の谷間に入っていくアニス達。

シズアはアニスに掴まったまま後ろに振り返り、段々と見えなくなる森を見ていた。が、遂にまったく見えなくなると前に向き直ってアニスに寄り掛かる。


そんなシズアにアニスが声を掛けた。


「あのさぁ。シズの魔力量でも堰の高上まで箒で昇れるよね?」

「えっ?大丈夫だと思うけど」


堰が幾ら高いと言っても、シズア達の村からザイアスの街までの距離とは比べようもない。

今は魔力量も満タンだし、余裕で昇れる。


「それじゃあ悪いけど、途中で交代してくれるかな?」

「ああ、そう言うこと?勿論、良いわよ」


あの堰は、アニスの魔力量で昇ったと言うには厳しい高さなのだ。

でも、シズアの魔力量ならば問題ない。

まあ、それに気が付けるのは魔力眼持ちのランだけだが、アニスは慎重に行きたかった。


そんなことで、堰に到着したリョウ達が目にしたのは、シズアの後からアニスがしがみついた格好で、二人が箒に乗って宙に浮いている姿だった。


その光景を目を丸くして眺めていたリョウとカズ。


「へえ、箒に乗って飛べるのか」

「まるで魔法使いみたいですね、先輩。あ、いや、魔法使いだから箒に乗っていて当たり前なのか?」


何だか良く分からない反応をしている。

だが、シズアは黙ってアニスに目を合わせると、箒を堰の上まで移動させてから皆の立っている地面に下ろした。


「調べに行っていたのか?」


ランがアニスとシズアに顔を向けて尋ねる。

その問いにシズアは頷き、続けて口を開いた。


「水門の様子を見て来ました。水門は空いてますけど、水が出てません。湖の側で詰まってますね」

「となると、湖底に積もったものを取り除く必要があるのだな」

「ええ。でも、水門はかなり高い位置にありましたから、それだけ積もったとなると、随分と長いこと放置されていたことになりますね」


「百年間放置され続けていたんじゃないのか?」


二人の会話にリョウが割り込んで来た。


「百年?どうして百年と?」


リョウの顔を見ながらシズアは首を傾げてみせた。


「そこに銘板があるんだ」


堰の壁を背にして立っていたリョウは、左後ろを指差して答えた。

シズアがそちらに目を向けると、壁に埋まっている物がある。

近付いてみると、濃い灰色の金属板が嵌め込まれていた。その金属板には文字が刻まれている。

シズアはその文字を口に出して読んだ。


「サリエラ巨大堰、1493年竣工」


今は1589年だから、建造されてから約百年が経っている。


「誰かがこれを作ったけれど、その後ずっと放置されていた?」

「サリエラ村で、この巨大堰の話は聞かなかったからな。忘れ去られたのか、元々知らなかったのか、どちらかじゃないのかなぁ」

「確かにそうかも知れませんね」


シズアはリョウの言葉に相槌を打つと、ランを見た。


「どちらにしても、湖底を綺麗にしないとですけど、まずは水門を締めたいですね」

「水門を動かす仕掛けとなると、きっとあの中だな」


ランが堰の中央に目を向ける。


そこには、石造りの建物がポツンと一つ建っていた。


魔法使いが箒で空を飛ぶ話は昔からありますが、昔は箒の穂先を前に跨ると考えられていたのですよね。


シズア達は、今風に柄の方を前に跨っています。それは前世のシズアがそう考えていたからです。

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