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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-12. アニスとシズアは寄り道を決める

無料の隧道の出口で待ち構えて通行料名目でお金を請求してくるこの男達は、悪い奴らだからどう料理しても構わないと言えば構わないが、さて、どうしたものか。

魔術眼のお蔭で、最早どれだけ魔力を使ってもシズアに魔女かと疑われる心配も無くなった。だから魔法も使いたい放題ではある。


だが、ここにいるのはシズアと悪者集団だけではない、アニス達の前にここに到着した馬車に乗っていた人達もいる。

彼らは男性二人の女性二人の四人組。格好からして冒険者パーティーに見えるものの、今一つちぐはぐな感じがしていた。


男性二人は魔力量はそれほどでもなく、帯剣していることを見ても剣士なのだろう。ただ、剣士にしては筋肉の付き具合が少なく頼りなさげだ。

一方の女性の側については、二人共魔力量が多い。しかも、複数の属性持ち。背の高い金髪ショートの女性は風魔法と水魔法、それに加えて魔力眼を持っている。

もう一人は絹のような艶のある薄桃色のストレートロング。前髪は目の上で切り揃えていて、可愛らしい。属性は火と光、そして鑑定眼持ちだ。


つまり、男性二人に対して女性二人の能力がやたらと高い。背の低い薄桃色の髪の女性は杖を持っているが、金髪の女性は帯剣しており魔法剣士に見えるし、その佇まいから相当な強さだと予想された。

更に女性達は二人共がエルフなのだ。


エルフは排他的な種族だと言われている。だから大抵のエルフは彼らの里に籠っていて、王国など里の外に出てくる者は珍しい部類に入る。その数少ないエルフが二人一緒にいて、頼りなさそうな男性二人とパーティーを組んでいる。

そのことがアニスの目には奇妙に映った。


と言っても、今この状態でそれを掘り下げている余裕はない。

当座の問題は、目の前の悪者達をどうするかだ。


「ねぇ、アニー」

「シズ、何?」


アニスが問い掛けに応じてシズアを見る。シズアは至って普通の様子だった。

金を要求されたとは言え、それ以上のことはされておらず、傍らにはアニスがいる。

シズアには怖れる要素はなく、冷静に男達を観察していた。


「若い男の人がいないように見えるのよね」

「そうだね」


指摘の通り、悪者の男達は若くても四十代と思われた。


「それに、武器が足りてないわ」

「うん、確かに」


男達は二十人弱いる。アニス達やもう一組の冒険者パーティーの目の前に立っている者は剣を持っているのだが、その後ろにいる者達の中には剣ではなく、(くわ)(かま)を手にしている者も含まれている。

勿論、鍬や鎌も武器として使えなくはない。だが、山賊にしては装備が貧弱なのだ。


他にもアニスが気付いたことがある。男達の魔力量のことだ。

男達の誰も彼もが、そこまで多くの魔力を持ってはいない。

となると、アニス達が魔法戦を仕掛ければ、結構あっさり勝てそうな気がする。

そのことは冒険者パーティーの金髪のエルフも気付いている筈。だが、同行している男達の後ろで黙って立っている。様子見しているのだろうか。


「何と言うか、この状況、私の脳細胞が(うず)くのよね」

「は?シズ、脳が疼くって、頭痛がしてきたってこと?」

「違うわよっ」


怒られた。


「アニー、良い?『脳細胞が疼く』って言うのは、何か事件が起きているかも知れないって予感がすることの比喩的な表現なの。アーサー・ミーツが事件の最初の方で、良く言うのよ。アニーもアーサー・ミーツの本、一冊くらい読んでみたら?」

「うん、まあ、検討する。けど、不当にお金を要求されているんだから、何も考えなくてもこれって事件だよね?」


「そう言うことを指摘したいのではないの。この人達がこんなことする背景に別の事件がありそうに思えるってことよ」

「えっ、何?シズってば、その事件かも知れないことに首を突っ込むつもり?」


アニスは男達をさっさと倒してしまって、南の公都パルナムに向かうつもりだったのだが、シズアは違うことを考えているのだと知って戸惑った。


「そうよ。他の人の迷惑だし、この人達にここでこんなことさせてはおけないじゃない。私達で事件を解決して、山賊みたいなことを止めさせるのよ」

「いや、事件かも分からないし、それに私達は探偵でもないんだからさぁ」


アニスは何とかシズアを思い留まらせるべく反論する。


「いいえ。素人探偵なのだから、自分で探偵だと言えば探偵になれるのよ。ただ、それだけだと感じが出ないと言うのなら――あ、そうそう、良いものがあった」


シズアは背負っていた収納サックを下に降ろすと、中から眼鏡を取り出して顔に掛けた。


「これでどう?」

「どうって?」

「眼鏡をしたら、私は先生になるのよ。探偵だって先生って呼ばれるのだから、丁度良いと思わない?」


ふふーんと、眼鏡のつるを指で摘まんで自慢げな表情のシズア。


「い、いや、呼び方は同じかも知れないけど、何か違うような。前の時は算盤(そろばん)を教える先生だったよね」

「あら、アニー、良く覚えていたわね。でも、細かいことを気にしては駄目よ。ただ、そうね。アニーはともかく、他の人には私が先生であることも分からないから、教えてあげないといけないか」


アニスに話しながら何かを得心したシズアは、顔の向きを変え、目の前の男達に向けて口を開いた。


「私は探偵のシズア先生。私の凄いところを見せてあげるから、誰か私を魔法で攻撃してみてくれる?」

「ちょ、ちょっと、シズ。何するつもり?」

「ん?ただ先生だと言ってもこの人達には分からないだろうから、分かって貰えることをしようと思って」


にっこり微笑みながら返事をするシズアに呆然とした表情を見せるアニス。


シズアに言われた男達も戸惑ったようにざわついていたが、ごそごそと相談した後、一人の男の方を向いた。


「テッド。お前のゴーレムを出してくれないか?あれで驚かせれば金を払う気になるだろう」


テッドと呼ばれた男は頷いて、左手に鍬を持ったまま右手を突き出して呪文を唱え始めた。


「命をはぐくむ母なる大地に我は(こいねが)う――」

「はっ」


シズアの気合いと共に魔力が使われる感触が無くなったテッドは、呪文を唱えるのを止めてシズアを見る。


「何をしたんだ?」

「魔法の発動を取り消しました」


ドヤ顔をしながら、眼鏡のつるを持って位置を直す仕草をするシズア。

シズアの掛けている眼鏡は、先日、アニスが魔法付与した眼鏡だ。

その眼鏡のお蔭でシズアには魔法の紋様が見えている。呪文を唱えた時に現れる魔法の紋様に自分の魔力を当てて破壊すれば、魔法は発動しない。

シズアはアニスに教わった通りのことをしたに過ぎないが、男達を驚かせる効果はあった。


「ま、まぐれだ。もう一度いくぞ」


狼狽えながらもテッドはもう一度詠唱を始める。


「命をはぐくむ母なる大地に我は(こいねが)う――」

「はっ」


先程と同じ光景が繰り返された。


「そんなことがあるのか。いや、あってたまるか」


テッドは三度目の詠唱を始めるが、今度はそれまでは見物していただけの周りの男達も口々に自分の得意とする魔法の呪文を唱え始めた。

そして現れる沢山の魔法の紋様。

それらをシズアが片っ端から壊していく。


だが、流石に四方八方に散らばっている男達のすべてにはシズアの目は届かず、破壊されずに残る紋様が出てきてしまう。

そうした紋様については、シズアの視線の動きに合わせてアニスがこっそり壊す。


「おおっ、探偵の先生、凄いな」


驚きが段々と感嘆へと変わっていく。


いや、魔法のことなんだから探偵とか関係ないよね。と、アニスは突っ込みを入れたいところではあったが、空気を乱してはいけないと沈黙を守る。


「私の凄さを分かって貰えて嬉しいです」


つい先ほど、男達に同時に詠唱されて焦っていたことをおくびにも出さず、シズアは澄まし顔で話を続けた。


「それで、貴方達のところで何が起きたのですか?」


男達は顔を見合わせていたが、そこにもう一組の冒険者パーティーの相手をしていた男がやってきた。


「私が事情を説明しよう」


そう発言した男の顔には悲壮な色が浮かんでいた。


うーん、これ、関わると面倒な奴では、とアニスは思いつつ、シズアの隣でじっとしていたのだった。


眼鏡を掛けたら「先生」の話は3-11.にも出て来ましたね。シズアの中ではそのルールで決まっているようです。


しかし、いつになれば南の公都に辿り着けるのやら。


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