表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
77/329

5-10. アニスとシズアは野宿する

アニスはシズアと凧に乗って空を飛んでいた。

領都を出たのは朝のことだ。


もう暫く泊まっていけば良いのにとモーリスやその家族には引き留められたのだが、先を急ぎたいからと理由になるか微妙な理由を付けて出てきた形だ。

シズアにまだ出発したくないと言われたら悩む場面ではあったものの、シズアにも異論はなかったようでアニスとしては助かった。


目指すは南の公都パルナム。そこに辿り着くまでには、途中、大きな山脈が二つ越えなければならない。一つはアルト山脈、もう一つはテナー山脈、どちらも分水嶺であり、山脈を越えると水系が変わる。


変わるのは水系だけではない。アルト山脈の北側には、王都や西の侯爵領などがある。

西の侯爵領に隣接する領地は西の侯爵の影響下だが、その先の王都側は中立派を中心として各派閥に属する貴族の領地が点在している。

アニス達の街と言うかザイアス子爵領もその中に含まれている。


アルト山脈を越えて南へと進むと、そこは西の公爵の勢力圏だ。西の公爵領は王国の西の端だが、公爵の勢力圏は二つの山脈に挟まれた地域の東端まで広がっている。


そしてテナー山脈を越えると、南の公爵の勢力圏になる。

南の公爵領はその南端で、川を隔てて共和国に接している。アニス達が目指している公都パルナムも、その川沿いにある。


これら二つの山脈を構成する山々は、高いものでは1,500メートルを超えるものもある。

どちらの山脈も火の山から繋がっており、避けようとすると王国の端まで行かなければならず、南の公都へ行くには随分と遠回りになる。


それが嫌なら峠を越える街道を使うしかない。ただ、峠の標高も500メートルを超えている。

アニス達が乗る凧の飛行高度は数百メートル。なのでシズアは山脈の手前で凧の高度を上げ、そのままアルト山脈の峠を凧で飛び越えた。


「シズ、本当に凧は早くて良いね。このままテナー山脈も越えられるともっと良かったんだけど」

「ええ、そうね。でも、テナー山脈にはワイバーンの生息地があるから、残念ながらこうはいかないわね。下に降りて街道の隧道(トンネル)を進まないと」


ワイバーンは、ドラゴンよりは小さいものの群れを成しているし、凧よりも機動性が高いので、空で出会いたい相手ではない。

そんなワイバーンのおかげで昔は峠を越えるのも一苦労だったらしいが、偉大な先人が峠を越える隧道を掘ってくれたお陰で安心して通れるようになった。


「隧道は二輪車で行くんだよね?私が運転するから」


暗くて狭い隧道の中で、シズアに暴走されては敵わないことから、アニスは先手を打って宣言する。


「良いわよ。凧を飛ばすので疲れたから、隧道の方はアニーに任せるわ」


都合の良いことにシズアも同意見で、ホッとするアニス。


「それで、どこに凧を下ろす?」

「そうね、どちらにしても隧道はテナー山脈にぶつかってから、暫く山脈沿いに南東方向へ進んだ先にあるから、その途中で良さそうな草原を見つけて降りることにするわ」

「今夜は野宿になるかな?」


アニスの声が弾んでいるように聴こえる。


「宿のある街に行くこともできると思うけど、アニーが野宿したいなら、私はそれで良いわ」

「そうだね、野宿にしよう。この先でも野宿することはあると思うけど、まず一回やっておきたいんだ」

「そうね。山の上の方にはワイバーンがいるけど、下の方はそんなに危険ではなさそうだから、野宿を試すには良さそうね」


領都ザイナッハを出てからシズアは凧を地上に下ろしていない。

お昼も凧を飛ばしながらパンを(かじ)り、水筒の水を飲んで済ませた。


そのお昼を食べたのはアルト山脈を越えて少ししてから。

それからもずっと凧を飛ばし続け、漸くテナー山脈が近づいてきた。

あまり近付きすぎてワイバーンに見つかると面倒なので、シズアは早々に凧の向きを山脈に添う方向に変える。


「ねぇシズ、あそこら辺はどう?近くに水もあるし」


アニスは先の方に見える湖の傍らにある空き地を指差した。


「そうね。水場のすぐ近くは獣達が来るかも知れないから、避けたいかな。あちらの奥に見える草原はどう?凧を下ろすのに良さそう。でも、街道はもっと先?」


シズアに問われて、アニスは光属性の遠見の魔法を起動する。

そして街道がどこにあるかを探った。


辺り一帯は森になっており、木々に隠れた道を見つけるのは難しい。

木のの少ない山肌に手掛かりを求めてテナー山脈に目を向けると、先の方の山の中腹に道らしきものが見えた。この辺りにある山道と言えば、峠を抜ける隧道に繋がるものしか考えられない。


「街道は、もう少し先だね。でも、見えてるから凧で飛ばなくても行けると思う」

「そう、ならそこの草原にしましょう」


シズアはゆっくり凧の高度を下げていき、危なげなく凧を草原に着地させた。


それから、二人は野営の準備を始める。

最初にアニスが取り出したのは四本の杭のようなもの。


「アニー、それは何?」

「これは結界の魔具だよ。地面に刺して使う奴」

「ああ、それで先が尖っているのね」

「そそ。これ、最初に起動してから広げるんだ。そうすれば、中に虫が入ってこないから」


アニスの手元には魔具が四つあった。アニスはその場でそれらすべてに魔力を注いで起動し、一つずつ離れたところに持っていき、地面に刺した。


四つの魔具を大きな正方形の頂点の位置に配置し終えたアニスは、満足そうに頷いてからシズアを見る。


「結界張れた?」

「うん、できたよ。シズもあの眼鏡を掛ければ見えるんじゃないかな」

「あっ、そうか。見てみる、見てみたい」


早速、眼鏡を取り出して顔に掛けてみるシズア。だが、ん?と首を傾げる。


「ねぇアニー、何も見えない」


シズアの可愛い仕草に、にっこり微笑むアニス。


「ここは結界の中だからだ分かり難いんだよ。結界の外から見たら?」

「あー、そうね。離れたところから見てみるのが良いわね」


シズアはタタタと走って結界の外に出、更に少し進んだところで振り返った。


「わぁっ、結界が見えた。ふーん、こんな感じになっているのね」


結界は、四つの魔具を結ぶ曲線を底面とした半球の様な形をしていた。魔具をきちんと円周になるように設置すれば綺麗な球面になるのだと思われるが、地面の凸凹(でこぼこ)などもあり、歪んでしまっているのは仕方の無いことだろう。


「満足したら中に戻ってね。結界の外は危ないから」

「ええ、分かってる」


アニスは周囲を警戒しながらも、テント一式を取り出したり野営の準備を進めていく。

程なく戻って来たシズアが、アニスに声を掛けた。


「ねぇ、今夜の食事は何にするの?」

「ん?収納サックにある物を適当に調理しようと思ってたけど?」

「せっかくの野宿だし、狩った獲物を食べたくはない?」


この言い回しは、シズア風のおねだりだ。


「良いよ。でも、どうしようかな。野宿の準備は終わらせたいし、あ、そか。アッシュに頼めば良いか」


アニスが契約魔獣の様子を伺うと、嬉しそうな反応があった。

なので、早速アニスは召喚魔法を発動させる。


「サモン、アッシュ」


バウッ。


召喚陣から現れたアッシュが元気よく挨拶してきた。


「来てくれたばかりで悪いけど、夕食のおかずになりそうな獲物を狩って来て貰っても良い?」


バウッ。


「余り遠くまで行かないでね。あと、強い魔獣がいるかも知れないから気を付けて」


バウッ。


了解の返事をしたアッシュは、野営地を出発し森の奥へと消えていった。


「この辺りだと何がいるんだろうね?」

「ウサギとか鳥とか?まあ、ともかくアッシュが戻って来る前にテントを張って火を起こしておこうよ」


アッシュを見送った二人は、野営の準備を再開する。

そしてテントを張り、火を起こして湯を沸かし、沸いたお湯でお茶(紅茶)を淹れる。

出掛けたアッシュからの呼び掛けがあったのは、やることを一通り終えたアニス達がお茶を飲みながらホッとしていた時だった。


「シズ、アッシュから知らせが来た。手伝って欲しいらしい」

「何か強い魔獣を戦っているってこと?」

「そういう感じではないみたい。でも、私は行くよ。シズはどうする?」


アニスが立ち上がると、シズアもそれに倣う。


「私も行く。ここから奥に進むなら、(ほうき)に乗っていく方が早いと思うから」


シズアの言う「箒」とは、アニスが浮遊(フライ)の魔法付与をした箒のことだ。宙に浮いて進むので、森の中の草むらを気にする必要がない。


「ありがとう、シズ。だけど、箒は私が操縦するからシズは後ろに乗って」


そう言いながら、アニスは収納サックから箒を取り出す。


「えっ?アニーの魔力量では箒は無理って言ってなかった?」

「そうだったんだけど、昨日、神殿に行った時に、とある出来事があって無理じゃなくなったんだよね」

「は?何それ?それって私の目の前で起きていた話ってこと?何で教えてくれなかったの?」


アニスに詰め寄るシズア。


「ザイナッハでは言い辛くて、今夜の食事の時に話すつもりだったんだ。ごめん、後で話すから」

「分かったわ。後できちんと話して貰うからね」


二人はアニスの操縦する箒に乗って、アッシュのところへと向かう。


アッシュが何に困っていたのかは、到着して直ぐに分かった。

狩った獲物が大き過ぎたのだ。

アニスは、目の前に横たわる白い大きな獣を見てから、シズアの方に顔を向ける。


「シズ、これ何か分かる?」

「図鑑でしか見たことがないけれど、多分、ロッキーゴート(岩場ヤギ)じゃないかな。確かに家の近くにはいないわね」


バウッ。


アッシュの吠え声が気持ち誇らしげだ。


アニスとしては、まさか獲物の運搬に呼び出されるとは思っていなかったが、この土地ならではの食材であれば大歓迎だ。

アッシュが狩った獲物を収納サックに収め、二人と一匹は野営地に戻った。


初めてのヤギの肉は、少し堅めだったが美味だった。一部は焼肉に、それからポトフに入れて存分に堪能した。勿論、功労者のアッシュにも食べさせたがそれでも沢山余ったので、残りは収納サックに仕舞っておいた。


そうして地場の味に舌鼓を打った食事の後、アニスはシズアに領都ザイナッハの神殿での出来事について語って聞かせたのだった。


繰り返しになりますが「凧」は、ハングライダーのような物ですので...。アニス達の言葉に「凧」しか言葉がないんです。当人たちは「飛行凧」とか造語も考えたらしいんですけれども採用には至らなかったようです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ