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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-5. アニスとシズアは魔具工房を訪れる

「推進板の調査を続けたいと聞いたのですが?」


アニスとシズアは、モーリスに連れられてラドウィル工房に来ていた。

二人は今、応接間のソファに二人並んで座っているところだ。その隣にはモーリスが、アニス達の目の前には二人のドワーフが腰掛けている。


シズアの問いに、向かって右側に座る工房長のエドガーが頷いた。


「ああ、そうだ。俺達が取り組んでいる研究の参考になりそうに思えてな。もう暫く調査に使わせて欲しいんだ」

「どうか、お願いします」


エドガーに続いて、隣に座るコルヴィンも真剣な面持ちで頭を下げた。


「アニーどうしようか?」


シズアが見ると、アニスも難しい顔をしている。


「できればどんな研究なのか、教えて欲しいんだけど」


口を開きながら、アニスは上目遣いにエドガーの様子を伺う。

対するエドガーは、アニスの要求に頷くと隣のコルヴィンを見た。


「アレを持って来てくれるか?それと投影機も」

「分かりました」


指示を受けたコルヴィンは、一旦部屋を出て行ったが、直ぐに戻って来た。

その右手には手提げ付きの箱をぶら下げ、左手では推進板を抱えている。


先に推進板をそっとテーブルの上に置くと、手提げ箱を脇に置いて蓋を開け、中から厚手の板のような物を取り出した。よく見ると、それは折り畳み式の脚が付いた箱で、天板部分には黒いガラスのような物が窓のように()めてあり、脇にツマミが一つだけ付いている。


コルヴィンはその箱の折り畳まれていた脚を広げてテーブルの上に乗せ、その下に推進板を配置した。そして箱のツマミを捻る。


「この箱のような物は何ですか?」

「これは魔法の紋様を映し出す魔具で、投影機と言います」

「魔力眼を持たない私でも魔法の紋様が見られるのですか?」

「はい」


コルヴィンの返事に、シズアが目を丸くして驚きを表した。

隣に座るアニスは、見たこともない魔具に興味津々だ。


「最初に説明しますと、我々がこの研究を始めたのは、調査を依頼された推進板に付与されていた魔法の紋様にゼペックの印が埋め込まれていたことに因ります。まずそれをお見せします」


説明しながらコルヴィンは右手から魔力を出して、推進板の紋様を浮かび上がらせる。

すると、投影機の天板越しに紋様が姿を現した。


「これが魔法の紋様かぁ。凄く綺麗」

「初めて見るけど、本当に美しいね。魔具職人達は、こんな美しい物を作っていたのか」


シズアとモーリスは映し出された紋様に見入っている。


「これは五層の複雑度の高い紋様ですから、格別と言えます。ですが、今ここで見て欲しいのは、紋様の表面中央にある印です。これがゼペックの印です」

「印は分かったが、それが研究にどう関係するんだい?」


「魔法の紋様は、魔法の発動のためのものですから、発動しようとする魔法に必要な情報しか含まれない筈と我々は考えて来ました。でも、どう考えてもゼペックの印は魔法の発動には無関係ですよね。なので、我々はこの紋様から、魔法の発動に関係の無い情報も含められるのだと知りました。

ならば、更に情報を付与できるかも知れないと考えたのです。例えばこんな風に」


コルヴィンは左手を浮き出た紋様の横から(かざ)し、紋様の(へり)を起点に新たな紋様を描き出した。


「私達は第六層として重ねようとしてみたのですが、それは上手くいかず、五層に継ぎ足す形であれば、任意の形の紋様を追加できることを発見しました。今、調べようとしているのは五層に継ぎ足す以外の紋様を追加する方法の有無と、このように紋様を追加できる紋様の条件についてです」


説明を聞いたモーリスは難しい表情で腕を組んでいる。


「何をしようとしているのかは分かったが、だとすると僕が頼んでいた推進板の複製作りには取り組んでいなかったと言うことかい?」

「い、いや、滅相もない。俺達だって調べられることは調べてたんだ」


慌てたように、エドガーが割り込んだ。


「王都の工房にだって問い合わせてみたんだ。そしたら、ゼペックの印がある五層複雑度6の紋様はゼペックが本気で複製をさせないつもりの時に使うものだから、例え直接確認しても複製できる可能性は低いと言われてしまったのさ」

「それはどこの工房なんだい?」

「勿論、ストゥラトゥール工房だよ、引退する前までゼペックが働いていた。他所(よそ)に訊いたってできる訳がありゃしない」

「ふむ」


モーリスは相変わらず手を組んだまま考え込んでいたが、少ししてアニスの方に視線を向けた。


「なあ、アニス。君はどう考える?研究内容は教えて貰えたが、そのために推進板を貸しても良いと思うか?」


元々研究内容を知りたいと言ったのは自分だったなとモーリスの言葉で思い出したアニス。

エドガー達の悩みは分かったが、どう話を落とすかが問題だ。


「答える前に、もう一つエドガー達に聞きたいんだけど、この研究が完成したらどんなことに使うつもりなの?」


エドガーは一瞬、困った顔をしたが、少しして口を開いた。


「これは記録の保管に使えるんじゃないかと考えている。紙は嵩張(かさば)るし、古くなると酸化してボロボロになるからな。沢山の文書を一つの紋様の一部にできれば、それを付与したり魔石に焼き付けたりすることで、場所を取らずに半永久的に保管できるようになる。その価値は大きいとは思わないか?」

「なるほど、魔石を汎用の記録媒体にするってことですね。自由に読み書きできるようになれば、とても役に立ちますね」


納得して頷いたのはアニスではなくシズア。

アニスもそんなシズアの様子を見て、価値がありそうな研究なのだなと理解する。


「ねぇ、エドガー。追加の元になる紋様は別に推進板の物でなくても良さそうだけど、他のは試してないの?」

「ああ、試した。だけど上手くいってない」

「五層の複雑度5の紋様でも?」

「え?ああ、そうだが、それがどうかしたか?」


不思議そうな表情でアニスを見詰めるエドガー。

まあ、知らなければそうなのだろうなと思いながら、アニスは先を続ける。


「その試してみた紋様も見せてくれる?」

「それは構わないが、失敗作だぞ」


エドガーが指示して、コルヴィンは再び部屋を出て今度は魔石を持って来た。

推進板を横に退けて魔石を投影機の下に置くと、魔石に刻まれた紋様が投影機の天板に映し出された。


「ふーん、なるほどね」


アニスは顎に手を当て、芝居がかったようにそれらしく頷いてみせる。

別にハッタリではないのだが、勿体ぶることが重要なのだ。


「何か分かるのか?」


エドガーの前のめりな様子に、アニスは微笑んだ。


「ねぇ、エドガー。私、研究に役立つ情報を持っていると思うよ。それで、物は相談なんだけど、その情報をあげる代わりに研究の成果を私達(うち)の商会でもタダで使わせて貰えないかな?」

「共同開発にしろってことか?」

「まあ、そんなとこ。あ、あと、投影機の作り方も教えて欲しいんだけど」


渋い顔をするエドガーだが、しかし、アニスはそんなことに構わず、ちゃっかり要求を上乗せする。


「これは俺達の研究なんだぞ。それを横から()(さら)おうって言うのか?」

「別々に研究したいんなら、それでも良いよ。間違いなく、うちが先に商品を出しちゃうと思うけど」

「そんなのハッタリに決まってる」


エドガーは突っぱねるが、幾分自信なさげだ。

落ちるのも時間の問題だろうと、アニスはにやにやしながら言葉を重ねる。


「こっちにはゼペックの印が描ける魔具職人が付いていることを忘れてない?これっくらいのこと、直ぐにできるよ」

「直ってどれくらいだ?」

「ん?そだねー、三日あれば十分かな。実のところ、付与魔法は何を使えば良いか分かってるから」

「はぁ?」


エドガーは口をあんぐりと開けたままだった。

しかし、しばらくすると口を閉じ、真面目な顔になる。


「それだったら俺達に教えないで、自分達で作れば良いじゃないか。何で教えようと考えた?」

「まあ、こっちにも都合があるからね。あっ、できれば発明登録はザイアスの街にして貰えない?ここだと税金が第一王子派に流れちゃうから」

「それなら王都でも良いか?一応、王都に支店があるんだ。お前さんと同じで、税金対策だ」


エドガーもニヤリと笑った。


「じゃあ、交渉成立で良い?言い忘れたけど、教えた内容は他所には秘密にしてよ」

「ああ、でも、本当に今すぐ教えられるのか?お前さん、魔具職人じゃないだろう?」

「違うからって何か問題?商人だって職人と話をしていれば覚えることもあるんだけど」

「まあ、そうだな。それで俺達はどうすれば良いんだ?」


問われたアニスは、投影機の天板を指差した。


「そこに見えている紋様、何が問題かは分かっている?推進板の紋様と比べているんだよね?」

「形が(いびつ)なのがいけないんだろうと考えている。だけど、どうしようもないんだよな。紋様が小さいから。もっと紋様が大きければ綺麗な形にできるんだが」

「だったら大きくすれば?」

「それができていたら、研究が完成していることになるよな?完成していないから継ぎ足せないんだ」


エドガーは悩ましげな様子で首を横に振る。


「任意の図形は継ぎ足せないけど、特定の紋様なら継ぎ足せるんだよ」

「はあ?そんな都合の良い紋様があるのか?何だそれは?」

「無の魔法。何の効果もない魔法。でも、私はその詠唱、結構好きなんだ」


そしてアニスは、右手の掌を上にして前へと差し出してから、詠唱を口ずさむ。


「我と共にあるこの世の力よ、我が望むものは無く、今はただそこで我らを見守り給え」


アニスの手の上に現れた無の魔法の紋様を、エドガーとコルヴィンは呆然と眺めていた。


エドガーとコルヴィンはアニスが魔力眼持ちであるとは露ほども考えていません。と言うのも、彼らの魔力眼にはアニスの魔力は水属性であると映っているからなんですね。


見え過ぎていると、それに囚われがちであると言うことです。


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