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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-2. アニスとシズアは旅の準備をする

「ねぇ、アニー。防寒着は何を持っていけば良いかな?」


冬物の衣類が入ったタンスの引き出しを見ながら、シズアはアニスに問い掛ける。


「これから南の方に行くのに防寒着が必要かなぁ?」


机に向かって魔具作りをしていたアニスは、椅子から立ち上がり、腰を伸ばしながら首を傾げる。


「途中で山脈を越えないといけないみたいだから、寒くないか心配なのよね。それに凧に長時間乗ってても、身体が冷えると思うし」

「そうだねぇ。だったら、長袖のシャツにセーターと上着とタイツ?上着以外は着替えることを考えても二つずつくらいあれば良いんじゃない?いくら収納サックの容量が大きいと言っても、荷物は増やし過ぎない方が良いと思うんだけど」


「まあ、確かにね。でも、行った先で何が手に入るか分からないし」

「シズは心配性だよね。どうしても寒かったら、そこの魔獣か猛獣を倒して毛皮を取れば良くない?」

「それもそうか」


楽観的なアニスの意見を、シズアも受け入れることにしたようだ。


シズアは前世の記憶を持っている。いわゆる転生者だ。なので(たま)に前世の感覚で物を言う時がある。

防寒着のことも、少し前世の感覚に引っ張られていたのではとアニスは捉えていた。ただ、前世の記憶が蘇ったのはシズアが十歳の誕生日を迎えた時で、(わず)か数か月前でしかない。それまでもずっと同じ環境で暮らしていたことから、シズアにしてもアニスの感覚を分からないでもないのだ。


なお、シズアが転生者であることは当初アニスしか知らない秘密だった。

今では冒険者のサラや賢者タキも知っているが、その二人が知っていることをシズアは知らない。それは魔女である二人にシズアを守るのを手伝って貰うためにアニスが教えたからであるが、しかし魔女のことは秘中の秘、アニスはシズアにすら話していない。


その後、事件に巻き込まれ死にそうになったアニスは、生き延びるために魔女になった。

生まれた時から全属性が使える虹色の魔法使いであったものの、それまでは魔力量の不足で上位魔法は満足に使えなかったアニス。しかし、魔女になった今はまったく問題なく使えるようになっている。


とは言え魔女のことは人には言えない。アニスはシズアにすら魔女になったことは伏せているし、なので魔力を自由に操れるようになったことも隠している。

もっとも、これまでも魔力量が少なくて不便なことは殆どなかったことから、日頃は魔女の力による魔力の水増しはしていない。だから例えイラのように魔力が感じられる相手にも、アニスが魔女であるとは気付かれない筈だ。


そんな風に、他人には言えない秘密を抱えるアニスとシズアではあるが、二人の姉妹は今、旅の準備をしていた。

火の魔法を使いたいと思うシズアのために火の精霊を探しに行くのだ。


シズアの得意属性は風魔法。火魔法がまったく使えないかと言えばそうではなく、初級魔法のファイヤは使える。が、火力は弱く、焚火(たきび)を起こす程度にしか使えない。

シズアは火属性の上級魔法や、その上位の炎魔法を使いたいのだ。そのためには火の精霊との契約が必要になる。


そして火の精霊が多くいるところと言えば火の山だ。情報通のエルザにも聞いてみたが、やはり火の山を勧められた。

しかも、公都パルナムから北へ向かうのが一番良いとも。


そうしたことから、アニス達はパルナムを経由する前提で旅の準備をしている。山脈を越えるのもパルナムへ行くためだ。


「そう言えばアニー。パンは買えた?」

「うん、買えたよ。マーサにいつもより多く仕入れて貰っておいたんだ」

「なるほど」


マーサはアニス達の伯母だ。マーサは街で食堂付きの宿屋をやっていて、アニスは朝から昼にかけて手伝いに行っている。

そのマーサにパンを多く仕入れて貰っておけば、アニスが手伝いに行ったついでにパンを手に入れられるという寸法だ。


「マーサには、何で六十個もパンを買うのかって聞かれちゃったよ」

「何て答えたの?」

「シズと二人で朝昼晩一つずつ食べたら十日で無くなっちゃうよねって」

「それで何か言われた?」


「そんな野宿ばかりしなくても良いんじゃないかってさ。街に寄れば宿も食堂もあるし、そこで美味しい物を食べた方が良いと思うよってね」

「それは確かにね。でも、途中でダンジョンに潜ることになるかも知れないし、野宿の備えをしておいても損はないわ。ああ、アニー、野宿と言えば、調理用具は準備できてる?」

「もっちろん」


アニスは嬉しそうに収納サックを手に取ると、それを膝の上に乗せて椅子に座り中身を順番に取り出し始めた。


「大小のお鍋にフライパンとその蓋、お玉にトング、やかんと紅茶ポット、まな板に包丁とピーラー、それから大きい魔力コンロに小さい魔力コンロ。ちゃんと安全機能を付けておいたよ」

「安全機能?もしかして、オドウェルのところにあった図面の?」

「うん、そう、あの手の奴」

「でもあれ、王都の魔具職人が考えたものよね?勝手に使うと不味(まず)くない?」


シズアは二輪車や算盤を発明登録している。だから他人の発明を勝手に使うのはいけないことだと考えているのだ。

でも、そんなシズアにアニスは微笑みながら首を横に振る。


「自分で使う分には問題ないよ。それを売ってしまうのが駄目なだけで。まあ、このコンロの場合、同じ物だと言われないように少し機能も作り替えてあるけどね」

「どんな風に?」

「まず温度を設定できるようにして、その温度になったらそれ以上熱くならないように火力を抑えるようにした。それから、直角以上に傾いたら勝手に消えるようにもしておいた」


「いや、それ、安全機能が全然違うものになってるよね?」

「まー、実はそうなんだけどね」


ジーっと目を細めるシズアに、手を頭の後ろにあててアハハと笑うアニス。


「はぁ、まったくアニーってば。それも賢者様に作って貰ったことにするの?」

「そうだね。そうするしかないかな」


魔力コンロは魔具の一種。魔具は道具に魔法を付与して作るのだが、魔法を付与できるのはだいたいが魔力眼を持った魔具職人だけだ。アニスも魔力眼を持ち、魔力付与もできるのだが、シズア以外には魔力眼を持っていることを明かしていない。だから、自分で魔法付与しても賢者にお願いして付与して貰ったことにしている。


ただ、最近、その回数が増えていて、他の人にはやっていないのにアニス達だけに何故それだけ賢者が手助けするのか説明が苦しくなっているような気がしないでもない。

それどころか、実は賢者が助けているのではなくアニスがやっているのでは、と疑う者が出てきてもおかしくはない。


まあ、魔女となってしまった今となっては、魔力眼を持ち魔法付与ができることが他人に知られたとしても些細な話に思えてきている。

ただ、そこからなし崩し的に虹色の魔法使いであると分かり、魔女ではないかと疑われるのは避けたいところ。

そうを考えると、何はともあれ、まずは現状を維持した方が良さそうにアニスには思えた。


「うん、やっぱり賢者様のせいにしよう」

「賢者様のせいって、もう少し言い方を考えたら?賢者様に申し訳ないわ」


シズアは腰に手を当ててアニスに怒った顔をする。

アニスは軽く肩を(すく)めると、取り出してみせた調理用具を収納サックへと戻し始めた。


「そうだね。何にしても、私、賢者様には感謝しているよ」


命も助けて貰ったしね、と心の中で付け加える。


そんな時、遠くから近付くものがあるとアニスの知覚が伝えてきた。魔女の力の眼が何かを捉えている。大きめの動物とその後ろに人が四人乗った乗り物、となると馬車だろうか。

村の人が農耕用に使う荷馬車にしては速いし、屋根がある。村には乗合馬車は通っていないので、何だろうかと考えていると、その馬車がアニス達の家の前で停まった。


そして程なく、玄関の扉をノッカーで叩く音が聞こえて来て、母のサマンサが応対に出た。


「誰か来たみたいだね」


アニスが伝えると、シズアはきょとんとした顔をした。


「メッセンジャーか、荷物の配達ではないの?」

「違うと思うよ」


いつもならシズアの言う通りなのだが、どちらも複数人で来たりはしない。

アニスの力の眼はまだ人相など細かいことが分かるところまで熟練度が上がっていないので、誰なのかを知りたければ部屋の扉を開けて覗くしかないが、来客ごとに野次馬根性出すのも気が引ける。


そんなことからアニスは椅子から立たずに行動するのを躊躇(ためら)っていたが、アニスが何をしなくとも、サマンサの方が部屋の扉を開けにきて状況が明らかになる。


「二人共、こっちに来て貰える?貴女方にお客様よ」

「お客様?」


サマンサが扉を開けたお蔭で、ウィンドビジョンの魔法で扉の向こう側が見えるようになった。だが、アニスは魔法で見ることはせず、さっさとリビングへと移動した。

来客のうち、二人は知らないが一人は会ったことがある人物だった。イラの家の執事だ。


うーむ、このパターンだと、またイラの家絡みの何かで時間が取られそうな気がする。


旅の出発が遅れるようなことにならないようにとアニスは祈るのだった。


この話の冒頭、アニスが机の上で作っていたのは、結界の魔具でした。


さて、第一章から話に出ていた火の精霊探しの旅にようやく出掛けられることになったようです。


ここまでが長かったですね...。


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